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四話「思考の果て」

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 久々に親にガチで怒られた。
 いや、そんなのはどーでもいい、どーでもいいんだよ。親に怒られようが、先生になにを言われようが、そんなのはどーでもいい。オレにとって、そんな些細なことよりも学校に行けずに、パンチラを拝むことが出来なくなった――っていうのが問題であって、誰に怒られようが、誰に貶されようが、そんなのは本当にどーでもいいんだ。
 二日前、あの紙を開いたことで、オレの学校生活は大いに変わってしまった。
 オレは、ユカリから逃げるために奇声を出し「トイレに行く」宣言をした時よりも、クラスに戻りにくくなった。
 なにより、その紙のせいで、オレたちパンチラ同好会は存続の危機を迎えた。いや、もう存続はできないだろう。
 そしてなにより、あの紙のせいでこのプリントの山だよ。クソッ。



 屋上に吹くささやかな風が嵐のような強い風に変わった。
「……なんだよ、これ」
 紙を開き、オレは自分の目を疑った。
 全身が震える。恐怖……違う、なんだこれは、なにかで体が震えているのはわかるが、どういう感情から来る震えなのか、自分でも分からない。
「……その紙に書いてあることって、本当なの?」ユカリがオレの目を見つめ言った。
 否定は出来なかった――というか、そこに書かれていることが全て事実だったからだ。
 紙にはこう書かれていた。

 “男子生徒、生徒会副会長のパンチラを覗くため大胆スライディング!!
  その後、パンチラを目指した男子生徒はこのように、鼻血を出しながら気絶。
  放課後、このように誰も居ない教室に男子生徒とその他二人が集まり、その日見たパンチラについて談笑。まるで、その日得た、獲物を自慢するかのように見たパンジラを自慢していた。”
 
 しかも、その文に添えるように、どのように撮ったのか知らないが、オレがスライディングを決めている写真、鼻血を出し伸びている写真、談笑する三人の写真が載せてあった。
「ねえ、……本当なの? これ、目隠されてるけど明らかにあんたよね? 後、この二人っていうのも後ろ姿だからアレだけど、あの時の二人だよね?」
 オレはユカリの問に何一つ答えず、その紙をひらすら読み返した。
 どうなのよ! とオレの肩を揺らすユカリ、それを無視して、紙を読み返すオレ。
 なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ、なんでこんな事書いてあるんだよ、なんなんだよ、誰なんだよ、この写真に写ってる奴。誰なんだよ……。
 揺れる視線、困惑する感情、どこからともなく来る体の震え。なんなんだ、この状況。どうなってるんだ、この状況。
 体感時間では永遠に思えたユカリの肩揺らしが止まったが、オレはそんな些細なことに気づけなかった。
 そして、肩揺らしをやめたユカリがオレに言った。
「やっぱり、あたしのあの写真撮ったのあんただったんだ。……最低。信じたのがバカみたい」
 風が止んだ。全くの無風。
 屋上から見える風景は色あせ、セピア色に見える……が、ただひとつ、オレが持っているこの紙だけは、何故かフルカラーに見える。
 終わったな、オレは純粋にそう思った。
 いつの間にか、体の震えも止まり、今は謎の空虚感がオレを襲っていた。
 心地のいい空虚感だった。心に大きな穴がポッカリ開き、そこから何か大切なものがいろいろと出ていく、そんな感覚だった。
 終わった、何もかもが終わったんだ。
 その後、屋上で意味もなく立ち続けていると、どこともともなく学年主任の先生がオレのところに来て、オレを生徒指導室なる監禁部屋に移動させた。
「でだな、今朝ばら撒かれていたこの紙に書いてあるのは事実なんかね?」
 四十後半だろうか、短髪でまだらに白髪が履いている柔道部顧問であり、オレの学年の学年主任の先生がオレに訊いた。
「……それがオレって証拠がどこにあるんですか?」
 自分でも馬鹿げていると思った。目の部分が隠れていると言っても、この写真に写っているのは明らかにオレだ。
「明らかにお前じゃないか」学年主任は顔を真っ赤にして。「高校生になっても、自分のやったことがわからんのか? ずいぶんとお前は自分に正直に生きてるみたいだな、いいなあ。本当にいいなあ。でも、その結果がコレなんだが、どう思う?」
「……どうも思いません」
「で、認めるの? それによって、あのーアレが変わるよアレが」
 多分、停学の長さとかその辺の話だろう。このまま認めないでうだうだ引っ張るのもいいが、これは明らかにオレだ。自分でしたことくらい自分が一番わかってるし、なにより、この無駄な説教を早く終わらせたかった。
「はい、オレがやりました」
 もういいだろ、これで。
 担任の先生は学年主任の隣に座ってなんも言わないし、もう、なんなんだよこれ……。
「んでだ、まだ話は終わってない」
 後は停学の長さとか、自宅学習についてだとかその辺なんだろうと思っていたら、とんでもなかった。
「後の、この写真に写ってる二人は誰なんだ?」
 運良く? あの二人についてはまだバレていないらしい。これは、パンチラ同好会のためにも、二人については死守することにした。たとえ、オレが停学だけですまくなったとしても、オレはあの二人にパンチラ同好会を続けてもらいたかった。なのでオレは学年主任の目を睨みつけて言った。「知りません」と。



 その後、学年主任に殴られたり、親を呼び出され殴られたり、その影響で顔が腫れ上がったりしたが、もう、今となってはどーでもいい。
 幸い、オレは停学一週間で住んだ。学年主任がオレを殴ったことと、目頭が隠れているので、一応、オレじゃない可能性もあるとのことだったが、オレが自供してるんだから、それはオレなんだよ。
 あの後すぐにカワサキくんと、ショウゴにこう警告メールを出した。
『どこで狙われているか分からないのでパンチラは当分の間控えること。後、自分から名前を出すことはない。本当に頼むから出さないでくれ。』
 カワサキくんは自首しようとしてたらしいが、なんとかオレの説得で自首するのを辞めた。
 ショウゴはショウゴで何故かぶち切れ? 「オレに考えがある」というメールが来てから、連絡が取れなくなった。カワサキくんの話だと学校には着ているようだが、あれから一度も会っていないので、ショウゴが何をしているのかよく分からないとのことだった。
 最悪だ。
 純粋に最悪だ。
 だが、この状況、何かが変だ。考えれば考えるだけ、変だ。
 まず一に、何故、あの鉄のスカートと言われていた生徒会副会長が、スカートを折ってい短くしていたかだ。状況が状況なだけにまるで誰かに見せるために、いや考えすぎか?
 しかし、何故、今なのだ。もう一年以上、パンチラ同好会をやってきたが、何故今パパラッチされたのだ。分からない。あの写真の撮り方からして随分前からオレの存在に気づいていたと思うのだが、何故、あの時だけ写真を撮り、しかも、あのような紙を校内にバラ撒いたのだ?
 分からない、全く持って分からない。
 しかもユカリのパンチラ写真の売買についてもそうだ、何かが変だ。
 停学解除まで後四日も残っている。学校に行けないので、あの時、何が起きたのかを冷静に考える事しかできないが、考えれば考えるだけ謎が浮かんでくる。
 ……まあ、オレの考えすぎか。
 にしても、この課題、マジで多すぎだろ。一週間で終わらせられる分量じゃねーぞこれ、クソ。でもやるしかねえ、あの学年主任に「やってやるよ!」とか言っちゃったし……ハァ。
 右手に持つ筆を動かす。授業だけは真面目に受けていたせいか、意外と筆の進みは早かったが、はやり、分からない問題と言うのは出てくる。
 いつもならユカリに教えてもらうところだが、あんなことがあっては……。
 あの紙を見つけてから隣の家のオレの部屋と隣接する部屋(ユカリの部屋)の灯りはついていない。学校はもうとっくに終わった時間だというのに、自分の部屋に戻ってないのかあいつ。……まあ、そりゃそうだよな、盗撮魔かもしれない奴が隣の家で、しかも部屋が接してたら嫌だよな。
 しかし、ユカリのやつ、なんでカワサキくんとショウゴのこと先生に言わないんだろう? 言えば彼らも一発で停学だっただろうに、彼らが停学になっていないところを見ると、先生に言ってないみたいだし。
 ……また余計なことを考えてしまった。
 とりあえず、この山のように聳え立つプリントを片付けるしかないが腹の虫はやっぱり収まらん。
 クソっ、あの写真を撮った奴を見つけて、絶対に借りを返してやる。クソッ。……ハァ。
4

G.E. 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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