ショートカットのアイコンをWクリックする。画面が暗転し、フルスクリーン表示で始めに映るのは、簡素なロゴマーク。次いでタイトル。
その、ゲームの名は。
***
軽い、というのが第一印象だった。人に対する評価の話じゃない。ネットゲームの話だ。
このMMORPGを始めて2時間、最初の拠点となる「巣」からようやく外に出て、周辺の雑魚相手に死闘を演じながら、俺はそんな感想を抱いていた。
PCのグラフィックはお粗末、よりはマシ程度だったが、技のエフェクトまでいちいち手描きなのは恐れ入った。キャラクタよりもむしろそちらに力を入れているように思える。
「それにしたって割り切りすぎな気もするがな……」
何しろ操作できるキャラクタはすべて人型どころかまともな生命の形をしていない。「単純な形の立体」しかPCとして使えないのだ。それはプレイする前に見つけておいたまとめwikiでも書かれていたし、「巣」で見かけたPCが皆、数学あるいは算数の授業で見かけたような姿のやつらばかりだったことからも分かる。
なお開始時の選択肢は「球」と「四角錘」の2種のみである。1枚絵とテキストだけで進む、手抜き感いちじるしいチュートリアルによれば「球」は前衛系、「四角錘」は後衛系であるらしい。公開されて半年ほどのこのゲームは今、ちょうど成長期のような時期にあり、「巣」では俺と同じような開始直後のノービス――初心者たちが球と四角錘の山を築いていた。
画面の中では俺の操る「球」――PC名「octo」が初期装備である†ナイフを振るって必死になって敵と戦っている。画面の前の俺はタイミングよく左クリックしているだけだが。
こういったあまり複雑な操作を必要としない、マウスでカチカチとクリックするのが操作のメインであるネトゲのことを(しばしば蔑称として)クリックゲーと呼ぶ。
ネット一般では評価の低くなりがちなスタイルのネトゲであるが、俺はこの手のゲームが好きだった。
戦闘中に複雑な入力を高い精度で要求され、失敗すれば仲間に陳謝し、迂闊な行動を取ればすぐに専用スレで晒される――そういう厳しい世界が好きな人もいるんだろうが、もっとダラダラできる方が俺は好きだった。
もちろんこのゲーム、「Two Dimensions Online」略称2DOにも戦闘の定石みたいなものは存在するようだし、PTプレイしていて失敗したのに一言も謝らないのはマナーに反すると俺だって思う。晒し専用スレも検索していたら見つけてしまった。
でもどこか、クリックゲーは片手間に、本腰入れずにやるようなイメージがあって、そのヌルい感覚が俺の性には合っている気がしている。
カポッ
「お?」
数十秒切りつけ続けてようやく敵を倒すと、まるでどっかの箱の実績解除のような音がして画面下部に小さなウィンドウが現れ、数秒で消えた。
[ファニーピッグの鼻 を入手!]
「おっ、レアドロップ……っても換金アイテムか」
アイテムインベントリ――要するに道具袋の中を見て説明文を読むと「ファニーピッグの可愛らしい鼻。珍味。$換金アイテム」とあった。
「いや全然可愛くないMOBだったんだが」
と独りでツッコむ。ゲームをすると独り言が多くなるのは、俺だけではないと信じたい。
「しかし一応レアだしなぁ。ひょっとかしてこれ持って来いってクエストあるかも……」
何らかのクエスト解決のためのアイテムだった場合、NPCの店で売るよりもPCに売ったほうが高く売れるだろう。以前にやったネトゲで同じような状況になったとき、迷わずNPCに売り払って後で嘆いた記憶がある。
「体力もかなり減ってるし、座って回復しながらwiki見るか……」
多くのMMORPGでそうであるように、2DOにおいてもじっと立ち止まっていると時間経過と共にHPとSP(スキルポイント)が徐々に回復していく。そして座り状態になると時間単位での回復量が若干増えるのだ。
(「球」が座る、ってのも変な話だがな)
今いる「巣」の周辺は非アクティブ――向こうからは攻撃してこない敵しかいないので、特に画面を見ていなくても問題はない。
俺は一旦デスクトップに戻ると、ブラウザを立ち上げて2DOまとめwikiを開いた。
***
「……ハッ!?」
いつの間にか小1時間が経過していた。無論、当初に調べたいと思っていた「ファニーピッグの鼻」通称「豚鼻」の用途については分かった。俺の予想は外れ――今のところ、本当に単なる換金アイテムでしかない。
「今後のVU(Version Update)によっちゃ分からんがなァ……今ンとこは、か」
小1時間もそれだけを調べていたわけでなく、ついwikiの別ページなどを見ていたらそれくらい時間が経ってしまっていたのだ。
「別に人を待たせてるわけでもないし、いっか……」
LV帯が高くなってくるとソロ向けの狩場、PT向けの狩場などに別れてくるらしい――というか、システム的に「ソロ専用狩場」「PT専用狩場」があるのだそうだが、序盤も序盤、まだLV一桁でシステム周りも把握できてない俺が、PTを組む気なぞあるわけもない。
「ソロのが気楽だしなー」
よく「MMORPGでソロってどうなの?」と言われたりするが、それはMMORPGに何を求めるかによる。別に俺はPTプレイしたくてやっているわけではなく、他の面が気に入ったからこのゲームをやっているのだ。それはPTであろうが、ソロであろうが楽しめる部分だったし、それならわざわざ慣れていない段階でPT組もうと時間をかけるよりも、独りであーでもないこーでもないと色々試したほうがいい、というのが俺の考えだった。が――
2DOの画面に戻ると、octoの隣にもう1人、球が座っていた。
そいつの出してる看板――普通の発言と違い、チャットログに残らず、PCの頭上にずっと出続ける――には、こう書いてあった。
『僕の玉は2つある!!』
こいつとならPT組みたい、と漫画版も好きな俺は思ったのだった。
1.ネトゲ始めました。
***
隣の玉……もとい「球」の名前は「マナジカ」と表示されていた。
「なまじっか、じゃねぇよな」
何度見てもマナジカだった。馴染みのない音の名前だ。何か元ネタがあるのだろうか。
とりあえず俺もネタとして看板を出すことにした。
『僕の玉は大きくなる!!』
タマタマ言ってる下品なB級隊員くんとか、分かる人間にネトゲの中で出会えるというのは酷く運が良いように思える。中の人が同年代なんだろうか。
キンコン
と、今度は鐘の音のようなSE。画面右上に「マナジカ」とPC名の入ったタブが出てくる。クリックすると小さめのチャットウインドウが展開された。1:1チャットだ。
通常のチャットウインドウとは別枠なので、お互い以外には見られない、という利点がある。一方で相手のPC名を入力するか、相手のPCに直接カーソルを当てて開く必要があるため、それなりに親交のある者同士が会話するのに使ったりするようだ。
マナジカ>戸田さんはいい仕事した
octo>まったく
反射的に返す俺。会話のキャッチボールの初球がいきなり変化球だった感があるが、きっかけとしては充分で不足なし。過分ではあるかもしれない。
octo>よもや同好の士にこんなところで出会うとは...
マナジカ>オルタのこともあるし、再燃してるんじゃない?
octo>なるほど
どうでもいいが、ネトゲしてると会話の中に「なるほど」が出てくる率が高い気がする。相槌の言葉としてちょうどいい塩梅だからだろうか。
octo>んで、何か私に用ですかい?
口調についてはまぁ、ロールプレイの一環、ということにしておこう。どうにも書き言葉だと芝居がかった風に喋ってしまう。
マナジカ>そそ
マナジカ>LVいくつ?
octo>6
マナジカ>ソロ?
octo>今のとこ、そうだぬ
マナジカ>wwwww
マナジカ>PT 組 ま な い か
まさか向こうからPTの誘いをかけてくるとは。ここはホイホイついて行くところだろう。
octo>ウホッ
octo>おk
画面中央に半透明のシステムウインドウが表示される。
[マナジカ がパーティ申請をしました。 許可/拒否]
許可のボタンを押す。さらに表示されるシステムウインドウ。
[マナジカ とPTを結成しました。]
この「PTに誘うウインドウ」を連続で出して嫌がらせをする輩もいたりするので、PTに誘えなくなる機能というのもあったりするが、それはまた別の話。
いよいよもって(2DOにおいての)俺の初PTプレイだ。
マナジカ>よろ~
octo>よろしくおねげしゃす
マナジカ>www
会話をPTチャットに切り替える。こちらはメインとなるチャットウインドウを使うチャットで、「PTメンバにしか見えない会話」となる。他にオープンチャット・ギルドチャットとあり、それぞれオープンチャットは「周囲にいるPCにしか見えないが、制限なく誰でも見られる」、ギルドチャットは「ギルドメンバのPCにしか見えない」会話になる。PT・ギルドチャットは条件を満たしてログインしているなら、PCがどこにいても見ることができるのがメリットだ。それにメインのウインドウを使ってるので咄嗟に入力がしやすい。
そんなわけでPTを組むと(それが無言PTといった類のものでなければ)、普通PTチャットで会話することになる。
マナジカ>俺もLV7でさ~
マナジカ>んでんで、10くらいまではウマイ狩場があるらしいから
マナジカ>そこいこ
ちょっと考えて、PTの状態を見る。経験値分配の仕方は「公平」状態だった。格上の敵と戦う分には、この方が獲得経験値が多くなる。つまり。
octo>赤いの狙い?
マナジカ>そー!
マナジカ>そこまで赤くないけどw
マナジカ>ピンクと赤の間くらい?
敵にカーソルを合わせるとその敵の名前が表示されるのだが、自分のPCのLVに対してより高い敵は赤い字、低い敵は緑の字で示される。もちろんLVが強弱のすべてを決めているわけではないが、ある程度は基準にできるし、倒したときの経験値算出にはしっかりと関わってくる。また2DOではデスペナ――死んだ後蘇生されずに街に戻ったときに課されるペナルティ――が意外ときつく、ホイホイと死ねるものではない。そういう意味でも、敵の名前の色というのはレベリングの相手を選ぶ際にチェックしておくべき事だったりする。
octo>んじゃー行きますか
octo>先導よろ
マナジカ>あいお
転がっていく玉2つ。そういえば看板が出しっぱなしだったがまぁ、これは狩場に着いてから消せばいいだろう。道中、何人かのPCとすれ違ったが問題なぞない。たとえその中の1人に「変態だーーーーーーー!!!!(AAry」などと言われようが、問題は、ない。っていうかうえきかよ。大概だな。
隣の玉……もとい「球」の名前は「マナジカ」と表示されていた。
「なまじっか、じゃねぇよな」
何度見てもマナジカだった。馴染みのない音の名前だ。何か元ネタがあるのだろうか。
とりあえず俺もネタとして看板を出すことにした。
『僕の玉は大きくなる!!』
タマタマ言ってる下品なB級隊員くんとか、分かる人間にネトゲの中で出会えるというのは酷く運が良いように思える。中の人が同年代なんだろうか。
キンコン
と、今度は鐘の音のようなSE。画面右上に「マナジカ」とPC名の入ったタブが出てくる。クリックすると小さめのチャットウインドウが展開された。1:1チャットだ。
通常のチャットウインドウとは別枠なので、お互い以外には見られない、という利点がある。一方で相手のPC名を入力するか、相手のPCに直接カーソルを当てて開く必要があるため、それなりに親交のある者同士が会話するのに使ったりするようだ。
マナジカ>戸田さんはいい仕事した
octo>まったく
反射的に返す俺。会話のキャッチボールの初球がいきなり変化球だった感があるが、きっかけとしては充分で不足なし。過分ではあるかもしれない。
octo>よもや同好の士にこんなところで出会うとは...
マナジカ>オルタのこともあるし、再燃してるんじゃない?
octo>なるほど
どうでもいいが、ネトゲしてると会話の中に「なるほど」が出てくる率が高い気がする。相槌の言葉としてちょうどいい塩梅だからだろうか。
octo>んで、何か私に用ですかい?
口調についてはまぁ、ロールプレイの一環、ということにしておこう。どうにも書き言葉だと芝居がかった風に喋ってしまう。
マナジカ>そそ
マナジカ>LVいくつ?
octo>6
マナジカ>ソロ?
octo>今のとこ、そうだぬ
マナジカ>wwwww
マナジカ>PT 組 ま な い か
まさか向こうからPTの誘いをかけてくるとは。ここはホイホイついて行くところだろう。
octo>ウホッ
octo>おk
画面中央に半透明のシステムウインドウが表示される。
[マナジカ がパーティ申請をしました。 許可/拒否]
許可のボタンを押す。さらに表示されるシステムウインドウ。
[マナジカ とPTを結成しました。]
この「PTに誘うウインドウ」を連続で出して嫌がらせをする輩もいたりするので、PTに誘えなくなる機能というのもあったりするが、それはまた別の話。
いよいよもって(2DOにおいての)俺の初PTプレイだ。
マナジカ>よろ~
octo>よろしくおねげしゃす
マナジカ>www
会話をPTチャットに切り替える。こちらはメインとなるチャットウインドウを使うチャットで、「PTメンバにしか見えない会話」となる。他にオープンチャット・ギルドチャットとあり、それぞれオープンチャットは「周囲にいるPCにしか見えないが、制限なく誰でも見られる」、ギルドチャットは「ギルドメンバのPCにしか見えない」会話になる。PT・ギルドチャットは条件を満たしてログインしているなら、PCがどこにいても見ることができるのがメリットだ。それにメインのウインドウを使ってるので咄嗟に入力がしやすい。
そんなわけでPTを組むと(それが無言PTといった類のものでなければ)、普通PTチャットで会話することになる。
マナジカ>俺もLV7でさ~
マナジカ>んでんで、10くらいまではウマイ狩場があるらしいから
マナジカ>そこいこ
ちょっと考えて、PTの状態を見る。経験値分配の仕方は「公平」状態だった。格上の敵と戦う分には、この方が獲得経験値が多くなる。つまり。
octo>赤いの狙い?
マナジカ>そー!
マナジカ>そこまで赤くないけどw
マナジカ>ピンクと赤の間くらい?
敵にカーソルを合わせるとその敵の名前が表示されるのだが、自分のPCのLVに対してより高い敵は赤い字、低い敵は緑の字で示される。もちろんLVが強弱のすべてを決めているわけではないが、ある程度は基準にできるし、倒したときの経験値算出にはしっかりと関わってくる。また2DOではデスペナ――死んだ後蘇生されずに街に戻ったときに課されるペナルティ――が意外ときつく、ホイホイと死ねるものではない。そういう意味でも、敵の名前の色というのはレベリングの相手を選ぶ際にチェックしておくべき事だったりする。
octo>んじゃー行きますか
octo>先導よろ
マナジカ>あいお
転がっていく玉2つ。そういえば看板が出しっぱなしだったがまぁ、これは狩場に着いてから消せばいいだろう。道中、何人かのPCとすれ違ったが問題なぞない。たとえその中の1人に「変態だーーーーーーー!!!!(AAry」などと言われようが、問題は、ない。っていうかうえきかよ。大概だな。
ほとんど時間はかからずに、octoとマナジカは狩場に着いた。何せわずかに2MAP分、「巣」から遠ざかる方向に移動しただけだ。
それだけのことではあったが、MOBの構成は大いに変わっていた。具体的には非アクティブの「ファニーピッグ」や「もちたま」が完全に消え、替わりにアクティブな「ビッグスラッグ」というナメクジモンスターが最大出現数まで沸いていた。
そしてそいつらの名前は、なるほどマナジカの言うとおり「真っ赤のようで真っ赤でない少しピンクい色」で表示されている。
つまり。
octo>くっそいてええええええええええ
マナジカ>wwwwwwっうぇwwww
タコ殴りもいいとこだった。ナメクジどもの攻撃の間隔はそこまで短くはないが、いかんせん数が多いし、格上ではあるのだから一撃も決して軽くない。モリモリ体力が減るのでPOT――回復剤をがぶ飲みしつつ、ナメクジをちまちま倒し続ける。
だが俺たちのいる場所は、狭い道を抜けたあとの少し開けた広場のようなところ。しかもその中央付近ということで、広場内に沸いた「ビッグスラッグ」は洩れなく俺たちの存在を察知、速やかに現場に急行せよと単純なルーチンが命じ、2人 VS n体の終わりのない乱戦に躊躇なく参戦してくるのだった。
などと格好をつけて脳内で描写を重ねていたらサックリoctoが死んだ。
が、マナジカが即復活させてくれる。
octo>㌧
マナジカ>b
短く礼と返答を交わし、またナメクジ潰しに勤しむoctoとマナジカを画面外で見つつ(そして右手は延々とクリックを繰り返しつつ、左手はFキーで回復剤を連打しつつ)、俺は黙考する。
2DOでは店売りの回復剤はそう安くないが、最初のチュートリアルで腐るほど(いや実際に腐りゃしないが)貰えたので、今のところ不自由していない。ついでに「巣」の周りのMAPにいる敵の通常ドロップが回復剤として使えるものなので、何だったらそれだけを使って節約もできる。
だが蘇生剤はまた別で、チュートリアルでもドロップでも得られないし、店売りでも相当な値段だった。現段階で俺が買おうと思っても、すべての所持品・装備品を売り払ってなお届かない程度に高い。
「それをまーあっさりと……」
ノリは軽いが、このマナジカの中の人は結構なお人好しなのだなァと、そんなことを思っていると
カポッ
[†ヌメヌメコア を入手!]
通算2度目のレアドロップ。頭の†(ダガー)からすると装備品なのだろうが、防具かアクセサリか、それともまさか武器だったりするのだろうか? ヌメヌメとかついてたが。
マナジカ>おめめ
マナジカが短いながらも祝ってくれる。そういえばレアドロップ表示はPTメンバにも見える仕様だった。
octo>ありっと
やはり短い応答で返す。さすがにこうも沸きが早いと、長々と話している余裕はない。今入手したアイテムもどんなものか確認したいのだが、それをしているヒマもない。
ふっ、と息をついて手元に置いてあるコーヒー牛乳を1口飲むと、俺はまた2DOの世界に没入していった。
***
「ビッグスラッグ」を倒したときの
べちょお
といういやにリアルな音も耳に馴染んだ頃。
時間で言ってしまえばわずかに30分ほどで、octoもマナジカもLVが2つ上がっていた。ついでにその時間の副産物的に、俺とマナジカもかなりくだけた仲というか爆裂四散して元の形が分からないくらいの仲にはなった。
octo>相当ウマいのな、このナメクジ
マナジカ>だしょー?
マナジカ>俺もいっちゃん最初にここのこと知って
マナジカ>すぐ来たかったんだけど
マナジカ>1人だとキツくてさー
octo>誰かテキトーに捕まえりゃよかったじゃんww
マナジカ>俺wwww人見知りwwwwだからwwww
octo>嘘こけwwwwwww
LVが上がって、防御と火力が上がるようにPP(パラメータポイント)を振ったおかげか、あるいは俺に限って言えば先ほど手に入れた†ヌメヌメコア(特に打撃に対する防御が上がる防具だった)のおかげか、2人ともだいぶ余裕がある。POTを連打しなくてもいいくらい。
そのぶん貰える経験値も下がってきていて、最初にマナジカが言っていたようにLV10くらいまでが公平PTでの適正な狩場なのだろう。「ビッグスラッグ」の名前は、今はもうピンク寄りの赤だ。
マナジカ>そーいやパラ振りどうしてる?
octo>DEF型で行きたいと思ってるから
octo>とりあえず硬くて厚い方に振ってる
マナジカ>硬くしてもDEFに成長ボーナスないのぜ
octo>なん…だと…
マナジカ>斬耐性は増えるけど
ちょっとショックだった。ステ振り・パラ振りは任意でやり直しできるらしいけども。ぐぬぬ。
2DOはLV制のMMOだが、特徴的なシステムとして「ファジィパラメータ」というものがある。これは主としてLVUPの際のステータス成長傾向を決めるもので、軽重・硬軟・大小・厚薄・鋭鈍といった対称的なパラメータが存在する。これらのパラメータにLVUPごとに得られるPPを振り分けることで、自分好みのステータスにキャラクタを成長させられる……
のだが。
octo>何でゲーム内で細かい説明がないんだよ!
マナジカ>wwwwwwwwwww
octo>どのパラ上げたらどのステが上がるとか!
マナジカ>ファジィwwwwwだからwwwwwwww
octo>くそっなんて時代だ!
時代のせいではないのだが。もっとwiki見りゃよかったか? でも初見のゲームでwikiガン見はあんまり趣味じゃないし。さっきの豚鼻とか、調べたいことができたときに調べるくらいの方がいい。
それだけのことではあったが、MOBの構成は大いに変わっていた。具体的には非アクティブの「ファニーピッグ」や「もちたま」が完全に消え、替わりにアクティブな「ビッグスラッグ」というナメクジモンスターが最大出現数まで沸いていた。
そしてそいつらの名前は、なるほどマナジカの言うとおり「真っ赤のようで真っ赤でない少しピンクい色」で表示されている。
つまり。
octo>くっそいてええええええええええ
マナジカ>wwwwwwっうぇwwww
タコ殴りもいいとこだった。ナメクジどもの攻撃の間隔はそこまで短くはないが、いかんせん数が多いし、格上ではあるのだから一撃も決して軽くない。モリモリ体力が減るのでPOT――回復剤をがぶ飲みしつつ、ナメクジをちまちま倒し続ける。
だが俺たちのいる場所は、狭い道を抜けたあとの少し開けた広場のようなところ。しかもその中央付近ということで、広場内に沸いた「ビッグスラッグ」は洩れなく俺たちの存在を察知、速やかに現場に急行せよと単純なルーチンが命じ、2人 VS n体の終わりのない乱戦に躊躇なく参戦してくるのだった。
などと格好をつけて脳内で描写を重ねていたらサックリoctoが死んだ。
が、マナジカが即復活させてくれる。
octo>㌧
マナジカ>b
短く礼と返答を交わし、またナメクジ潰しに勤しむoctoとマナジカを画面外で見つつ(そして右手は延々とクリックを繰り返しつつ、左手はFキーで回復剤を連打しつつ)、俺は黙考する。
2DOでは店売りの回復剤はそう安くないが、最初のチュートリアルで腐るほど(いや実際に腐りゃしないが)貰えたので、今のところ不自由していない。ついでに「巣」の周りのMAPにいる敵の通常ドロップが回復剤として使えるものなので、何だったらそれだけを使って節約もできる。
だが蘇生剤はまた別で、チュートリアルでもドロップでも得られないし、店売りでも相当な値段だった。現段階で俺が買おうと思っても、すべての所持品・装備品を売り払ってなお届かない程度に高い。
「それをまーあっさりと……」
ノリは軽いが、このマナジカの中の人は結構なお人好しなのだなァと、そんなことを思っていると
カポッ
[†ヌメヌメコア を入手!]
通算2度目のレアドロップ。頭の†(ダガー)からすると装備品なのだろうが、防具かアクセサリか、それともまさか武器だったりするのだろうか? ヌメヌメとかついてたが。
マナジカ>おめめ
マナジカが短いながらも祝ってくれる。そういえばレアドロップ表示はPTメンバにも見える仕様だった。
octo>ありっと
やはり短い応答で返す。さすがにこうも沸きが早いと、長々と話している余裕はない。今入手したアイテムもどんなものか確認したいのだが、それをしているヒマもない。
ふっ、と息をついて手元に置いてあるコーヒー牛乳を1口飲むと、俺はまた2DOの世界に没入していった。
***
「ビッグスラッグ」を倒したときの
べちょお
といういやにリアルな音も耳に馴染んだ頃。
時間で言ってしまえばわずかに30分ほどで、octoもマナジカもLVが2つ上がっていた。ついでにその時間の副産物的に、俺とマナジカもかなりくだけた仲というか爆裂四散して元の形が分からないくらいの仲にはなった。
octo>相当ウマいのな、このナメクジ
マナジカ>だしょー?
マナジカ>俺もいっちゃん最初にここのこと知って
マナジカ>すぐ来たかったんだけど
マナジカ>1人だとキツくてさー
octo>誰かテキトーに捕まえりゃよかったじゃんww
マナジカ>俺wwww人見知りwwwwだからwwww
octo>嘘こけwwwwwww
LVが上がって、防御と火力が上がるようにPP(パラメータポイント)を振ったおかげか、あるいは俺に限って言えば先ほど手に入れた†ヌメヌメコア(特に打撃に対する防御が上がる防具だった)のおかげか、2人ともだいぶ余裕がある。POTを連打しなくてもいいくらい。
そのぶん貰える経験値も下がってきていて、最初にマナジカが言っていたようにLV10くらいまでが公平PTでの適正な狩場なのだろう。「ビッグスラッグ」の名前は、今はもうピンク寄りの赤だ。
マナジカ>そーいやパラ振りどうしてる?
octo>DEF型で行きたいと思ってるから
octo>とりあえず硬くて厚い方に振ってる
マナジカ>硬くしてもDEFに成長ボーナスないのぜ
octo>なん…だと…
マナジカ>斬耐性は増えるけど
ちょっとショックだった。ステ振り・パラ振りは任意でやり直しできるらしいけども。ぐぬぬ。
2DOはLV制のMMOだが、特徴的なシステムとして「ファジィパラメータ」というものがある。これは主としてLVUPの際のステータス成長傾向を決めるもので、軽重・硬軟・大小・厚薄・鋭鈍といった対称的なパラメータが存在する。これらのパラメータにLVUPごとに得られるPPを振り分けることで、自分好みのステータスにキャラクタを成長させられる……
のだが。
octo>何でゲーム内で細かい説明がないんだよ!
マナジカ>wwwwwwwwwww
octo>どのパラ上げたらどのステが上がるとか!
マナジカ>ファジィwwwwwだからwwwwwwww
octo>くそっなんて時代だ!
時代のせいではないのだが。もっとwiki見りゃよかったか? でも初見のゲームでwikiガン見はあんまり趣味じゃないし。さっきの豚鼻とか、調べたいことができたときに調べるくらいの方がいい。