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第2話『僕のカノジョが大ピンチ!』

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 みなさん、こんにちは。神道です。

 世界、いえ宇宙を探しても敵なしだろう最強の超能力者(と勝手に思っています)にして僕の彼女、伊藤月子。
 そんな彼女が今、大ピンチな状況にいます。

 彼女はとても困っています。そして、僕に助けを求めています。

 僕は彼女のために死力を尽くしましょう。ですが、最後にがんばらないといけないのは彼女自身です。




 第2話『僕のカノジョが大ピンチ!』



6, 5

  


 月子が燃えている。
 腰から上がめらめらと、真っ赤な炎が揺らいでいます。


 パイロキネシス。火を発生させる超能力の1つです。


 舐めるように伸びるそれはテーブルや床を焦がし、けれど月子自身には作用しないのか、火傷1つ負っていません。
 僕は慌てず騒がず、バケツに汲んでいた水をぶっかけました。程なく鎮火。辺りは水でべちゃべちゃです。月子も水でべちゃべちゃで濡れ透けです。

「……ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ戻しておいてね」
「はい……」

 僕が台所まで水を汲んで戻るころには、火による焦げはもちろん、水で濡れた床、クッション、ノートや教科書、そして着ている服すべてが元の状態に戻っていました。時間の逆流らしいですが、僕はその超能力の名称を知りません。

「ごめんね……パニックになると、どうしても暴走しちゃって……」

 月子はしょんぼりとうなだれました。僕はいつも、こんなときの月子にかける言葉を浮かびません。故意ではないので責める気もありませんし、かと言って慰めると逆に気を遣われますし……

「大丈夫だよ。はい、もう一回やってみようか」
「……うん」

 なので軽く流すようにしています。ベストではないと思いますがベターな返しでしょう。
 彼女は沈んだ気持ちのまま、再び教科書とノートに向き合いました。



 さて、落ち着いたところで説明します。僕たちは今、年に2回の期末考査の勉強中なのです。大学生は単位を取得して生きている生物なので、期末考査は命がけの戦いでもあるのです。

 恋人同士で勉強会、なんて言うと響きはいいですが、ところがどっこい。こう言っちゃあなんですが……月子は、とても勉強ができないのです。
 僕たちが通っている大学はけっこうレベルの高い、そこそこネームバリューのある私立大学だったりします。なのでそれ相応の学力を要求されるわけですが……月子は絶望的に学力が足りていません。放っておいたら取得単位数がゼロとか、ぜんぜん有り得ます。

 僕と月子が付き合い始めてから3回目の試験。過去2回もこうして勉強を教えましたが、あのときはまぁひどかった。


 1年前。一回生上半期のテストのときは、部屋中の物が飛び交いポルターガイスト現象が発生しました。テレビがパチンコ玉のように跳ねていた光景は今でも忘れません。

 半年前。一回生下半期のテストのときは、住んでいるマンションがごっそりと浮き上がりました。「あと50はいける」とわけのわからんことを言っていました。


 前回『月子は普段、超能力オフで、使いたいときだけ超能力オンにするそうです』と皆さんに言いましたが、やはり余裕がなくなると暴走する傾向にあるようです。
 今回はまだ全身が火に包まれるだけで被害は小さいほうなので安心しています。いまのところは。

「ねぇ、ここわからない……教えて?」
「どれどれ?」

 と訊かれたのは、もう何度も教えているところでした。いつまで経っても覚えることができない彼女を、僕は何一つ苛立ちもせずに教えます。ええ、僕は何度だって教えます。


 敢えて訊いていないことですが、きっと月子は入学試験を超能力でパスしたんだと思います。それが透視なのか、テレパスなのか、問題を予知したのか、はたまたタイムトラベルによる改ざんなのか……見当はつきません。じゃないと、こんなオバカが入学できるわけがありません。簡単な大学ではないのですから。
 そんな彼女が、正々堂々試験と向き合って勉強しているのです。これほど勇ましく、果敢で、すばらしいことはあるでしょうか。
 僕は月子の力になりたい、応援したい。ただその一心なのです。


 ……それにしたって、あまりの成長のなさは少々不安にもなります。いつもぎりぎりセーフの取得単位数なのでヒヤヒヤします。

 なんてことを皆さんにお話ししているうちに教え終わり、月子は怖い顔でにらめっこを始めました。
 さて、どうなるでしょうか……

“うわぁぁぁん、難しいよぉ……”

 ……テレパシーが飛んで来ました。どうやら暴走状態のようです。
 これぐらいなら害も少ないので黙っておくことにしましょう。それに、何だか面白そうですし。

“やっぱりわからない……もう1回訊いたら、さすがに怒るだろうなぁ……”

 いや、怒らないよ? 訊いていいよ?

“だから訊かない! 自分の力で解いてみせるんだから!”

 どうやらこちらの言葉は届かないようです。自分の力で解きたい、なんて良い意気込みでしょうか。頭から出ている煙がちょっと気になるところですが。

 しばらく様子を見ていると、月子はゆっくりと、確実に答えに近づいていきます。
 おお、そう、そうだ。そこは間違えやすいから、気をつけてっ。
 見てるこちらがどきどきしてきます。

“あとちょっと、もう少しで解けそう……!”

 そのとおり、がんばれ、がんばって!

“解けたら、たくさん褒めてほしいな……褒めてくれるかな……?”

 褒めるよ、たくさん褒めるよ!



 そして。

 彼女が、月子が。

 自力で、問題を解いた!



“解けたー!”

 その瞬間、僕の感情は歓喜によって大爆破しました!

「おめでとう月子! 正解だ、よくやった! お望みどおり、褒めてあげよう!」

 僕は月子に抱きつき、押し倒し、ぐりぐりと頭を撫でてあげました。

「おの、お望みどおり!?」
「そうさ、言ってたじゃないか、褒めてほしいなって!」

 綿あめよりも柔らかい、カラメルよりも良い香りがして、ショートケーキのイチゴよりも魅力的な月子。ああ、愛しい愛しい、がんばったね、すごくがんばった!
 もういくら撫でても足りないぐらいです。これはもうキスしてあげるしかないですね!



 ……あれ?


 僕の身体が宙に浮かびました。



 ・
 ・
 ・
 ・
 ・



 背中の痛みで目が覚めました。ああ、穴の空いた天井が見えます。どうやら天井に吹っ飛ばされ、その衝撃で気を失っていたようです。
 それにしてもこの柔らかな枕。気持ちいい……

「目、覚めた?」

 すぐそこには月子の顔。どうやら僕は月子に膝まくらをされているようです。
 なるほど、そりゃあ気持ちいいに決まってます……さすが至高にして究極の、月子の脚。触っても許されるかなぁ……

「許すわけないでしょっ」

 あ痛っ。おでこを叩かれてしまいました。普通にテレパスを使われていますね……まあ僕もテレパシー暴走状態を教えなかったので、これでおあいこですね。

「そうそう、そのとおり」

 ……いやしかし、皆さんへの語りを聞かれるというのは少々恥ずかしいですね。
 こんなとき、僕にできることと言えば……

 もわもわもわ。

「……っ!」

 彼女の顔が真っ赤に染まりました。ふふふ、恥ずかしがってます、ふふふふふ。
 僕は今、昨日の月子と過ごした夜のことを思い出していたのです。しかも昨日は頼み込んでメイド服を着てもらった特別な夜でした。ああ、思い出すだけでもう……可愛かったなぁ。恥ずかしくてスカートをぎゅっと握っちゃったりして……ご主人様、と言ってもらえなかったのが唯一の心残り。



 ……あれ?



「つ、月子? また身体、浮いてるんだけど?」

 しかも念力で窓まで開けちゃいますか。ここがマンションの何階か知ってるよね? ねえ、月子?

「2階でございますよ、ご主人様ー」

 ねえ2階ってさ、高すぎず低すぎずで皆さん反応に困ると思うんだよね。あぁうん、みたいな微妙な反応しかできないと思うからやめたほうがいいと思うなぁあああああああああっ! 放り出されたああああああっ!



『次回予告』



 第2話、いかがでしたでしょうか。いやはや、ひどい目に遭ってしまいました。あと少し慈悲が遅ければもっとひどいことになっていたと思います。まあそんなツンデレなところも好きなんですけどね。

 さて、次回更新のボクカノ(『僕のカノジョは超能力者』の略称です)ですが……

 次回、「僕のカノジョが合コンに行く!?」。ご期……え? 合コン? え、ダメだ、ぜったいに許さないですよ!?
8, 7

  




『コメント返信』



 合コンとか許さ……おっとっと、続いてコメント返信です。基本的に僕が答えられる範囲は何でも答えていきます。それ以外と月子のスリーサイズはお答えできませんのであしからず。



 [1:第1話『僕のカノジョは超能力者』] 以外にも真っ向勝負 <2011/11/13 18:52:22> 6iVfPLQ1P

 僕と月子、ときどき超能力のラブコメディになればいいなと思っています、僕は。今回みたいなオチはもうこりごりです。



 [2] 確かに壁にむかって小説のような語り口で独り言してたら気持ち悪いな <2011/11/13 19:05:53> shBV/AW/P

 なるべく心の中で語りかけようと思っているんですけどね。油断するとつい口を開いてしまいます。



 [3] おもしろす <2011/11/13 19:30:03> 4HamTN./K

 ありがとうございます! 僕の語り有りきなところがあるのでがんばります!



 [4] 結構好き 主人公が好みだわ がんばれ <2011/11/13 19:37:19> kF0fjV61P

 おおっとぉ、これはドキっとしてしまいますね。女性でも男性でも、好みと言われると嬉しいですね。



 [5:第1話『僕のカノジョは超能力者』] さくさく読めた!続き期待! <2011/11/13 19:47:05> vtBoSeY0P

 聞き取りやすく、丁寧に。これが僕のモットーです。



 [6] バカテス的な一人称読みクチですね <2011/11/13 19:49:05> ZFDuFOm/P

 バカテス……すみません、それについてはまるで知らないのですが、僕に似た人がいるのでしょうか……?



 [7:第1話『僕のカノジョは超能力者』] 今回のはえらく陽気な感じだな・・・期待! <2011/11/13 22:27:24> 7dmVl2N0P

 陽気で気楽で楽しくハッピーになれるように心がけています!



 [8] 読みやすくする工夫が細かく行き届いてる <2011/11/14 06:24:37> /vTMfer1P

 皆さんに楽しんでもらえるよう、隅から隅まで気を配るようにしています。



 [9] おかえり!待ってた! <2011/11/15 04:00:00> GlFq02E0K

 僕と月子の物語はこれからだ! ― おわり ―
 嘘です、終わりません。
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