10、目に焼き付いたものは別として
「だあ――――っっもう。うっざ!」
右近の機嫌が悪いのは僕のせいではありません。
右近が腰巻タオルだけで半裸なのも僕のせいではありません。
右近が男前な男子に見えるのも僕のせいではありません。
ちょっと僕らがお腹すいているのも僕のせいではありません。
右近は最近イトコさんになすび妖精をよこせと散々脅されているそうです。
だから機嫌が悪いのです。
右近は学内で女子だと他人にばれると、高卒後結婚しないといけないのだそうです。
誰と結婚を?
「憎きイトコと結婚……。そんなもんできるか――!」
バギャーン
や、やめて。
君は無意識だろうけど、卓と一緒に腰へ巻いたタオルも飛んで行ったよ。
ま、つまりイトコさんは僕の存在に気づいたということか。
僕をネタに右近を揺すっているのでしょう。
「う、右近、その……、僕も気をつけるよ。今まで軽率だった」
「ブーちゃんは関係ない! 心配するな。全くの外野だ」
いや、ちょっと、そんなことないでしょ。
そこまで断言しないで。寂しいから。
毎日部活の前後、度々ここへ来てるのに。
「いいかブーちゃん、今後イトコに何を聞かれても絶対俺を男だと言え。いいな!」
「……はい」
解ったから、とりあえず何か着てくれないかな。
もう女子の恥じらいとか思わないから。
ね。
僕の通う高校は京都にある。
出町柳のちょい南、鴨川のほとり、どっかそこら辺だ。
川沿いリバーサイド♪で教室のドアノブは金属のメタルだ。(陽水じゃないけど)
因みに僕は京都人じゃない。●賀県民だ。だから寮で生活している。
そして僕は今、右近のためにファミマでおでんを買ってきたところだ。
おでんは30数個買ったと思う。決して多くはない。
風呂上がりで空腹の彼女にはおやつ程度の量だろう。
さて、彼女は大人しく待っているだろうか。
そろそろ立川女史が来ている頃だから話が弾んでいるだろう。
そういやいつも謎だけど、異性入寮禁止の僕の部屋へ、彼の女史はどうやって来ているんだろう。
答えは簡単以下のとうり。
ツヤツヤの長い髪は乱れ、めくれたスカートからは水色のおパンティーがのぞく。
はだけたシャツからこぼれる豊満な膨らみに滴る露は多分唾液だろう。
そんな立川女史に不埒な男子が覆いかぶさっている。
息も荒く半裸で女史の口唇へ舌を押し込み、いやらしい手つきで胸を揉みほぐす。
その男子は、否、正確には女子なんだが、何故そんなことをしているのか解らない。
でもこの光景、ちょっといいかもしれない……。
「ん……あ、あ……あん」
胸を揉まれる手つきと絡まる舌の動きに立川女史は……。
いやいやいやいやいや。いかんいかん。いかんのだ。
色んな突込みはなしにして僕の部屋の風紀をこれ以上乱しては。そうだ。
ここはガツンと! ガツンと。
ガツンと……。
ガサ
落ち着け僕。鎮まれ腸の肉よ~。とりあえずおでんを卓へ置いたよ~。
「んあ……ン―君が。……らめ、だめ桐王く、ん……」
僕に気づいた立川女史が右近を振りほどこうともがく。
「う――こ――ん――♪」
僕は低い声で歌ってみた。
その時立川女史の見事な蹴りが右近のタオルを巻いた股間あたりへ命中。
気絶する右近を横目に女史は身なりを素早く整えた。
「ごめんなさいブー君! 私、襲われちゃっただけなの。許して」
そう言った立川女史はヒラリと窓をまたぎ飛んで去って行ってしまった。
夕日を受けた女史のおパンティーは僕の目に眩しかった。
つづく