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序章みたいな過去回想

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――遡ること4時間弱前。
「『待った』は一回までですよ。先輩」
「いや、その『待った』じゃなくて今の真白ちゃんの発言に対する『待った』だ」
 放課後、将棋同好会で僕は真白ちゃんと将棋を指していた。無論、僕は彼女より1年この同好会で将棋を嗜んでおり、付け加え真白ちゃんはつい最近まで初心者だった。入部(というよりは同好会なので入会か)してから2ヶ月にしてはその腕は上達していない。全くもってだ。こやつ鳥かと思うくらい上達していない。
 そんな真白ちゃんに僕が『待った』なんて言うはずも無く、今まで一度も言ったことなんてあるはずも無く、僕が真白ちゃんに『待った』と言ったのは聞き間違いでなければ『今日、放課後ファミレスに二人で一緒に行きませんか大事な話があるんですよ。先輩』と言われたからだ。生まれた年=彼女いない歴の僕には耳を疑う発言だった。いや正に疑っている最中なんですけど。
 真白ちゃんにはよく冗談で『大好き』と言われるがアレとは違う何かを感じた。つまり、いつも二人で将棋を指していて僕のかっこよさに気づいたとかそんなところだろう。
 ふと、真白ちゃんを見ると、目があった。
 そんな僕を不思議そうに見て、彼女は首をかしげる。
「どうしました? 私の妙手にぐぅの音もでませんか? 先輩」
「ちげぇーよ。王手角取り7手詰めだ。真白ちゃんお前の頭は鳥並みか」
「私の心は綾波です」
「いや、よくわからないし。つか、どっちかというとミサトさんだお前は」
「あんな、グラマーな美人に例えられるなんて嬉しい限りです。先輩」
「お前……悪いところにも目を向けてやれ、それでこそ彼女は輝くんだ。あと、勝手に人の金将と飛車隠すんじゃねー」
 まぁE●Aを見たことがない僕は妄想と友人の話で会話しているので話をそらすことにした。つか、僕の話が逸らされている?
「……参りましたー」
「素直でよろしい。で、さっきなんて言ったの?」
 既に、19時を回っている時計を見ながら僕は将棋盤を片付け、帰りの準備を促しながら再確認をする。
「えーと、『今日ファミレスでパフェのサービスやてるから奢ってくれやがれー。先輩。』っと言いました」
 聞き間違いだった。ファミレスと先輩しかあってなかった。……妄想って怖い。
「……で、なんで僕が真白ちゃんにパフェを奢らなくちゃならないんだ」
「心無しか落ち込んでません? 先輩?」
「お、お、お、お、落ち込んでなんか無い。落ち込む必要があるわけない」
「そですかー。まぁそういうことにしときましょう。奢ってもらう理由ですか。実は今日なんと――」
「誕生日なのか? なら別にいいけどさ」
「いえ、記念すべき300敗目なのです」
「前向きかっけー」
驚いた。この前向きさは人を殺せる。僕が言うんだ間違いない。
「なので、奢ってください」
「いいよ、奢ってやるよ」
何かかわいそうだから奢ってやることにした。真白ちゃんをこれ以上不幸にしてはいけない。つか、奢らないと僕が惨めになる気がする。
「えへー。大好きですよ。先輩」
「……僕は普通だ」
いつものやりとりをしながら僕はこの部屋に鍵をかけた。
「――あーっとは、DXデミグラスハンバーグ1つで」
「以上でよろしいですか?」
「よろしいです」
「ではごゆっくりどーぞ」
そう言って店員は去っていた。
「おい、待て」
勿論去っていった店員に言ったわけではなく、目の前の鳥女に言った。
「うーん? なに先輩?」
 注文数が5品を過ぎた大量注文なのはどうでもいいんだ。無論、僕の財布を気遣って少なくしてくれればさらに良いんだけど。真白ちゃんにそんな事は頼んでも無駄なのは2ヶ月同じ同好会にいたからわかる。でもさ、納得いかない点が一つだけ存在する。
「パフェ頼んでないよね?」
「うん!!」
 良い笑顔で言われたー。
 もう何も言い返せない。
 反則だろ、というよりも高校生じゃないだろ、その無邪気な笑顔。まさに天使。
 あーもうどうでもよくなってきた。
「はぁー。そういえば真白ちゃんはどうして将棋部……将棋同好会に入ったんだい?」
 お冷を箸でぐるぐる回している真白ちゃんに僕は聞いた。別に興味があったわけではなく、沈黙の雰囲気を出すのが嫌だったからだ。
 なぜかって? それは年頃の男女が二人でこんなところで楽しそうに談笑していたら付き合ってるように見えるはずだ。そうなれば見た目だけは公認カップルということになり、真白ちゃんに付きまとう男はいなくなる。…はず。
 というのも、真白ちゃんは一部の層から多大な人気があり、5月に行なった球技大会の写真の売上が4位になるくらいは人気がある。ただの先輩である僕でさえ13枚全種買っているんだからほかの人は観賞用、保存用、布教用で39枚は買っているに違いない。っと、それくらいは人気はある。
「うん? 私ですか。それはですねー、先輩が真面目に将棋を指している姿を見て私もあんなカッコ良くできたらいいなーって思ったんですよ……って言えば満足ですか?」
 そんな僕の気持ちも知らずに真白ちゃんはいつも全力投球だ。
 そんな真白ちゃんが、まさに天使から悪魔に超変身した瞬間だった。
「途中まで良い子だなと思い、緩んだ涙腺から落ちた。その一粒の涙を返せ」
 もちろん僕は心の叫びを訴える。
「えへー、すみません」
 笑顔のカウンターが僕の心を抉った。
 あぁ反則だ。あの笑顔で謝れたら男子の80%は許さないわけにはいけないだろ。
 悪魔、いや小悪魔ちゃん(この言い方の方がきっと真白ちゃんには合う)には殺されてもいいと思えるくらいには今の笑顔は可愛かった。
 ちなみにあとの20%は同性愛者と彼女持ちの人間だと僕は思っている。なぜなら、その手の人間の思考回路は未知の領域だ。
 例えば、中学の時やたら僕の体に触れてきた多田君がいたけど、最近『また彼氏が出来たぜー』ってメールに書いていたのはおそらく誤字だとは思うけど、うかれて、そんな嘘メールを間違って送信するくらいには未知の生き物だし。
「なに、妄想に耽ってるんですか? 先輩」
 気づくと、真白ちゃんが眉を釣り上げてこちらをムッとした感じでにらんでる。
「……妄想じゃない、事実起きたことを振り返ってるんだ」
「妄想癖ですよ。先輩。卑猥です」
「だから妄想じゃないって。それに、男子高校生の妄想が卑猥なことだけだと思うな」
「違うんですか?」
「………」
 まずい、否定できない。そして純粋な目で真白ちゃんはこちらを見つめている。
 しかも、僕は何気に全国の男子高校生の代表になってしまっている。その事実に僕は驚いている。ここで迂闊な発言をすれば女子高生ネットワーク(実際そんなものがあるか知らないけど)を通じて、全国の男子高校生が白い目で見られることになるかもしれない。つまり、僕の発言次第で男子高校生たちの明日が決まってしまうということだ。ということは、僕はすべての男子高校生を支配してると言っても過言ではない。むしろ図らずともそうなってしまっている。となると――
「?」
 ――あ、首を傾げてこちらを訝しげにみつめ……いや、にらんでるなあれは。
 というか、また想像に耽っていたらしい僕の悪い癖だ反省しよう。
 まぁ真白ちゃんのことだ。僕が「注文遅いねー」って言えば「そうですねー、そういえば昨日カラスの特番やってたんですよ、見ました。先輩?」ってくらいに自分から話題を方向転換してくれそうだ。
 ということで、即実行である。
「それにしても、注文遅いねー」
「そうですねー、そういえば昨日カラスの特番やってたんですよ、見ました。先輩?」
「逆に怖いわ!」
「はうっ。何がですか、先輩? とりあえず落ち着いてください。」
「……あぁ、すまない。なんというか、突如宝くじに当たったようなそんな感覚に見舞われて」
 釈然としないまま漠然とした事を言ってしまった。それくらい今の真白ちゃんの発言は怖かった。
「ふーん。まったく、おかしな人ですねー先輩は。 あ、料理きましたよ」
 そう言って真白ちゃんはクスりと笑い、僕の後方を指さした。
3, 2

  

 一通りの食事を終えたあと。
「で、結局頼まないんだな、パフェ」
 そう言いながら、二人分のお冷をくみ、ひとつは僕、ひとつは真白ちゃんの前に置く。
「何か問題でも? 先輩」
 いや、問題はないし、むしろ財布がこれ以上軽くなるのはごめん被るので良いのだけども、釈然としない。
「いや、別に。……じゃあご飯食べたしそろそろでるか?」
「まってください、先輩」
 席を立とうとする僕を真白ちゃんが制す。
「うん、どうした?」
 そう言って中腰のままストップした僕。僕に手を突き出している真白ちゃん、という変な構図。
なんだこの寸劇みたいなのは?
 いやー、人が少ないファミレスに入って正解だったと安堵する僕。
「まだやり残したことがあります」
 そう言って真白ちゃんは手を下げる。
「なんだ、やっぱり食べるんじゃないか」
「違いますよー、今日はちょっと話が合って奢らせた次第です、先輩」
「いろいろ酷いな、お前」
「これが私の処世術ですよ」
 と言って胸を張る。つか、そんな処世術あってたまるか。
「わかったよ」
 大袈裟に降参のポーズを取りながら席に座る。これでも後輩の相談ひとつ聞けないなんて先輩のメンツが立たないしな。
「つか、話ってなんだよ」
「その前に、ちょっと待ってください、先輩」
 と言って、アラームで店員を呼ぶ。
「どういたしましたでしょうかー?」
さっきと同じ店員がポニーテールを揺らしながら現れた。
「DXチョコレートパフェ一つお願いします」
 おい、結局食うんじゃねーか。ため息をつき、バレないように財布を見る。
 足りるか、これ?
「このパフェはサービスの対象外ですが構いませんか?」
 え?
「構いませんよ」
 え?
「では、ごゆっくりどーぞ」
「で、先輩話しと言うのはですね…」
「何もなかったように始めるんじゃねぇ」
 そう言って真白ちゃんの眉間をつついた。
「あいたー。うぅ……。女子に暴力を振るう男はモテないんですよ、先輩」
「うるせー、お前が悪いんだよ」
「違います。悪いのは政府です」
「政府も悪いがそれでお前の悪さが消えるわけじゃねー」
 まぁ、軽いじゃれ合い。
「大丈夫です、可愛ければ大抵は許されます」
 逆にかっけー。
「じゃあ、聞くけど、許されないことってなんだよ?」
「不倫とか」
「リアル過ぎて突っ込めないわ」
「そうですね、先輩のスキルではこれくらいが限度ですか、やれやれ全くもって残念ですよ」
「なんか僕が可哀想な雰囲気になってるし!」
「大丈夫です。痛可哀想ですよ、先輩の場合は」
「なお、酷い!」
「とりあえず、店内なのであまり騒がないでください、先輩。馬鹿です」
「馬鹿に見えるとかじゃなくて、もう断定なのな」
「断罪じゃないだけよいではないですか」
「別に上手くないからドヤ顔すんな」
 馬鹿に見えるぞ。とは、あえて言わずに僕はそっぽを向く。
 真白ちゃんもこれでじゃれ合いが終わったと判断してか軌道修正した。
「はいはい、で話しなのですが……漫画読みますよね、先輩?」
「はい?」
「漫画だけじゃなくてもいいんですけど、ゲームとかでも」
「そりゃ見るよ、でもゲームは金が無いからあまりやらないけどな」
「そーですか、私の周りにはそう言う友人が居なくて困ってたんですよ」
「はぁ……」
 話が読めない。そんな僕の気持ちを知ってか知らずか真白ちゃんは話しをさらに続けていく。
「で、ですねー。どんなジャンルの漫画を読みますか? 先輩」
「……あぁ、なんでも読むよ、なんでも」
「じゃあ、異能系とかも読んだりしますか?」
「あー、するよ、するする。超する」
「話し方だんだん、ぞんざいになってませんか?」
「なってませんよ。えぇ、なってませんとも」
「うりゃー」
 真白ちゃんはそう言って頭にチョップする。無論この頭というのは僕の頭である。
 まぁ痛くないんだけど。
「真白ちゃん?」
「なんで、そんな気の抜けた炭酸みたいな返事をするんですか、先輩は?」
 いや、意図が読めない上に本題に入るまでが長いんだもの。
「そんなことないですよ?」
「いや、その顔は全然集中していません」
 まぁ、その通り話半分で聞いてるので否定もしにくい。軌道修正、悪い意味で。
「ほぅ、どうしてそんなことを言える?」
「だって部活中の――」
 お、部活中の集中している僕の姿を焼き付けているのか真白ちゃんは。
 いつも適当に乗りで指しているだけとか思ってたけど見てるところは見てるんだな。
 うん、こうやって先輩としての有志を後輩に受け継ぎ、その後輩が更にそういうのが――
「――私の胸を見る目の方が集中力がありますよ」
 ――受け継がれてないみたいです。
「いや、真白ちゃん。僕は盤面を見ているだけで、真白ちゃんのひんそ……慎ましい胸は見てませんよ」
 いや、本当に見てないし。というか真白ちゃんの胸に見る価値なんて今のところ皆無だ。今後の成長に期待したい。
「今、ひんそー、って言いましたか?」
 なんか後ろでゴゴゴゴって効果音が見えるくらいに真白ちゃんが怖いことになってる。
「いえ、もう少しでミサトさんって言いました」
「いえ、この真白イヤーが間違える訳がありません」
 なんだよ、真白イヤーって。

 閑話休題。

「で、どうして異能系?」
「いや、まぁ異能系じゃなくてもいいのですけど、まぁわかりやすいので」
「ふーん? まぁいいか。とりあえず、さっき言ったとおり、ある程度読んでるよ」
まぁ実際、濫読の域でマンガ、ラノベ、小説、参考書等々(学校教材除く)は手は出している。無論7割程記憶から摺り抜けてるけど。
「じゃあズバッと切り込んで聞きますが、ズバリ最強の異能ってなんでしょうか?」
「えっ?」
その声と同タイミングでパフェが届いた。
5, 4

  

「え、どうして?」
「なぜそれを言わなければいけないのでしょうか、先輩?」
 当然の質問をしたと思ったのだが、真白ちゃんは首をかしげて逆に質問してきた。
「そりゃ唐突にそんなことを言われたんだ。気になるだろ?」
「……まぁ、そう言われれば、そうかも知れませんね」
「だろ?」
「不服です」
「なにが?」
「先輩にそれを指摘されたのがです」
「さいですか」
「とは、言ってもですが。…私の友人の話になるのですけども、まぁプライバシーの都合上ここではYちゃんと言う事にしましょうか。そのYちゃんがですけど文芸部に入っています」
 なるほど、だいたい状況はわかった。つまりはそのYちゃんが文芸部でファンタジー系を書こうとなったんだろう。
「で、ですね、まぁ課題みたいなのが出されたわけですよ、あとはわかりますよね? 先輩」
「まぁだいたいわかったよ」
「そう言う気が利くところだけは尊敬しますよ、先輩」
 そう言うとこだけかよ。まぁつまりそのYちゃんは最強厨の主人公もしくは、ライバルキャラ無いし、途中で死ぬお助けキャラポジのいずれかを書きたいんだろうな、と勝手な推測。
 おそらく、そのYちゃんはシャイなのでそこらへんのことを真白ちゃんに聞いても『聞いているわけないじゃないですか。褒めたとたんこれですか、残念もここまでくればいっそ清清しいですよ、先輩』といわれるに違いない。
 同じ轍を踏むのはさすがに先輩としては避けるべきだとは思う。
「真白ちゃん、話し長くなるけどかまわない?」
 と、今更21時を回っている携帯を見せつつ真白ちゃんに言う。
 まぁ、今更といえば今更か。僕は一人暮らしなのでアレだが、真白ちゃんはおそらく違うだろうし、親は心配するだろう。
 そんな僕の心配を知ってか知らずか真白ちゃんは最後の一口をパクリと口に運ぶ。
「まぁ、オタク共の話は長くなると相場は決まっていますからねー、なので前もって友人の家で勉強してから帰るって言っているので心配はなく、先輩」
 むしろ僕が帰ってやろうか? まぁいいや、こういう所にだけ頭が回る真白ちゃんに感心と不安を抱きながら話を始めようとした――
「ちょっとまってください、先輩」
 ――ところの出鼻を挫かれた。
「どうしたの? トイレ?」
「まったくデリカットに欠けますね、先輩は」
 …………いや、古くて一瞬わからなかったよ。
「………」
「……デリカットと言うのはですね、外国人の――」
「いや、わかってるし。そして自分のボケを解説するのは悲しく見えるのでやめていただきたい」
「もとはといえば悪いのは先輩ですよ、女子に向かってそう言うことを言うから残念と言われるのです」
「むっ」
確かに、言われてみればそうかもしれない。
「あぁ、たしかに悪かったかもしれない」
「頭が高いです」
「悪ーございましたー」
 そう言いながら深々と頭を下げる。まぁ過剰演出。
「DXデミグラスハンバーグとドリンクバー2つ」
「かしこまりましたー」
 ……えっ?
 いつの間にボタンを押していたのだろうか。そして身動きが取れない状態を的確に狙っての犯行(さすがに深々頭を下げている最中に顔を上げるのはハズい)。まさかあの段階でこれほどの事を考えていたのか。真白ちゃんなんて恐ろしい娘。
「……」
 店員が居なくなって真白ちゃんの方をチラッと見上げる。
「ニヤり」
 真白ちゃんはしてやったりという感じで悪い笑みを浮かべている。つーか擬音語を口にするぐらいご満悦のようだ。
 つーか今更ドリンクバーってこれから何時間入り浸る気だよ。
 まったくもってデリカットの欠片もない真白ちゃんでした。
6

トモ 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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