ある日勇者が旅をしていると言い争っている二人がいました。
一人は森の民の王。
もう一人は地の民の王です。
この二人の話し合いはとても過激なものでした。
本来は議論の場として提供されたのでしょうか。綺麗に整頓されたテーブルはぐちゃぐちゃ。
部屋も散らかっています。
それに二人の言い争いを聞いてみるとお互いを口汚い言葉で罵ってばかりのようです。
勇者は間に入り、二人を宥めようとしましたが聞きません。
仕方なくとりあえず二人を引き離して別々に話を聞いてみました。
勇者は先ず森の王の話を聞くことにしました。
曰く、地の王軍が自分たちの住処である森を奪おうとしていると言うではありませんか。
さらには大事な大事な泉を奪うために兵士を配備して威嚇してくる、と言うのです。
全く恐ろしい事です。人の大切なものを奪おうとする地の王はなんて酷い奴だろうと勇者は思いました。
次に勇者は地の王の話を聞きました。
曰く、地の民は酷く困窮しているそうです。食べるものに困り、子供達はやせ衰えるばかり。
地の民の土地は痩せており、作物も十分に育ちません。川も旱魃で枯れ、森の民に援助を申し出ても断られているとのことです。
全く恐ろしい事です。困っている人がいるのにそれを無視するだなんて森の王はなんて酷い奴だろうと思いました。
よくよく話を聞いていけば、兵士を配備するのも、森に近づこうとする地の民を森の民が攻撃するからだそうです。
しかし森の民も先祖代代護り受け継いできた土地です。伐採し、その土地を耕して地の民に奪われるのなんて我慢なりません。森の民は森と共に生きるのです。
それに森の民も決して豊かな訳ではありません。皆が皆身の丈に合った生活をしているのです。
さてはて、勇者は困りました。
お互いの話を聞いても、どちらが悪いのか分からないのです。
助けてくれない森の民が悪いのか。
武力行使に出た地の民が悪いのか。
伝統と誇りを護ろうとして攻撃した森の民が悪いのか。
生きるために戦おうとした地の民が悪いのか。
おそらく二人の言い争いは決して終わらないでしょう。
そしていつか大きな戦いとなるのです。それは誰にも止められません。
結果的にお互いが疲れ、苦しみ、土地は痛み、衰えるのです。
しかし、誰もそれは止められるものでもありません。
お互いがお互いのために戦っているのです。
勇者はその場を後にしました。
彼はなにも解決できないまま、その場を去ったのです。
二人の争い声はどんどんどんどん大きくなっていき、はるか遠くの地に移っても、二つの音は鳴り響いていたそうです……