「えっと…、綾乃 幾さん、あなたは今日をいれて七日後に死にます」
「私は死神です」と言い張る女の子に言われる。
事の始まりは帰宅後。
幾は大学から帰り、ペットの黒猫にエサを与えている時に突然に。
「おかえりなさい」
家には誰もいないはずで、幾は周りを見回す。
すると居間の窓際の方に大鎌を持つ肌以外全身真っ黒な女の子が居た。
フードがついた長袖の真っ黒なワンピース。
長く手入れの行き及んでいる黒長髪。
幾よりは幼く見え、表情は不安と期待でなぜか笑顔だ。
育つ部分は育たずぺったんこ。
極めつけは浮遊中。
幾は食いつくようにその虚ろ気な眼で見た。
別に驚きもせず、何もしようとせずにだ。
特に用もなさそうな気がしたので幾は追いやるようにシッシッと手を振る。
「用が無いなら帰れ。つうか、幻覚まで見えるようになったのか…。鬱病になったか」
何事も無かったのかのように振舞う、が。
その反応で気を悪くしたのか、真っ黒な女の子は怒る。
しかし、同時になんでそんな思考になるのかと考えて同情もする。
そして複雑になり目を回して浮遊から床に落ちる。
ものすごい音をたてて。
びっくりして幾は振り返り、状況も把握出来ないまま女の子を自分のベットに寝かす。
黒猫もついていくが、面倒になったのだろうか、幾の頭の上にたれて乗っかる。
「いーかげん、おきろっつうの…」
ぺちっと女の子の額を叩く。
かれこれ一時間くらい寝ている。
黒猫もうんざりしているようで、女の子の上で丸くなってる。
たまに「うぅ~…」と寝苦しそうにするが、幾はそのたびに「いい気味だ」と小声でいう。
「腹減ったな…、しゃーねー、作るか」
ベットの前から立ち去り台所へ。
そして冷蔵庫を開けて残りの材料を確認する。
何も出さずに冷蔵庫を閉めて難しい顔で、
「なんもねぇ…」
苛立ちながら言う。
「あー、まー、いいか、カレーで」
調味料などを入れている棚を開け、カレールーを取り出す。
冷蔵庫から残り少ない牛肉とじゃがいも、にんじん、ケチャップを取り出す。
一方その頃。
「うぅ~…、た…、魂はとらないでぇぇぇえ!」
ガバ!っと行きよい良く起き上がる女の子。
黒猫は急な衝撃に耐え切れずベットから転がり落ちてしまう。
あたりを見回し、ふう…、と一息入れる。
転がり落ちている黒猫を見つけ、謝る。
「あぁ!ごめんなさい!」
抱き上げ、膝の上に座らせなでる。
そうしているといい匂いが漂ってきて、誘われるように歩いていく。
ちょうど幾がカレーを作り終え、盛り付けに入ろうとしているときである。
「私もくださいませんか?」
唐突になんの前触れも無く聞く。
「あー、まー、言う事は?」
質問を質問で返す。
「あ、おはようございます」
ペコリとお辞儀をして規則正しく言うか否かでお腹がなった。
女の子はジーっと幾を見つめ続ける。
負けたかのようにお皿を二枚だし、盛り付け、スプーンとともに渡す。
「んで、あんたは死神と?」
幾は食べ終わりまだ食べている女の子に聞く。
「あんた」と呼ばれたのが気に障ったのか、怒りながら質問にも答えずに言う。
「私にはリズノ・パーライト・アライム・ノムリムルというちゃんとした名前があるんです!」
ムっとしながらまくし立てる。
名乗りを聞いた幾はぽかんとし、わけがわからなくなってる。
「リズノ・パー…なんだって?」
それに付け加え「つか、長!」と叫ぶ。
「う…、長いのは承知です!「リアノ」と呼ばれてました。それと私は死神です」
カレーを食べ終えて、行儀良く手をあわせ「ご馳走様」と言う。
それにあわせて幾はお粗末さまでしたとお皿を片付けに入る。
その間、放って置いてしまっていた大鎌をポンっと消し、
何か黒い本をポンっと取り出しページをめくりだす。
そして幾が流し台にお皿を置き、麦茶のおかわりを持ってきて座ったときにめくる手が止まる。
「ありました…」
開いたページに人差し指を走らせながら確認し、宣言する。
「えっと…、綾乃 幾さん、あなたは今日をいれて七日後に死にます」
ビシッ!と人差し指を刺されて宣言される。
その宣言を聞き、幾は心底うれしそうだった。
(死ねる…?本当かよ、願ってもねぇぜ!)
「あー、えーっと、リアノ…だな」
「はい」
「今日とかにできねぇの?今、すぐに!」
「すみません、無理ですね…、というよりも、決められた時にならないと他に影響を及ぼしたりして本来の姿にならなくなって…」
苦笑しながら説明を続けるが、難しい顔を幾に向ける。
「でも、変なんですよね…。本来新人死神の私が死因不明の死亡予定者には配属されないはずなのですが…」
疑問の念も浮かべながら幾に話しかける。
その疑問を聞き、七日後が怖くなってくる幾。
「は?…待て、死ぬのは歓迎だが、そんなの聞いてないぞ?」
その言葉をリアノは同意し、言う。
「でしょう?私もおかしいと思うのですよ!」
「まー、そのうちわかる事だからいいか…」
死ぬ事には変わりないから開き直る幾。
だが、リアノは納得がいかず、いまだに考え込んでいる。
そんなリアノに追い討ちをかけるように幾が言い放つ。
「報告どうも。さ、帰ってくれ」
リアノは小首をかしげて不思議そうに見つめる。
そして、口を開く。
「なんでですか?死因がわかっているのならともかく、不明なのは見過ごせませんし、元々見ていないといけませんし」
「詳しい事はゆっくり聞く事にして、今日はもう寝る、疲れた」
リアノをつれて、亡くなった母の部屋に招きいれた。
この部屋で寝てくれと、布団一式をひく。
「そのタンスに母が使ってた服あるから着ていいよ」
そういい残すとドアを閉じ、自分の部屋へ寝に行った。
黒猫もついて行ったので、一緒に寝るのだろう。
リアノはひいてもらった布団にもぐりこみ、夢の中へ旅立つ。