【5月5日 午前00時10分】
【5月5日 午前00時10分】
篠田拓真(しのだ たくま 20歳 男 童貞)は自室のベッドで声を出して泣いている。今日は彼の20歳の誕生日であり、彼が魔法使いの称号を与えられる、記念すべき日だ。彼はいつまで経ってもシーツに押し付けた顔を上げようとしない。しばらくして嗚咽が収まったと思うと、また足をバタつかせて布団を殴りつけながら声を出して泣き始める。
トントン、と部屋のドアがノックされる。彼はピタリと動かなくなり、泣き腫らした目でドアの方を睨んだ。「入るぞ」という声と同じタイミングでドアが開かれる。
「拓真....」
ドアを開き、部屋の前に情けなく立ち尽くしているのは篠田卓郎(しのだ たくろう 50歳 非童貞)。拓真の父。彼は申し訳なさそうに頬をぽり、と掻きながら、ゆっくりと話し始める。
「拓真も、もう20歳だな....。おめでとう」
「....」
「......」
「....すまなかった....父さんな、知ってたんだ..お前が童貞だってこと....」
「......!」
「けれど、父さんにはどうすることもできなかった....もう大体察しはついている。拓真、お前、チンコ小さいんだろ....」
「な、なんで知ってるんだよ!」
拓真は思わずベッドから体を起こし、父の姿をしっかりと見つめながら尋ねる。
「お前にはまだ言ってなかったけど、父さんもな、昔....魔法使いだったんだ」
「な‥‥」
「いい機会だ、ほら、見せてやる」
そう言うと彼は穿いていたズボンをゆっくりと脱ぎ始めた。
ぱさ。ズボンが床に落ちる。彼はその下に穿いていたボクサーブリーフをも勢いよくずり降ろした。
「見たか。これが父さんだ」
「あ..あ....!」
下半身をあらわにしている父の姿、もとい下半身のみを見つめて拓真は言葉を失った。父の股の間には、チンコと呼べるような物が見当たらなかったのである。
「よく見ろ!拓真!凝視しろ!」
父の叫びで我に返った拓真は、冷静に、じっくりと父のキンタマ付近を観察する。すると陰毛の間からぴょこりと顔を出しているなにかを見つけた。
「それ..その小さくて見つけられないようなの....まさか....」
拓真は震える声で父に尋ねる。
「そうだ、これが父さんのチンコだ。長さを定規で測るにも、小さすぎてかなわん。勃起時5センチといったところか」
拓真はゆっくりと父の股間から目を逸らし、自分の股間に目をやる。股間に手を添えても、拓真の手にチンコの感触は、ほぼなかった。
「俺と、一緒だ....」
「だろうな、そう思ったんだ。その極小チンコも遺伝だろうな....。お前は顔も悪くないし、勉強だってそこそこできるし、スポーツだって得意だろう?父さんには内緒にしてたみたいだが、今までに4人彼女がいたことも知ってる。普通に考えて、お前は20歳まで童貞でいるような人間じゃない」
拓真は堪えきれず涙をぼろぼろ零しながら、父に言った。
「ごめん....父さん....魔法使いになんて、なっちゃっ..て..本当にごめん....」
「拓真....いいんだ。肩書きなんて、どうでも」
彼は膝下までずり降ろされたボクサーブリーフを腰骨の上までグッと上げ、床に落ちたズボンをゆっくりと穿き、部屋の中へ入った。ベッドに座り込む拓真の頭を優しくぽんぽんと叩き、彼は言う。
「父さんはな、魔法使いの息子がいても全然恥ずかしくない。けどな、お前がどうしても魔法使いという称号を捨てたいと言うのなら、いいことを教えてやる」
「..?」
「成人した時点で童貞だと魔法使いになるよな。しかし、21歳になるまでに童貞を捨てると、魔法使いの称号は剥奪される。お前にはあと一年だけ非童貞になるチャンスがある」
拓真は顔を上げない。ゆっくりと、怒りか、それとも悔しさか。どっちつかずな声色で言う。
「..俺のチンコは......勃起時2センチなんだよ!どうしろって言うんだ....!」
「グダグダ言ってるんじゃない!!!!」
父は顔を真っ赤にして叫んだ。部屋が揺れた気がした。
「チンコが小さいからなんだ!!お前はチンコのサイズだけで人を見るのか!?」
しかしその叫びに怖じる気配もなく、ただ項垂れる拓真。
「仮に童貞喪失のチャンスを得たとしても....2センチじゃ入れられないだろ....」
父は一瞬戸惑ったような表情をして、
「あ....そうかも、しれないな..」
とだけ言い、ゆっくりと拓真に背を向け、部屋を出た。ドアが閉まると、廊下から差す光も途絶え、そこは真っ暗な部屋に戻った。
拓真はもう一度、泣く事にした。