【5月6日 午前01時00分】
【5月6日 午前01時00分】
拓真は自宅から歩いて30秒の距離にある深夜のコンビニでアルバイトをしている。今日のシフトは1時45分からだが、彼はもう外にいた。彼には日課になりつつあることがある。この時間は、外を一人で歩く無用心な女が一番襲われやすい時間帯なのだ。意外とそういった無用心な女は多い。強姦されたいという願望でも持っているのか、と尋ねたくなるような格好をした女も多い。
最近の拓真の日課。それは、今にも強姦される、という状況の女を助けることだ。ヒーローになりたいとか、そういうわけではない。ただ、深夜に家の外で男の叫び声やら女の喘ぎ声がしてるとよく寝られないので、自分がこうしてこの近辺で女を助けていればすこしはこの近辺での強姦事件発生率が下がってくれたりするのでは?と考えながら、今日も拓真はコンビニの裏口前で息を潜め事件発生を待つ。
「やめて!!助けて!!」
ほらきた、女の声。声のする方へ拓真は走る。公園の方向だ。拓真の俊足は30秒足らずで公園へ到着する。
「おら、抵抗すんなバカ」
「こんな時間に一人で歩いてちゃだめだぜ?」
と、モブキャラを自称しているかのような、よくある科白を吐きながらジャージ姿の男二人が一人の制服姿の女を押さえつけている。
「やめとけ」
街灯に照らされながら男達に一歩一歩近付く拓真が静かに言い放つ。とても童貞には見えない凛々しさで。
「あん、なんだ、てめ」
「やんのか」
男の一人が女から手を離し、ジャージの袖を乱暴にたくし上げ、拓真に向かって肩を揺らしながら歩いていく。制服姿の女はもう一人の男と一生懸命に格闘しているが、どうやら無駄なようですぐに地面へと押さえつけられてしまう。
「すいませんねえ、お兄さん、俺ら18で童貞なんすよ、笑ってやってくださいよ」
20で童貞の男、拓真は黙っている。
「俺ら魔法使いになんて絶対になりたくねんだ、すいませんけどね、邪魔しないでくれますかね?お兄さんよ」
昨日、正式に魔法使いの称号を得た男、拓真は黙っている。
「黙ってんじゃねえよ....おい」
男は乱暴にぐい、と拓真の肩を揺らす。
「お前ら..情けないと思わないの」
拓真がゆっくりと、静かに言う。男は顔を引きつらせる。
「あん?てめあんま調子乗ってると..」
その時だった。
拓真の穿いているジーンズの右の後ポケットに入っている財布の中に入っている魔法使い証明書が眩く輝き出した。拓真の周り、半径5m程が光に包まれる。魔法使い証明書は自動的に一時間ごとに発光するようになっているのだ。「私は魔法使いです。童貞です」とアピールをする為に。悪意の塊である。
ジャージ姿の男二人はひとつ、間を置き、一気にどっと笑い出す。拓真が自分を救ってくれるのかと淡い期待を抱いていた地面に押し付けられたままの女はその眩い光を見て「やめてーーーーー!!!!助けて!!!助けてーーーー!」と、一際うるさく泣き叫び出した。あいつも自分を犯すのか、と思っているようだ。
「お、おい!あんた、魔法使いだったのかよ!ははは!!笑えるな!言ってくれればこの女、分けてやったのに!!」
腹を抱えながら男達が笑っている。
拓真は今すぐにでも家に帰って泣き出したかったが、グッと堪え、近付いてきていた男のみぞおちを一発、とても深いところまで、殴った。男はガクンと崩れ落ち、地面へ倒れ込んだ。女を押さえつけているもう一方の男は状況を理解する前に後頭部を一発殴られ、ゆらゆらしている間にみぞおちへの深いフックを喰らい、気を失った。
拓真は黙って立ち尽くしている。
制服姿の女は目に涙をためながらしばらく拓真を見上げ、なにか思い出したようにばっと立ち上がり、
拓真に背を向け一目散に走り出した。
逃げられた。助けたのに。魔法使いってだけで。今まではお礼を言われるどころか完全に付き合える感じにまで進展した女性もいたのに。このチンコのおかげでセックスまで漕ぎ着けるわけもないが。
そうだ、俺はもう魔法使いなんだ。拓真は光り輝く自分の尻を見て、笑った。その頬には涙が一筋。