二週間と言う、長くも短い期間があっという間に過ぎた今日。
部室に呼び出されたので、恐る恐る部室のドアを開けると、仁王立ちをしながらミヤノが俺のことを待っていた。
「久しぶり、チキンくん!」
「チキンって俺のこと?」
「あんた以外に誰が居るの? まぁ、とりあえず座りなさい?」
「……はぁ」
ミヤノに言われた通り、パイプ椅子に座る。
「んで、そのどうだったんだ、ミヤノ?」
「うーん、まずまずだったわ。――その前に、約束のあれは大丈夫なんでしょうね?」
「ああ、報奨金的なあれならちゃんとここに」
通学カバンから茶封筒を取り出し、対面するミヤノに渡す。
「一枚、二枚、三枚、四枚、五枚っと。うん、これでオっけ」
五万をちゃんと受け取ったということは、それなりの成果があっのだろうかと、疑心暗鬼になりながら俺は。
「その……どうだったんだ。ナオは、その……」
「うーん、そうねえ。そうだ。直球的な真実からしりたいか、それとも細部を説明した真実を知りたいか、選んで?」
「それはどういうことだ?」
「答えだけ知りたいか、それともそれに至る途中式が知りたいか。教えて」
俺は白黒が知りたいだけだ。そう思いながら。
「途中式のほうが知りたい」
俺は、恥ずかしながら真相を聞く自信がなかった。
自らの答えすら出ていないこの状況で答えを聞くなどは出来無い。
「そう、あんたがそう言うなら教えるわ」
とミヤノは一枚の紙を俺の前に差し出した。
「なにこれ?」
「途中式みたいなもの。ほとんど答えが出た途中式だけど」
紙を見ると誰かの携帯と思われるメールアドレスと電話番号が書かれていた。
「これ、誰の連絡先?」
「それは自分で出しかめて。とりあえず、その連絡先の相手と連絡取って会ってみれば分かる」
「これに五万の価値があるとは到底思えないのだが」
「そう思ったなら、その相手と会った後にあたしにそう言って。お金は返すから」
「分かった。で、この人的にはメールと電話、どっちで連絡を取った方がいいんだ?」
「その人的には別にどっちでもいいみたいだけど、あんたはどうしたいの?」
知らない相手の電話番号におずおずと電話をかけるほど勇気を持ち合わせていなかった俺は、携帯のメールを開き、手打ちで紙に書いてあるメールアドレスを入力し。
タイトル【初めましてナギサと言う者です】
会えば分かると急に言われたのですが、会えますか?
と、自分でも意味深なメールをその謎のメールアドレスに送信した。
ものの十分もしないでメールは帰ってきた。
タイトル【Re:初めましてナギサと言う者です】
君がナギサくんか。宜しく。
今日はちょっと用があってダメだけど、明日なら会える。
どうする?
タイトル【Re2:初めましてナギサと言う者です】
お会いしましょう。
場所はどちらがいいですか?
タイトル【ReReRe:初めましてナギサと言う者です】
君が指定してくれ。
僕と君は案外近い場所に住んでいるから近場ならどこでも大丈夫だ。
タイトル【Re2Re2:初めましてナギサと言う者です】
なら……。
駅前のマックなんてどうですか?
放課後16時くらいに待ってます。
タイトル【Re2Re2Re:初めましてナギサと言う者です】
了解した。
少し送れるかもしれないが、待っててくれ
「どうだった? メール」
とミヤノの胸をさり気なく揉みながらミヤノは言った。
「明日会うことになった」
「そう、頑張ってね」
「ちゃんと五万分の成果があることを期待してるよ」
「多分あるわよ、成果とは違う驚きが」
◇
「やぁやぁ、初めまして。ナオちゃんの幼馴染くん」
俺の目の前に座り、俺を侮辱するような視線を送りつけてくるこの男は、何を隠そう、ナオと一緒に歩いていた野郎だ。
整った顔出し、スラっとした体型。俗に言うイケメンと言うやつだ。俺のクラスに居るイケメン君よりもイケメンというのがむかつく。
「こうして顔を合わすのは初めてだね」
「そうですね……」
ナオが通う高校の制服を着た、名も知らぬ男に威圧されながらも、俺は。
「昨日のメールの相手って……」
「そうだよ、僕だよ」
「やっぱり……で、俺のことは誰から聞いたんですか?」
「ナオちゃんから」
ナオちゃんから。なんだこいつは、なんでこんなにも馴れ馴れしいのだ。
思わず待ち時間に暇だろうと頼んだハンバーガーを握りつぶしちゃったじゃないか。
「そうなんですか……」
「ねえ、ナギサくんっていつもそうなの?」
「そうなのとは……?」
「敬語っていうかさー、何ていうか。一応、俺たち同い年だし?」
「なんで同い年って分かるんですか?」
ナオちゃんから聞いた。
「ナオちゃんから聞いた」
やっぱり……。
「なんでも聞いてるんですね」
「んまぁ、そうなんだけど、その前にさ、敬語辞めてくれない?」
「なんで……ですか?」
「なんか威圧的と言うか、僕、そういうの好きじゃないんだよね」
「分かった……それでナオとはどういう関係で?」
シクッた。と思ったが、俺の口から出たこの声は確実に相手の耳に伝わってるだろう。
「んー、親密な関係ではあるけど、まぁ、その前にさ、お互いの名前を知っていないとあれだろうし、僕の自己紹介を訊いてくれる?」
「どうぞ」
「じゃぁ名乗ります。僕はカオル。ナオちゃんと同じ高校に通っていて同じ学年で同じクラスメイトをしてる、見ての通り男です。よろしく」
と右手を差し出すカオルと名乗った男。
それを突き返すこともないので、俺はそっと、しかし力強く、その手を握り返した。
「よろしく」
「で、だ。ナギサくん。君が訊きたいのは、多分、僕とナオちゃんの関係について。だよね? さっきも言った通り、僕とナオちゃんは親密な関係だ」
「親密?」
「そう、親密。君が親密って言葉をどういう風に捉えているのかにもよるけど、僕とナオちゃんは親密な関係にある」
「具体的に教えてもらえると嬉しいんだが」
そうだなあと腕を組みカオルは。
「胸を揉ませて貰えるくらい親密な関係かな」
グサリと胸に何かが突き刺さったような気がした。
大きな十字架のようなものが俺を貫通し、その十字架を放った相手は俺を嘲笑いながら俺の反応を見ている。そう、このカオルと言う男が。
「何を言ってる……」
「あれ。ナギサくんは幼馴染だっていうのに、ナオちゃんの胸を揉んだことないの!?」
とわざとらしく大げさに言うカオル。
「……無い」
「そうなんだ! あの柔らかくて、揉みごたえのある、あの神の領域に達するばかりの胸を、揉んだこと……ないのー!?」
周りの客の目が痛く突き刺さったが、カオルと言うこの男は関係なさそうに続けた。
「せっかく、僕と同じ、もみてぃっくを持ってるって聞いたのに、なんか興ざめだわ」
「……もみてぃっくを持ってる? 君が?」
「うん。君一人が持ってる訳じゃないよ。僕だって持ってる。そう、君と僕は同じ」
言葉が枯れる。心臓の鼓動が止まりそうになりながらも、俺はカオルと言う男の顔を見た。
整った顔立ち。自称イケメンの俺では太刀打ち出来無いであろう、その顔立ち。そして、俺と同じもみてぃっくを習得している者。
――勝ち目なんて無いじゃないか……。
「それじゃあ、今度は僕から質問だ」
カオルと言う男は俺の目を見つめながら。
「君、ナギサくんに取って、ナオちゃんとはどういう人なんだい?」