「知り合いってわけじゃぁありませんが、同じクラスメイトのヤツです」
と俺のことを睨みつけながらミカンは言った。
「そうだったの! なんて偶然、なんて必然!」
と手をポンと叩き合わせ喜ぶサヤさん。
この二人の温度の差は一体何なんだろうか。それよりも、なんで不良不登校児のミカンがこんなネコミミメイドカフェで働いているのだろうか?
「あのー……」
俺は二人に気をつかなながら。
「お二人はどういう関係で?」
「む、昔……アタシがお世話になって……それで……」
ミカンは視線を泳がせながら。
「その……なんだ? プラプラしてるって説明したら……そのバイトしないか? って言われて……そのなんだ? 断れ切れなくてだな」
胸が無いのが残念極まりないが、元のスタイルがスタイルなだけミカンは見事にメイド服を着こなしている。
ハッキリ言う。可愛いし綺麗だ。学校ではムスっとした感じで居たこのミカンと言う少女。
普通なら道を開けてでも避けたい相手なのに……なんだろ……この何とも言えない……気持ちは。
「そ、そうだったのか……」
俺は、どう反応していいのか困りながら答えた。なんだろう、この気持。気持ち悪いって訳じゃない、寧ろ、心の奥に何かときめく。でも、まてまてまて、この女はタカオカさん虐めの主犯だぞ。
「ん、そうだ!」
と何かを思いついたかのように手をポンと叩くサヤさん。
「どうしたんですか、いきなり」
と俺が聞き返したが、サヤさんは俺に言ったんじゃないと言う視線を俺に叩きつけて。
「ミカンちゃん?」
「……はい?」
「ちょっと頼みがあるんだけどいい?」
「頼み……ですか?」
「そう、頼み。あなたなら経験も豊富そうだし、大丈夫だと思うの」
「……は、はぁ?」
まさかな。と思いながら俺は黙って二人の会話を聞いた。
「ナギサくんの修業を手伝ってくれない?」
「……修業ですか? 厨房とかそういう感じの修業……ですか?」
普通に考えればそういう流れだろう。でも違う、多分サヤさんが言っているのは――。
「違う、違う! 女の子を喜ばせる修業!」
と、その瞬間、何かを理解したようにミカンの顔が真っ赤になった。
「な、ん、な、なに言ってるんですか、サヤさん!」
「えー」
サヤさんは不貞腐れた顔で。
「いいわよねえ、ミカンちゃん?」
この二人には何かがある。俺の直感がそう言っている。
「……わ、わかりました。で、でも、具体的にどんなことをすればいいんですか!?」
了承しちゃうのか! ――と言うか、ミカンはサヤさんに何か弱みでも握られているのだろうか? というか、その前に学校に居た時のミカンとキャラが違いすぎて、どう接していいのか全く分からねぇ。――まぁ、同じクラスメイトってだけで話したこともないんだけど。
「んー、簡単。ナギサくんにおっぱいを揉ませてあげて?」
「はぁ!?」
と声を荒げるミカン。
それもそうだろう。俺も『○○ちゃんに、おちん○んを触らせてあげて?』なーんて、いきなり言われたら、喜ぶに決まっている。
「ふ、ふ、ふ、ふざけないでください!」
「あらー……いやなのー?」
「嫌に決まってるじゃないですか! しかも、こ、こんな訳のわからない男に……アタシのむ、胸をなんで……!」
「そりゃ、出来るなら私が教えてあげたいわ。でも、私には旦那さんがいるから」
と顔を赤く染めるサヤさん。
旦那が居なければその整ったおっぱいを揉ませてくれるんですか? と訊きたいところだが……雰囲気からして俺が口を出していい感じでもないので、俺はできるだけ存在感を消して二人の会話を引き続き聞くことに。
「それで、ど、どうしてアタシなんですか!」
「んー、だって、一応二人は顔を知ってる訳だし? 他の子に頼むよりもミカンちゃんのほうが、ナギサくんも揉みやすいかなあ……って」
「そ、そう……言うことじゃなくて、ですね!」
まるで処女のように慌てふためくミカン。その姿を見て、どうして学校でこのキャラで通さずに不良キャラをしてるんだろう。と疑問に思うばかりだ。
「んー、まぁ、ミカンちゃんの胸を揉んでばっかり居るとミカンちゃんしか喜ばせることしか出来なくなっちゃうから、最後まで付き合えって言ってるんじゃないの。ナギサくんには、ある程度ミカンちゃんで力をつけてもらいたいのよねぇ」
「だからって、どうしてアタシなんですか!」
「んー、ミ・カ・ンちゃん?」
サヤさんは今までの穏やかな雰囲気とは打って変わって、荒々しい太龍を思わせるような雰囲気をかもし出しながら。
「あんた、これまでの恩。んで、今、家に居候させてやってる恩をアダで返すっての?」
「……そんなことはナイっす」
「あん? なら気持ちよく、ナギサくんに胸を揉ませてやれよ? ああ?」
「……でもサヤさ――」
「あん? あんたさ、今なにしてるか親御さんに逐一アタシが報告してもいいんだけど? ああ?」
「わかりました……」
「ってことだから!」
サヤさんはミカンから俺へと視線を移して。
「ナギサくん。この子の胸を好きにモミまくっていいわよ!」
サヤさんは、さっきまでのサヤさんに戻っていた。
今、一瞬現れた太龍が如くのサヤさんは一体……と思い、口を閉ざしていると。
「分かった……? ナギサくん」
とサヤさんは殺意を込めたような視線で俺に訊いてきたので俺は即座に「了解しました!」と軍人のようにその問に了承した。
「その……ミカンさん……」
あの後、「面接はこれで終わり。ミカンちゃんはもうちょっと休憩してていいから、ナギサくんと親睦を深めなさい」と言い残し、サヤさんは休憩室から出ていった。
「ミカンでいい」
先ほどとは打って変わって、学校に居る時と同じような雰囲気を醸し出すミカン。
「そ、そうですか……」
心のなかで呼び捨てしているだけあって、呼び捨てに抵抗が無い――という訳ではないが、本人が呼び捨てでいいというのなら、俺がそれを拒否する意味もないので。
「んじゃぁ、ミカン」
「……なに?」
「早速ですが、おっぱいを揉ませてください」
「あぁあん?」
とミカンは腕を組み足を組みながら不機嫌そうに答えた。
「いや、やっぱり……いいです」
ミカンはチッと舌打ちをして。
「あんたさ、いつからバイト?」
「一応明後日からです……」
「あー」
ミカンはまたも不機嫌そうに。
「その敬語もウザイから辞めてくれる?」
「わ、分かった……」
「んで、明後日からだっけ?」
「そうだけど……それがどうしたの?」
そいえば、ミカンってあのイケメン君の知り合いだったけ? それでタカオカさんと一悶着会って停学になって……ネコミミメイドか。
「あんた、ナギサとか言ったね?」
「う、うん?」
「……っつーかもう、おおおああああああああぁああああああ!」
ミカンは髪を両手でグシャグシャして。
「もう、こっちにも心の準備ってのが必要だから、明後日まで待って! 明後日以降なら、アタシの胸、好きに揉ませてあげるから!」
ミカンは、見るからに心の整理ができていない。もう、自分でもなにを言っているのかよく分からくなっているのが目に見えて分かる。
「分かった……今日の所はとりあえず帰るよ」
俺はそう言い残し、荷物を持ち休憩室を後にした。
「あれ、ナギサくんもう帰るの?」
休憩室から出ると、その前で作業をしていたサヤさんにばったり会った。
「はい」
「ミカンちゃんに胸揉ませてもらった?」
ここで正直に言うと、後々ミカンが大変なことになりそうだったので。
「はい。揉ませてもらいました」
「そう? なら良かった」
と笑顔のサヤさん。
やっぱりサヤさんはこの笑っていた方がにやっている。……でもさっきのあれはなんだったんだろう……?
「じゃぁ、気おつけてね」
「はい」
俺はサヤさんに見送られ、店の裏からネコミミメイドカフェの後にした。
明後日から、明後日からおっぱいが揉み放題……になる。もしかしたら、ミカンの胸が俺にジャストミートするかもしれない……そんなわい期待を持ちながら、俺は帰途についた。