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rap1. 葛原丘の巫女1

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 神奈河は釜倉、|葛原丘《くずはらおか》の巫女、|木乃峰《このみね》|結衣《ゆい》が目を覚ましたとき、彼女はいくつかの初めての感覚を味わうことになった。
 即ち、
 椅子に両手両足を拘束され、身動きがほぼ取れないこと。
 目隠しをされており、周りの状況が全く分からないこと。
 口にボールギャグを噛まされ、呼吸が苦しく、涎をとめる手段がないこと。
の三つである。結衣の意識が覚醒するにつれて、昨晩の苦々しい記憶が甦る。カイと名乗る妖魔に捕まえられたのだ。腹部に痛みはあるが、それ以外に体に目立った支障はない。強いて言うのなら、空腹を感じるだけだ。拘束さえほどけたら、どうにかすぐにでも戦闘は出来る。カイと真正面から戦うのは無謀でも、初めから全力で逃げれば仲間の許には帰ることは出来そうだった。
「こほっ……」
 口内に食い込む拘束具が、彼女の円滑な呼吸を妨げる。ギャグを噛まされた人間は舌を自由に動かすことができず、自力で唾液を嚥下することができない。普段は意識することはないが、唾液の粘性はかなり高く、球状の拘束具の穴に絡まりつく。それが息によってこぽりと溢れ、少女の桃色の唇を伝って巫女装束を濡らした。
「ああ、起きた?」
 忌々しいほどに清々しい声が聞こえた。聞き覚えのある、妖魔カイのそれ。
「タイミングが良かった。今ちょうど淫蟲を召還できて。これから君で試そうと思ってたんだ」
 明るい声と内容のおぞましさのギャップに、結衣の体は自然と強ばった。
 目隠しを外され、視界が戻る。どうやらそこは円角寺の一室のようだった。あたりに人の気配はない。もっともそれは極当然だ。ここは普段結衣が生活している世界と同じ空間ではあるが、同時に別世界だった。妖魔と人は同じ空間にいながら、普段生存している分には互いの存在が重なり合わない次元にいる。これを妖魔や式者は、この状態を空間の『位相』がずれていると呼んでいた。
「さて、まずはどれから試したものかなァ……」
 上機嫌な声音だ。新しい玩具を手に入れた子供のように。
 カイとは別にもう一人の妖魔もいた。こちらは雌だ。抜群のプロポーションに秀麗な容姿。おそらく淫蟲の召還を手伝った淫魔の類だろうと結衣は見た。
「くくく……不安か?」
 助けが来る見込みの薄さを考えるなら、まだ齢十六の少女が不安になるのも無理はない。
「…………」
 気持ちだけは負けまいと殺気を込めてカイを睨むが、当然ながら彼はそんなものはどこ吹く風と言った調子で話を続ける。
「それより巫女さん、これを見てよ」
 彼が嬉しそうに両手に乗せたのは、ヒルとナメクジの中間のような軟体生物だった。表面が体液でぬめぬめと妖しげに光っている。長さは手の平に収まる程度、中央部が膨れており、巨大なヒルのような形をしていた。
「包口蟲という淫蟲の一種でね、君の小指をようやく咥え込める口を持ってる。中にはびっしり柔毛が生えていて、ちょうど細い触手みたいな感じでそれを一本一本動かせるんだ。人間の雌の敏感なところを口内に入れて、その柔毛でたっぷり扱いて嬲ってくれる。もちろん淫蟲っていうくらいだから、この子達の唾液は極上の媚薬だ。君は何分くらいでおまんことろとろになっちゃうかなァ?」
「ッ……」
 全身に嫌悪が走った。カイの言葉を遮るように結衣は全力で脱出を試みるが、体をぴくりとも動かすこともできず、蟲を焼く巫女の結界を発動させることさえできそうになかった。
「ああ、巫女の力はこの空間では使えないから、無駄に体力を消耗させないほうが良いよ。君ら式者じゃなければ、すぐに発狂するくらいの位相のずれた空間だし。まァだから淫蟲なんか使っても他の式者にはばれないし、君みたいな可愛い子を、人外の生き物でたっぷりいたぶることができるわけだけど」
 そこに至って彼女は縄だけではなく、カイの妖術によっても体のあらゆる動点が拘束されていることに気付いた。が、それを知って何になるというわけでもない。再度目隠しをされ、巫女服の胸元に二匹、足から一匹の包口蟲が張り付けられる。出来ることはそれらが這い寄ってくる嫌悪を耐えるだけになった。視界を奪われ分、結衣にはより触覚が鋭くなっているように感じられた。人間の体温より僅かに高い包口蟲が数分かけて彼女の胸の先端に辿り着き、膨らみかけた双丘の頂点を口内に含む。
「……ぅ……」
 嫌悪感に思わず不快な声が漏れた。淫蟲の口内は、這いずる体温よりさらに熱い。催淫効果のある唾液を塗りつけられ、乳首をゆっくり吸われ、押しつぶされ、柔毛で磨かれ、弄ばれる。脚から這い上がってきた淫蟲は下着に潜り込み、秘所に到達する。まだ陰毛もろくに生えていない少女のクレバスにその胴長の体をねじ込み、敏感な肉芽を見つけると、包皮が被ったままのそれを口に含んだ。口内にため込んだ粘性の高い唾液をクリトリスに絡め、舌の役割を担う細長い二本の触手が丹念に淫液を塗りつけていく。
 胸の蕾と淫核が淫蟲に呑み込まれてから数分。
「ふっ……ん……ッ!」
 漏れる声に艶が混じり始めた。巫女である結衣は当然処女だが、普通の少女として生きてきた16年の間、自慰をしたことがないわけではない。経験は三度ほどだったが、一応性感も知っている。だから自覚してしまう。今彼女が感じているのは、嫌悪だけではなく快楽も混じっていることを。
 二本の触手は包皮に潜り込み、そっと結衣の花芯に絡みつき、ゆっくり扱き始めた。宝石でも磨くように、丁寧にクリトリスの表面を撫で回される。包口蟲の粘液が潤滑剤になり、にゅるりにゅるりと上下に擦られる度、体の芯が熱くなっていく。
(いや……! いやぁ……!)
 自身が感じている感覚が信じられずに、結衣はひたすらその感情を否定し続けた。人外の生物に自分の秘所を嬲られ、感じているなど、式者でない彼女でなくとも受け入れがたい現実だ。その反応は極めて自然と言える。
 けれど少し別の視点から言えば、彼女が快楽に少しずつ沈んでいくのもまた道理だ。淫蟲は妖魔が『人間の雌』の弄ぶためだけに用意したシステムで、唾液は雌の本能を晒し出すありとあらゆる成分を含んでいる。女の小さなクリトリスには男性のペニスと同じ数の神経が通っており、蟲はそこを責めることに特化しているのだ。何の耐性もない少女が、さながらクスリ漬けにされるように雌の悦びに侵されるのは極めて自然だ。ぴんと突き立った桜色の蕾さえ、淫蟲の口の中で嬲られては、彼女に快楽信号を送り続けるだけの器官に過ぎない。
「ッぐ……ぁ……!」
 可憐な唇から涎は垂れ流され、巫女服の胸元はべとべとになっていた。目隠しをされているために、どうしても意識は下半身や胸に集中してしまう。耳から聞こえる音は少女の下半身から微かに響く淫靡な水音だけ。くちゅくちゅと音を立てて弄ばれるクリトリスが、結衣から理性を一枚一枚はがすように奪っていく。包口蟲が結衣の下半身に到達してから五分ほど、彼女の下着は淫裂から溢れる蜜でぐしょぐしょになっていた。
(あ……やば……い……クリを……そこ、ばっかり……)
 淫蟲の口内の触手が、彼女の肉芽の根本を緩く縛りあげる。そのまま柔らかく締め付ける触手の輪が、ペニスでもしごくように緩やかに結衣の肉芽を上下に擦りあげていう。とろとろの淫液は粘膜に染み込んでいき、一回扱かれるごとに結衣の口から「んっ……」と押し殺した甘い声が漏れ出してくる。
 決して人間同士では味わうことの出来ない甘美な責め苦に、彼女の体はすでに限界寸前だった。
(や、だ……イきたく、ないのに……)
 じゅく、じゅく、じゅく。蟲の二本の舌触手が、今までよりも鈍く重い刺激を与える。結衣は背中を仰け反らせてその快楽に耐え、腰をびくびくと痙攣させた。
「お楽しみだねぇ」
 くっくっくと忍び笑いを漏らし、カイの気配が結衣に近づいた。
 忘れかけていた敵の存在に即座に体が反応する。けれど二度、三度と淫核を扱かれ、結衣の反抗心はそぎ落とされてしまう。
「一度で気をやってみるか?」
 結衣は即座に首を横に振った。感じているのは認めざるを得ないが、自分からそれを吐露するほど落ちぶれたつもりなどなかった。
「そうだろうねぇ。もっとも体はそうでもないみたいだけどなァ」
 くちゅくちゅくちゅくちゅ、小刻みに花芯を責められ、「……ぅ、あ、あ、あ、……ぁ……」とだらしない声が零れる。陰部は愛液でどろどろになり、不浄の穴まで濡れてしまっていた。
「せっかくだし、初イキの顔でも晒してもらおうかなァ」
 カイは結衣の下顎を摘み、無理矢理顔を上げさせる。
(……イきたくない……! こんなので……イきたくない……)
 くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ……。
「ッッ……! ……ぁ、あ、あ、あ……!!」
 けれどその喉をならしたのは諦めるようなか細い声。腰が痙攣し、脚はがくがくと震えている。
 緩急もなく単調に責められる刺激も、ついに我慢できず、
「っや、あ……ぁ!!!!」
 びくんびくんと全身を大きく震わせて絶頂する。
 人生で初めて経験するオーガズムに、少女の感覚は圧倒された。あまりの快楽に一瞬自分の境遇を忘れてしまうほどに。カイが見ていることも忘れ、だらしなくその快感に酔いしれる。
「二十分か。まァ持ったほうかなァ」
 そう呟かれて、ようやく彼の存在を思い出した。けれどぐったりして反抗する気力も起きない。
 淫蟲の媚薬が回った体に、性的絶頂の余韻は深く残っている。それが初めての絶頂とあれば、少女が息を乱したまま脱力した快楽に浸るのも無理はない。だが、結衣の直面する現実は、それほど彼女に優しくはない。
 淫蟲がまたしても結衣の敏感な突起を口内で弄り始めた。新たな刺激に体は勝手に反応してしまう。
「ふぐぅ……!?」
「あっはっは。何を驚いてるの? まだまだでしょ?」
 からかうようにカイは嘲った。結衣は目隠しごしに彼を睨みつけた。
「くふふ、そうそう! その意気だァ」
 絶頂の間も蟲の唾液に浸され続けていた体は、すぐに熱を取り戻した。
 二度目はさらに過酷な責め苦が始まる。
 クリトリスに吸い付いていた包口蟲が、舌触手を器用に使って包皮を剥き、露出した花芯をその口内の柔毛で嬲り始めた。口をすぼめて、あくまで柔らかに敏感な肉芽を扱く。うねうねと粘膜をはい回る甘い甘い刺激を、拘束された少女は何一つ抵抗出来ずに受け入れるしかない。
 すぐにイかされることを覚悟したが、その見当は外されることになる。

 彼女がようやく絶頂を迎えられたのは、実際にはそれから三時間も先だった。

 その話はまたいずれ詳しくすることになるだろうが、今は話を先に進めよう。
 結衣は生涯で初めての性的絶頂を経験させられたその日、七時間ほどかけてあと六度のオーガズムを経験することになる。包口蟲の催淫液によって絶えず発情させられたまま、だ。
 こうしてたっぷりと雌の悦楽を刻み込まれた結衣の体は、『妖魔の蟲には容易く絶頂させられる』ことを数時間かけてじっくりと覚え込まされた。

◆◆◆

 葛原丘の巫女が包口蟲に嬲られている間、円角寺のまた別の一室では、二人の妖魔が対峙していた。かたや湯飲みを行儀良く持って口に運ぶのほほんとしたカイであり、かたやその姿を苦々しく眺めるキョウという淫魔である。豊かな体つきに、脱色したような金の髪、濃く塗られた化粧は娼婦のような印象を与えた。
「仲間がやられてるってのに、てめぇはこんなところでロリコンごっこか。アタシは見損なったぜ、カイ! あんたはもっと頭のキレる妖魔だと思ってた」
 ずずずと茶を啜り、正座したままカイはほぅと一息吐いた。
「僕がそんなに高く買われてるたァ驚きだ」
「見損なったつったんだ!!」
「まァまァ、落ちつけよキョウ。急いても良いことはないと言うだろう?」
「はぁ!? 落ち着けだと!? これが落ち着いてられるか! てめぇついに脳みそが腐りやがったか!? いいか? 良く聞け。神奈河を覆うこの結界はどこにも穴がねぇ。どこにもだ。空もだ。そして神奈河の式者達がこぞって妖魔狩りをしてる。昨日だけで二百だ。今夜もやられる。今夜だけじゃねぇ! これからずっとだ!」
 まくし立てられる言葉を、カイは湯飲みの水面を眺めながら聞いていた。
「…………」
「…………」
「それで?」
「あ?」
「だからそれで?」
 静かなカイの声に、キョウは思わず鼻白んだ。
「だから、って……お前!」
「……はぁ。いいかいキョウ? お前は少し冷静になるべきだ」
「なんだとっ!」
 あくまでけんか腰のキョウに、カイは少々怒気を混ぜて話し始めた。
「じゃあ聞くが、今の僕らに何ができる? 鶴陵の巫女の結界は強固で、それを破る術はない。ましてその結界を張った術者を討つことなんて夢のまた夢だろう。お付きの従者にすら、僕ら二人で挑んでも勝てるかどうか。逃げることも戦うこともできないんだ。だったら今は動転せず、事を静観するしかない」
「それじゃあお前、このまま殺されろってか?」
「まァそういうことだ。今はな」
「ふざけんなっ!」
「最後まで話を聞けよ。今は、って言っただろ。昨日可能性が見えたんだ」
「ああ? 年端もいかない少女をいたぶってか?」
「あれはあれで少女嗜好に目覚めそうだが、まァ言いたいことそういうことじゃない」
「死ね、クズ」
「キョウさすがに暴言吐きすぎ」
 カイは少し凹んだ調子で言った。
「いいから早く話を進めろ」
 カイは両手の平を天に向けて首を竦めた。「君が話を逸らしたんだろ……」と中空にぼやいて向き直る。
「今の時点でおかしなことが三つある。一つ、なぜ人間は妖魔殲滅を行おうと思ったか?」
「んなもん、人間はそう生き物だろ? 敵対種族は皆殺しがヤツらのモットーじゃねぇか」
「だがこんな殺し方をしたら必ず妄念が残る。妖魔の妄念は人間の妄念よりもはるかに強い妖魔を生み出すぞ? 非効率だ。なぜ逃げ場を用意しない? 神奈河から妖魔を追い出すだけなら、首領格の妖魔だけを狩って、あとは逃がせばいいはずだ」
「なるほど。だから今までは必ず逃げ場が残されてたのか?」
「そういうこと。僕らみたいなカスどもでも、躍起になれば人間にも被害が増えるしなァ……。さてもう一つ」
 そこでカイは一度言葉を区切った。
         
「どうして|鶴陵の巫女《、、、、、》は昨晩動|かな《、、》かった?」

「あん?」
「最大戦力でこの結界を張った張本人が動かない理由。しかも動けなかったんじゃァない、自由意志で動かなかったんだ。昨日円角寺から鶴陵八幡宮の気配を探ってみたが、あの巫女は明らかに自分の意志で動いていなかった」
「うん? そうか、言われてみりゃあ妙だな……」
「そう。なんかおかしいだよなァ」
 カイはずずっとお茶飲み干した。
「なァ、キョウ。だからまだしばらく静観だ。僕らは慌てて動くべきじゃない」
「……わかった。それと……ごめん、見損なったって言った。許してくれ、短期なのは、私の悪いクセだ」
「おいおい、いくら何でもデレるのがはやすぎるぜ」
「あぁ!? 別にデレたわけじゃねぇよ! けじめだ! ぶっとばすぞカイ」
「やァやァ、それはすいませんでした」
 頭ひとつぺこりと下げて、カイはお茶の湯を沸かしに台所に向かった。


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