そんなふうな音が聞こえたと思った。僕は首をすくめて身を縮ませる。予感が言葉として意識されたあと、体温よりも熱い血液が全身を巡った。数瞬置いて身体制御が自意識の管制下に戻ってくる。財布はちゃんと尻ポケットに入っていたし、視界に入った腕時計の針は重なっていた。なんでそんなことを確認したのかわからない。
降って湧いた焦りはもはや身に迫る脅威として視覚と聴覚を脅かしている。それは確かなことだったらしい。煙と、叫び声。僕の肩を突き飛ばして、まるでそれを気にも留めないような大人たちが何人も走り去ってゆく。赤いのは炎だ。壁が崩れる音と、――あと、さっきから小さく反響し続けてる間抜けな破裂音はなんだろう。すごく喉が渇く。目を凝らしてみる。
<オワリ>