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口は災いの元、なんて言うけど本当にそうだなぁなんて……あぁ、もう!

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「恋というのは誰かに教えてもらえるものじゃない!」
 本屋でたまたま見かけた雑誌にそう書いてあった。
「あなたは恋愛ニートになってませんか?! ……はぁ、何よ、恋愛ニートって」
 ため息混じりにそう呟くと、隣で他の雑誌を読んでいた男性が、どこか申し訳無さそうにその場から立ち去っていく。
 恵美に連れられて本屋に来たのはいいが、私はとても暇だった。楽しそうに雑誌を読んでいる恵美とは対照に私はため息を零すのみ。女の子向け雑誌なんて講読したことのない私にとって、今手に取っている『ガールズ・クラブ』なるものは未知の領域だった。
「第一、女子力ってなによ。それがあると恋ができるって言うの? どうせ、私は女子力低いですよー」
「あんた、恥ずかしくないの?」
「ひっ。び、びっくりした……急に声かけないでよ」
 手に取った雑誌を突然恵美に取られてしまった。呆れ顔でその雑誌を元の場所へと戻すと、恵美は手に持っている購入済みの本を私に見せつけ「目当てのはもう買ったから、さっさと行こ」とすぐさま店から出て行ってしまう。
 強引だなぁ、と思わなくもないが、それに逆らうことなく私も一緒に店内から店外へと小走りで向かって行った。
「明日、今日のことを柏木君に言ってみようかしら」
 数歩先を行く恵美はちょっと意地悪く私にそう言ってみせる。でも、私は知っていた。恵美はいつも私を困らせるようなことを言うが、一回も行動に移したことがないのだ。
「いいよー、私は別に。だって、恵美はいっつもそんなことばかり言うけど、本当にやったことなんてないもんね。優しいんだから」
 しばらくの間恵美も私も無言が続き、交差点で立ち止まったところで恵美はにやりと嫌らしい笑みを私に向けた。
「明日が待ち遠しいねっ」
 そして私は、その言葉の意味を知るのにそう時間はかからなかった。

 翌日、朝のホームルーム前だった。
 なにやら恵美が柏木トモヒロに耳打ちしているようだった。当然「何を話してるの?」なんて聞く勇気のない私は、ただそれを遠目で見ているのみだった。
「さて、あたしは柏木君に何を話したでしょう」
 もうそろそろで担任が教室にやって来る、そんなときだった。
 恵美は笑うのをなんとか隠そうとしてるようだけど、頬が上がり、目が糸のように細くなっていて、いかにも笑いを堪えていますと言うような表情をしていた。
「えっと、アルカイックスマイル?」
 ゴツ、と鈍い音を立てて私の頭に小さなこぶが出来上がる。
 恵美は少し赤く染まった握りこぶしを私につきつけ「今度それ言ったら、殴るよ」と警告するが、それはもう事すでに遅しであった。
「痛い……。それで、何を話したの?」
「それはね、へへ……自分で聞きに行きなさいよ」
 頭部の熱を帯びている部分を押さえながら柏木トモヒロへと目を向けると、彼は苦笑いをしながら頬をかいていた。
「恵美が今言えばいいじゃん」
 こんなくだらないことをいちいち彼に聞くなんて、そんなの私にできるはずがない。それは恵美だって重々承知してるはずだった。
 でも、恵美は私の意見を頑なに拒否し続ける。
「駄目。聞いてきなさい」
「なんで? 今ここで言えば済むじゃん」
「だめ」
「ねぇ、あんたが昨日言った言葉、覚えてる?」
 昨日言った言葉、というのがいまいち思い出せなかった。私は恵美に何か言ったのだろうか。
 頑張って思い出そうとするも、唸り声が出るだけで肝心のその言葉が頭から出てこなかった。そんな私に呆れたのか、すんなりと恵美が答えを言ってしまう。
「昨日のこと、言っていいって言ったじゃん。だから、柏木君に言っておいた」
 そう言い終えると、ホームルーム開始のベルが鳴り、恵美は自分の席へと帰っていった。
 本屋での出来事だけなら別に言ってもいい。ただ、その前の出来事だけは言って欲しくない。もし、そのことを言ったのだったら、柏木トモヒロは私のことを呆れ果てて嫌いになってしまうかもしれない! 少なくとも、見る目は変わっちゃう!
「うそ……」
 気がつかないうちに、私は柏木トモヒロのことを気にかけていたのだ。それが、不思議でたまらなかった。だから、咄嗟にそんな言葉が飛び出てしまったのだ。
 別に好きだなんて思わない。かっこいいけど、惹かれるような魅力はない、と思う。なのに、どうして私は彼のことで気にかけたのだろう。
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