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その12

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「よし」
 と天堂帝梨が言った。
 十通ほどの手紙の束を輪ゴムで止めて机の上でトントンとそろえる。
「これで雲雀のやつもいちころだな」
「結局何人に書いてもらったんすか。俺ら含めて」
「九人」
「思ったほか書いてもらえましたね。で、出来のほどは」
「……」
 美鳥が怪訝そうな顔をする。
「他人宛の手紙は見たら駄目でしょう」
「ま、そうですけど、バッシングとか書いてあったら悲惨ですよ」
「それなら大丈夫だ」
 天堂帝梨が薄い胸を叩いて引き受ける。
「最初の文と最後の文だけ読ませてもらったが、妙なことは書いてはなかった。問題ない」
「そうですかね」
「ああ。手紙というのは、内容よりも、この時代、送ったやつの勝ちなのだ」
 なんだそりゃ、と晩は思ったが、口には出さなかった。
 その日のうちに、天堂帝梨によって宙木家のポストに手紙が投函された。
「これで、宙木が出てきてくれりゃ御の字なんですけどねー」
「今日はちょっと待ってみるか」
「出てきますかね」
「出てきたらいいね」と美鳥がいった。
「ここまでやったんだし」
「ま、お楽しみだな」
 天堂帝梨はあくびをした。
「てんてー、やる気あんすか」
「ある」
「そうは見えねえ口元でしたが」
「気のせいだ」
「気のせいか」
 二時間ほど、そのまま待った。
 街灯の下、少し虫が出てきて、美鳥がコンビニに防虫スプレーを買いに走ったり、カップそばを三人分作って持ってきてくれたりした。
「ふつうアンパンと牛乳っすよね。べつにいいけど」
「張り込みじゃないし」
「いやでもこのカップそばうまいぞ。何で出来てるんだ?」
「身体にいいものじゃないでしょうね」
「そういうこと言うのやめてよ。食べてるときに」
「あ、すいません」
 ずずー。
 最初に気づいたのは美鳥だった。
「ん?」
「どうかしましたか。ゴキでもいましたか」
「次に言ったら許さない」
「すいません……」
「で、どうした美鳥」
「窓」
 美鳥がツと指を頭上へ向けた。
 宙木の部屋の窓が、少しだけ開いていた。
 おお? と三人がどよめく。
「なんか感動的なセリフでも言ってくれるんですかね」
「おまえら、ハンカチの用意しとけよ」
「……ほんとにそんな上手くいったのかな」
 結果からいえば美鳥の危惧が正しかった。
 開いた窓から、紙飛行機がひょいと飛ばされた。
 その飛行機には、罫線がひかれていた。
 晩はかっとなった。
「あいつ!」
「ちょ、やめろ」
 天堂帝梨に羽交い絞めにされる晩。
「だ、だっててんてー、あいつ!」
「気持ちはわかる」
「なら!」
「まあ、座れ」
 天堂帝梨はどっかとその場にあぐらをかいた。
「なにしてんすか」
「見ていよう」
「は?」
「まあいいから」
 晩はなにがなんだかわからないまま、その場に座った。美鳥も。
 三人は、夜空を背に飛ぶ紙飛行機の群れを眺めた。
「……てんてー?」
「無視はされなかったな」
「え?」
 天堂帝梨は満足そうに笑った。
「これはこれでいいんじゃないか」
「よかねえでしょ」
「時間からいって、読んだと思うがな」
「時間?」
「読んだなら、いいのさ」
 天堂帝梨は笑った。



 ○



 数時間後。
 宙木がコンビニへいきがてら玄関口に出ると、人影があった。
「よっ」
 片手を挙げる。
 宙木は怪訝そうに眉をひそめた。
「千代崎」
「コンビニか」
「まあ」
「…………」
「…………」
「手紙、読んだか」
「…………」
「読んだんだろ?」
「……おまえらも暇だな」
「ああ。暇だな。でもよ、わかってやってくれよ。あのひとに悪気なんかねえんだ」
「…………」
「じゃ、な」
 晩は帰っていった。
 宙木はその後ろ姿をしばらく眺めてから、コンビニにいかずに、家へ戻った。



 ○


 翌日。
 朝。
 三人は宙木家の前へ来ていた。
 毎朝、こうして呼びに来ている。
 宙木が、一度も呼びかけに応じたことはない。
 だから、別段、今日この日に誰かが期待していたわけじゃない。
 美鳥などは、もう足を学校へ向けかけていた。
 宙木が出てきた。
「……やあ」
 と天堂帝梨がにやにや笑いながらいった。
「気分が変わったかね」
「……俺も」
「ん?」
「……俺も、暇だったからな」
「へえ」晩がいった。
 そしてにっと笑った。
 宙木はしばらくその笑顔を見ていたが、やがて、やはりにっと笑った。
 だが、そのまま学校へ向かいかけた三人の前に、誰かが立ちふさがった。
 三神だった。
「あーあーあーあーあー。やめろよやめろ、そういうの。虫唾が走るよ」
「三神……」
「そんなやつが目に入ったって誰も喜びゃしないよ」
 天堂帝梨がぐっと目に力をこめて三神を睨んだ。
「そんなことは、ない」
「あるのさ。いらないんだよ、そいつは。いたって邪魔だし目障りなんだよ」
「てめっ……」
 飛びかかった晩が、鈍い音を立てて打ち倒された。美鳥が慌てて駆け寄る。
「千代崎くん!」
「いってえ……」
「三神! わっ」
 宙木の前に立ちふさがろうとした天堂帝梨を三神が跳ね除けた。
 宙木と三神がほとんど額を付き合わせるようにして向き合った。
「二度と家から出れないようにしてやるよ――っ!」
 三神が拳を握って振りかぶった。
 その前に、宙木の拳が三神の鼻っ面に叩き込まれた。
「ふがっ!?」
 たたらを踏んだ三神のわき腹に拳骨を立てた宙木が二度三度と打ち込む。
 十秒もかからなかった。


 ○


「まさか、学校へ来なかった理由が『殺しそうだから』だとはねえ」
「入学式の日に袋叩きにされたのも、二十人がかりじゃ勝てなかったからとは」
「一種のてんかんのようなものだな。殺されかかると殺しにかかってしまう。生き物としては正しいが、普通に生きていくには難儀する」
「でも、無事学校来れるようになってよかったっすよね」
「そうだね」
「晩、雲雀の様子は?」
「普通にしてますよ、いまんところは」
「そうか。よかった」
「よかった」
「よかった」
 三人は示し合わせたように頷いた。
 晩と美鳥が去ってから、天堂帝梨は窓から外を眺めた。雲雀がひとりで歩いているが、その背を何人かが駆け寄って叩いた。優しく。
 ふ、と天堂帝梨は笑った。
「かわいいやつらめ」






(解説)

 精神崩壊を起こして打ち切り。
 最後の方のよかった連打とか自分でも見てて薄ら寒いです。こわい。いったいなにがあったんだよ俺。かわいそう。

 そういうわけで、原稿用紙にして75枚、俺のラノベ習作の道は終わりを告げたわけです。
 息切れ癖を消すために書き始めた話だったのにやはり終盤で息切れを起こしちゃったぺろ。
 会話や細かいラノベっぽさの修行的なしろものに使ったわけですが、こういう使い方をするなら、長編じゃなく短編でいつでも打ち切れるやり方にしておけばもっと格好がついたな、と今になって思いますね。

 いやー、難しかった。日常モノって実は一番書くの難しいんじゃね?
 というかこれは日常モノなのか。なんか、学園青春ラブコメみたいな…イメージ…だったん…ですけど…

 プロット上では、
「引きこもりを学校に来させる!青春!」
 とか、
「馬鹿でロリな保険医を出しておけばなんとかなる」
 とか、
 いろいろ考えてたんですけど、
 なんかもう、こう、無理でした。

 読みやすい文章で誰にでも読める筋ってのに未練がましく憧れてたんですが、やっぱ無理だなーと思った。

 ところでニコ動ってあるじゃないですか。僕はあれのボカロ歌ってみた系が好きでよく聞くんですが、どんな動画でもマイリス数って閲覧数に対して十分の一を超えてればいい方なんですよね。まァそんな具合にこんな話でも十人に一人ぐらいはよかったって言ってくれるひとが……え、だめ?

 えっと、あの、なんかすんませんでした。



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