勇者の剣
「ううーーんここじゃないのかなあ」
俺はダンボール箱を漁っていた。中にはガラクタが沢山入っている。
「どこにしまったんだっけ・・・」
「なにを探しているの」
と、女神さまが言った。
「何を探しているのでしょうかね」
「これ?」
女神様は剣を差し出してきた。俺はウンウンと頷いてそれを受け取った。
「そうですこれです。伝説の魔剣エベルオン。これさえあればなんでもできますよ」
「ふうん」
「いまちょっと魔物を退治してきますから見ておいてくださいよ」
俺は外へいって魔物を切って回った。
「すごいでしょう。なかなかできることじゃありませんよ」
「そうだね」
「その反応のウスさ! どういうことです」
「だってべつにねえ」
そういって女神様はどこかへいってしまった
俺は腹を立てて剣をしまい、旅へ出た。
「一発当ててやるんだ」
そして買い食いのポテチを頬張りながら関東を出た。静岡のはずれにきたあたりで具合が悪くなった
「うう、ポテチの食いすぎで気分が悪い」
俺はヒッチハイクしようとしたが誰も止まってくれなかった
「なんで」
「世知辛い世の中なんだよ」
ドライバーが言い残して去っていった。
俺はとても疲れていたし気分が悪かったのでその場にごろりと横になった。
「頑丈な身体がほしいなあ」
「叶えてあげましょう」
女神様が都合よく出てきて俺の身体をビルドアップしてくれた。
とってもマッチョになった俺は当然ポテチごときでダウンするような屑ではなくて完璧になった。
「やったー」
俺は剣を抜いて振り回した。
「もう剣に振り回されることはないぞ、振り回す側になったのだ」
幸福感が俺を貫いた。
「でもなんだろう。何か大切なことを忘れている気がする。どうしてだろう? 何が足りないんだろう? 何かが無くなってしまった」
俺はよく考えてその正体を知った。
「なんだ、アドレナリンじゃないか。俺にはアドレナリンが足りないんだ。なんだそうか。じゃあアドレナリンを出そう。でもいまはポテチのせいでおなかが一杯だな。おなかがすいたら本気を出そう」
「そのときにご飯を食べずに闘うことを誓えますか」
女神様の言葉に俺はがしっと頷いた。
「もちろん。俺は腹がすいてからが本番なんだ。わかるだろ? 知ってるだろ? だからもうすぐ腹が減って体力が戻るんだ。気力も戻る。やってやるぞって気持ちがさ」
「そうかもしれませんね」
「ただ、俺はもうこの小さな世界に飽き飽きしてはいるんだ。でも壊すわけにはいかないし、かといって浸っているのもどうかと思うし、どうだろう? 何が足りないんだろう」
「時間とチャンスでしょうかね。気長に待つといいでしょう」
「やっぱりかあ」
「あなたは最近、音や光に過剰な反応を見せることがありますので、疲れているのでしょう」
「そうだよなあ」
「でもそれはじきによくなります。じきに」
「ほんとう? でも俺には休みがないんだ。お金ももらえないのに休みばかりなくって、ミスがふえるんだ」
「でもあなたよりも苦しい人はたくさんいますよ」
「そんなこといわれたって俺は頑張らないよ」
「なるほど」
「ああ、うん、そうか、そうだな、魔王が悪いんだ。魔王を倒しにいこう」
俺は剣を振り回して歩いていった。
鹿児島あたりまでついたころだった。ふっと俺の身体から力が抜けた。
「あれ」
「エンジン切れですね」
「エンジン切れ? エンジンなのに切れる? どういうこと。どういうことなんだろう?」
「暑いですね」
「暑い! それはたしかに。熱のせいだ。熱を切ろう。でもどうやって。ああなるほど」
俺は剣をおさめた。
「こうすればいいんだ」
そして眠った。