ある朝、目覚めたら魔術の世界だった
ある日、俺のところに政府から手紙が来た。それを開けると入学案内が飛び出してきた。
「魔法術者育成委員会・・・？ ははっ、まさか」
俺はそれをくしゃっと丸めてゴミ箱に捨てた。だが捨てても捨てても戻ってくるのでしまいに頭にきてしまった。
「わかったよ！ そこまで言うならいってやる！」
俺はさしたる荷物も持たずに電車に飛びのった。夏休みなのですいていて、目的地の山奥までほとんど座ったままでいけてしまった。持ってきた唯一といっていい荷物のＰＳＰですれ違い通信を楽しんだ俺は、ととんと弾みをつけて駅へと降り立った。
「間方駅・・・？ ここか・・・」
駅を出るとバスが俺を待っていた。たくさんの俺と同じ世代の少年少女が乗っている。俺もその中に加わった。
「すいません、このバスはどこへ向かうんですか」
「知らないのかい、魔法学校へだよ」
「やっぱり・・・とんでもない運命に巻き込まれてしまったようだぜ・・・」
俺はぶつくさこぼしながら、あいている席に座った。すると隣の女の子が話しかけてきた。
「ねえ、あんたも魔法学校へ入学するの？」
「そのつもりだけど」
「それは残念ね」
「え？」
「あんなの嘘に決まってるじゃない！」
突然、バスが宙に浮いた。
「うわーっ！ な、なにごとだーっ！」
バスはそのままガードレールを越えて、森の中へと飲み込まれていく。
振動がずいぶん続いた。
気がつくと俺は森の中にいた。そばにはデイパックが転がっている。俺のものではない・・・
「うう、ひどい目にあったぜ」
俺はあたりを見回した。誰もいない。
「あの女の子はいったい何者だったんだ・・・」
「それを知っているのは俺さ」
「っ！ だれだ！」
見ると切り株に少年が座っていた。
「俺の名前は・・・いや、明かす必要はないか。クリムゾン・ボーイとでも呼んでくれ。真紅の男さ・・・」
「少年じゃないのか」
「うるさいぞ。いいか、お前が話しかけられたあの女がすべての黒幕・・・魔女なんだ」
「魔女・・・！？」
「ああそうだ。やつを倒さなければこのデスゲームは終わらない・・・」
「ちょっと待ってくれよ！ デスゲームってなんなんだ！？」
「じきにわかる・・・」
そういい残してクリムゾンは去っていってしまった。
「とんでもないことになったらしいぜ・・・とりあえず荷物だけは確認しておくか」
俺はデイパックをあけた。すると食料や衣服、サバイバル用品などが入っていた。それ以外では一冊の古ぼけた魔術書だけ・・・。
「この本に何か秘められた力でもあるのか・・・？」
俺はそれを手に取った。すると本が光を放ち始めた。
「う、うわーっ！！ 何がどうなってやがるんだってばよーっ！！！！！」
光が俺の目を焼いた。ここまでか・・・・
だが光は次第におさまっていって、あたりには元の薄闇が戻ってきた。
「ふう・・・なんだったんだ・・・」
目を開けると、魔術書の開かれたページに俺の名前が刻まれていた。そしてその下にはラテン語かローマ字と思われる記号がいくつか・・・
「なんだこれは・・・読めない・・・いや読める！ 読めるぞ！ どうなっちまったんだ俺の目玉・・・」
ぼうっとしていても仕方ないので、俺はそれを読み上げた。
「インフィニット・シャイニンガー！！！」
ぼおおおおおおお
目の前に光の剣が現れた。
「これが伝説に名高い光の剣か・・・とうとう俺も自分の運命を切り開く時が来たみたいだぜ」
俺はそれをぶんぶん振ってみた。塵が燃えた。
「どういうことだかわからないが、この力で生き残れってことらしいな・・・このサバイバルゲームを・・・」
そうと決まればぐずぐずしてはいられない。こんな愚かな戦いはやめさせなければならない。まずは味方を作らないと。
俺は魔術書を天空に掲げた。
「インフィニット・サーチャー！」
ぶおおおお
光の鳥が現れて周囲を偵察しに飛んでいってくれた。
「ふうっ・・・とりあえず今日はココで野営でもするか・・・」
テントを張ってその中に包まった。そのまま寝てしまおうと思った。
が、森の中にこだまする悲鳴が俺にそうすることを許さなかった。
「悲鳴！？ 誰のだろう、いってみよう！」
俺はテントもそのままに森の中を駆け出した。
すると湖のほとりで、女子生徒の首を締め上げている男子生徒の姿があった。顔色が紫色だ。操られているのかもしれない。
「やめろーっ！ その子に手を出すなーっ！」
すでに女子生徒の首を絞めている男子に俺は勇敢な雄叫びをあげて、飛びかかっていった・・・
どん、と衝撃。俺は体当たりで女の子ごとそいつを吹っ飛ばした。湖に落ちる二人。
「ぶはっ、ごほっ」
女の子が溺れている。俺は涙を振り払って叫んだ。
「なんてひどいことを・・・貴様それでも人間か！！！！」
ずぼおっと男子が水面から顔を出した。にたにた笑っている。外道め、ぶっ潰してやる！！！！
俺は魔術書を開いて念じた。
「俺の中にある演算的魔術回路よ・・・今こそその力を示せ！！！！！！！」
俺は光の剣を取り出して男に切りかかった。
「死ねーっ！！！！！！」
「ｇｒｒｒｒｒｒ」
男もまた白い光の剣を出して俺の剣を受け止めた。
「なんだと！ 剣道十八段の俺の一太刀を受け止めたなんて・・・」
「ｇｒｒｒｒｒｒ」
苦戦する俺に頭上から声が降り注ぐ。
「ふふふ、その男の力は私の魔術で最大限まで引き出されているのだ」
「誰だ！」
見ると、空中になんと男が浮かんでいた。男は赤いマントを羽織っている。
「私こそは魔術連盟『真紅の花びら』その四天王が一人、バルルザーク！！」
「バルルザーク・・・・！？」
「我々はいにしえの魔物と契約して力を人間以上にアップさせているのだ・・・貴様ごときがどうなるものでもないぞ、ゲイルバンス！」
俺ははっと息をのんだ。
「な、なぜ俺の真名を・・・」
「ふふふ、ウィキペディアに自分の項目を作ったのは失敗だったな・・・そこに貴様の住所も氏名も書いてあったぞ！」
「なんてことだ・・・これがネット社会の弊害か・・・」
俺はその場に崩れ落ちた。
「もう駄目だ・・・おしまいだあ・・・」
「諦めてはだめよ！」
「君は！？」
見ると俺のそばに想像を絶する美少女が立っていた。
「私は四天王が一人、メリクリーファ。裏切ったの！」
「きっ、きっさまあメリクリーファ！ よもや我々にキバをむくとは！！！ 飼い犬に手を噛まれるとはこのことだ！！！！！」
「あなたは犬を飼ったことなんてないじゃない！！！！！」
「ぐっ・・・私に逆らったこと後悔させてやるぞ！！！！ 見るがいい！！！！！！！！ 究極暗黒魔術メビウス・ブラスター！！！！！！！！！」
轟音を立てて光の砲撃が放たれた。
メリクリーファが俺の肩をだく。
「もうおしまいね、ゲイルバンス」
「そんな……」
「でも大丈夫。私がそばにいるわ」
「いや、よしてくれ。同情なんていらないよ」
「ゲイルバンス・・・」
「俺はいままで、自分の力でやってきたんだ。最後までそうしたい・・・いくぞメビウス！ これが最後の戦いだ！」
俺は渾身の魔力を両手から放った。
「アルティメット・メビウス・カウンター！！！！！」
「ぐおおおお」
バルルザークが光の中に飲み込まれていく。
「こっ、この私が・・・こんな・・・うっ、うぉ、うわおあおあおあおあおあおあおおおお！！！！！！！」
そして・・・・
バルルザークは消滅した。跡形もなく・・・
俺はその場にヒザをついた。
「勝ったな・・・」
「ええ・・・そうよ・・・あなたのおかげで世界は救われたのよ」
「よしてくれ、がらじゃないよ」
「いいえ・・・でも、まだ終わったわけじゃないわ」
「なんだって？」
「いずれ第二、第三のバルルザークが現れる・・・その時に人類のために立つのは、あなたなのよ、ゲイルバンス・・・いいえ、たけし」
「たけし・・・？ なんだろう、すごく懐かしい名前だ・・・」
「いいのよいまは・・・いまは何も思い出さなくていいの・・・私の腕の中で眠りなさい・・・いまだけは」
俺はメリクリーファの腕の中で、ゆっくり瞼を閉じていった。彼女の人肌のぬくもりだけが、真の魔術なのだと感じながら・・・・・・
「完」