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森で迷った話

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 二人の若い紳士が、すっかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴかぴかする鉄砲をかついで、白熊のような犬を二疋つれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことを云いながら、あるいておりました。
「ぜんたい、ここらの山は怪しからんね。鳥も獣も一疋も居やがらん。なんでも構わないから、早くタンタアーンと、やって見たいもんだなあ。」
「鹿の黄いろな横っ腹なんぞに、二三発お見舞もうしたら、ずいぶん痛快だろうねえ。くるくるまわって、それからどたっと倒れるだろうねえ。」
 それはだいぶの山奥でした。案内してきた専門の鉄砲打ちも、ちょっとまごついて、どこかへ行ってしまったくらいの山奥でした。
 それに、あんまり山が物凄いので、その白熊のような犬が、二疋いっしょにめまいを起こして、しばらく吠って、それから泡を吐いて死んでしまいました。
「じつにぼくは、二千四百円の損害だ」と一人の紳士が、その犬の眼ぶたを、ちょっとかえしてみて言いました。
「ぼくは六千八百九十万円の損害だ。」と、もひとりが、くやしそうに、あたまをまげて言いました。「きみの財産を担保にしたんだがなあ。」
 はじめの紳士は、泡を吐いて死んでしまいました。





[題材]
宮沢賢治『注文の多い料理店』(1924)

料理店が登場する前に終わってしまいました。
『注文の多い料理店』、とてもよくできたお話です。僕は大好きです。

「山猫軒」というレストランは、賢治の出生の地である岩手県をはじめとして、結構いろんなところにあるみたいです。
4, 3

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