「んん……いっひ~ん、そぼろろ~ん!」
早苗が苦しそうに声を上げた。
もはや口から漏れるものは言語の体をなさず、牛馬のそれと相違ない。
その家畜のごとき咆哮が私から、人間と相対するときに持つべき最低限の礼節すら奪い取る。
中学最後の春休み。
この町唯一の自慢である小柄な城跡には、ソメイヨシノを始めとする八種の桜が競うように咲き乱れ、お堀の水までもをその淡紅で彩る。
「うう……い、あ、うううううっ……おふぃふぃふぃ~ん!!」
早苗はさらに身を硬くし、上気した顔の上に苦悶の表情を作り、私をねめつけた。
私は知っている。
彼女のそれが「やめてくれ」ではなく、「もっとして」の合図であることを。
ただ、彼女は決してそれを言葉にはしないし、私もそれを望まない。
合意の上での交渉ほど、興ざめなものはあるまい。
いつしか私たちはそんな屈折した共通認識を抱くようになっていた。
しかし、いつからだろう。
私の両親も、まさか掌中の珠のごとく愛育してきた我が子が、齢十五にしてこのような変態的性癖を獲得しうるとは夢想だにしていまい。
本来、私を呵責すべき良心たちは、どこに消し飛んでしまったのだろう。
春風に乗り、海を越え、はるか中国大陸の僻地で芽吹いているのであろうか……。
繰り返すが、中学三年生の春である。
同輩たちはみな高校受験の準備に目を回していたが、私は学業よりも、早苗の小さな裂け目に長ネギを捻じ込むことに熱心であった。