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缶けり

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 雨が降りしきるこの季節に久しぶりの晴天。背負った荷物を放り投げ、彼らは駈け出した。久しぶりの公園。久しぶりのアスレチック。我先にとアスレチックへ向かう彼ら。その様子は餌に群がるハイエナの様だった。そんな中、彼らの一人があるものを見つけてこう言った。
「そうだ缶けりしようぜ。」

日時:2012年6月15日17時32分
場所:とある住宅地の公園

缶けりに参加するのは5名。空き缶を見つけて事の発端を起こした、元気だけが取り柄みたいな少年「ケンジ」。メガネを掛けてクラス1の秀才の雰囲気を醸し出す「タクヤ」。他の子よりも体の大きないかにもガキ大将な「タケシ」。帰宅途中にケンジに声を掛けられオドオドしながらも缶けりに参加することになった「ハルキ」。そして、タケシの2つ下の妹で腰まで伸びた長い髪が特徴の「ユキ」。以上5名が今回の神聖なる戦いに参加する剣闘士である。
 最初の鬼を決める際に5名は公平にジャンケンで鬼を決める事にした。両手を合わせ天を仰ぐ者、腰に手を置き力を込める者、それぞれがこのジャンケンに臨む。この缶けりという戦いは鬼になれば、それ以外の人間を全て捕まえなくては勝ったことにはならない。さらに鬼は見つけて名前を叫んだとしても、相手より先に缶を踏まなければ捕まえた事にはならない。もし缶を踏む前に誰かに空き缶を蹴られた場合は、今まで捕えていた人間も逃がしてしまう。鬼には非常に不利な条件が付きまとう。だからであろう、全員「鬼だけにはなりたくない」と願っているのだろう。
「じゃあいくぞ・・・。」
ケンジの声がかかると「最初はグー・・・」と誰かがか言い放つとその後は5人の声が重なり「ジャンケンポン!」と全ての手の内が明らかになった。
ケンジはチョキ
タクヤはパー
タケシはチョキ
ハルキはチョキ
ユキはチョキ
今回はタクヤの一人負けとなった。
 その結果を受けてタクヤは茫然と自分の開いた手に目を落とした。他の4人は安堵の表情と歓喜の声を上げた。するとケンジが「いくぞー!」と大きな声を上げると、空き缶を蹴飛ばした。それを見て4人は散り散りに逃げ出した。タクヤは落としていた目線を、蹴飛ばされた空き缶へと移した。そして走るわけでも、歩くわけでもなくゆっくりとその空き缶へと向かっていった。そして空き缶を拾い上げ目線を自分たちがジャンケンをした場所に移した。そこには既に人影がなく熱気が存在していた場所が持つ、特有の静けさが広がっていた。彼はそれをみてニヤリと笑った。
「ボクから逃げる?このボクから?・・・フフ・・・フフフ・・・君たちはホントバカだなぁ・・・。このボクに缶けりで逃げ切れると思ってるの?」
彼は握った空き缶を潰しそうになるのを堪えながら、ゆっくりと空き缶を置く場所へと向かった。
「ケンジ君、きみが最初にいっつもチョキを出すのは知ってるんだよ?タケシ君はいっつもジャンケンは微妙に後だししてるのをボクは知ってるんだよ?他の子は誰も気づいてないみたいだけどね。ハルキ君は最初に出す手を必ず背中に隠すよね?ごめんね、だから何を出すかわかってたんだ。ユキちゃんは出そうと思う手はいっつも最初に確認するよね?それもボクはしっかり見ちゃったんだよ。だからその気になればボクは一人だけ勝つことだってできたんだよ?なのになんでワザワザ負けてしまうパーを出したかわかるかな?」
彼はそうやってボソボソと呟くと、急に笑い始めた。最初は誰にも気づかれないような小さな笑いが、次第に大きくなりその笑い声は公園中を包み込んだ。
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