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第8話 本戦:VS桜ヶ丘女学院

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「やぁ! やぁやぁやぁやぁやぁやぁやぁ! ひぃっっさしぶりじゃんクロォー!! まったく何年ぶりだよ!? いや1年もたってないか! それでも超久しぶりだよな! あれあれ? どうしたんだよクロ! やけにテンション低いなぁもう! 久しぶりの友人との再会だっていうのにそんなテンション低いんじゃ神様に祟られちゃうぜ! 日本の神様はいっぱいいるって言うし、もっとテンション上げて行こうぜー! んー? クロもしかして身長伸びた? いや伸びてないか! それはそれはとしてアンナが世話になったみたいじゃん! いやーこの前突然アンナから電話が来てさぁ、「なんでミハが日本にいるんだよっ!?」ってすごく驚かれたよ! まぁ、アンナに気付かれないように僕も留学したんだけどね、サプライズとして! いやー我が妹ながら中々可愛いやつだよ! おやおやおやおや、ねぇねぇそっちにいるのはクロの高校のメンバー!? よろしく! 僕はミハイル・ジェシャートニコフ!! こう見えても『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』やってます! みんなは呼び捨てでミハイルとか略してミハって呼んだりしてくれるよ! みんなも好きに読んでくれていいよ! おいおいクロォ! 可愛い女の子いっぱいじゃなないか! あの小っちゃい子なんてエルの好みっぽくない? なぁクロもそう思うよなぁ! それでそれでクロはいったいどの子と付き合ってるの? そのロリっ子? 眼鏡の大人しそうな子? それとも巨乳ちゃん? いやーでも僕的にはアンナが一番かわいく見えちゃうなぁ! 兄バカかなぁ? でもアンナ可愛いよね! クロもそう思うよな! アンナ可愛いよな! なぁクロどうしたんだよさっきから何無言で肩をプルプル震わせてるんだよああなるほど感動の再会に感動して感動の声も出ないのか僕も感動で涙が溢れ出そうd……」
「うるせええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
「べへりっとぉっ!!?」
 玄はその小柄の体のどこにそんな力があるんだというほどの脚力で高く飛び、ガヤガヤとうるさい少年の側頭部に向かって飛び膝蹴りを喰らわせる。妙な断末魔と共に、面白いくらい吹き飛んだ。
「えっとぉ、クロくん? 大丈夫……じゃなさそうですけど大丈夫なんですか? あの人」
 璃奈が心配そうに言う。
「大丈夫だ。あの程度じゃ死にはしねぇよ」
「いやぁ……あれは死ななくても重症だと思うんだけど。彼、5、6メートルくらい吹き飛んだけど」
「大丈夫大丈夫。あいつはあれが日常茶飯事だから」
 そう玄が言うと、むくっと立ち上がりこちらに近づいてきた。
「ちょおおおおおおおおクロオオオオオオオオゥッ!? どこの世界に久しぶりにあった友人に脈絡もなくシャイニング・ウィザード喰らわせる奴がいるんだよおおおおおおおおお!」
 8月14日、午後1時。
 全国高校生デュエル大会本戦会場。神之上高校決闘部はそこで、宮路森高校決闘部でありアンナ・ジェシャートニコフの兄であり『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』であり馬鹿であるミハイル・ジェシャートニコフに偶然出会っていた。
 出会い頭に怒涛のミハイルワールドを展開され、一言もしゃべれずにいた玄が痺れを切らして怒りのシャイニング・ウィザード。それでようやくミハイルも少しだけ静かになった。
「脈絡があるとかないとか関係ねぇ。うるせえんだよ、お前は。もっと緊張感的なものを持ちやがれ」
「緊張? 僕がそんなキャラに見えるのか、クロ?」
「見えねぇよ。こっちの緊張感を考えてお前も合わせろって言ってんだ」
 ミハイル・ジェシャートニコフは玄と同じく高校2年生。銀髪碧眼という特徴はアンナと同じで、黙っていれば普通に美少年。身長は音無よりは小さいが、それでも180㎝はある。
「ってか、なんでお前がここにいるんだよ」
「だからさっきも言ったじゃん。決闘留学だよ。アンナと同じで」
「いやそう意味じゃ無くて、今現在なんでこんな場所にいるんだよって聞いてんだ。Aブロックの会場は真反対だろ」
「えぇっ、マジで!?」
 そして方向音痴である。
「トイレを探してたらようやくここで見つけて……」
「いや、おトイレなら控室のすぐ隣にあるんじゃ……」
 神之上高校決闘部の面々は、丁度これからステージへ向かうときにトイレから出てくるミハイルに出くわしたのだ。
「ん? Bブロックの俺らがこれからステージに向かうところってことは……」
 と鷹崎が切り出し、ほかのメンバーも気付く。
「なぁミハイル、お前時間やばいんじゃねぇか?」
「ん? え、あっ、ホントだ! ダッシュで帰らないと! クロ、また明日!」
 そう言って颯爽と通路を駆け抜けていった。と思いきやすごい勢いで止まり玄の方へ振り返った。
「っと、その前にクロ。カイから伝言があるんだった」
「ん?」
「「楽しみにしてるぞ」だってさ。それじゃ今度こそバイバーイ!!」
 玄の返答を待たず、手を大きく振りながら走り出すミハイル。もうその姿は見えなくなっていた。
「あいつ、また迷うぞ……?」
(つーか針間先輩、ミハイルに俺宛の伝言を伝えってあったってことは、あいつが道に迷ってこっちの方にまで来ること予想してたな。分かってたなら誰か付き添わせればいいのに……)
「えーっと、賑やかな人ですね」
「いや、妙なフォローはいらねぇよ。あれはうるさいでいいんだ」
「ミハイルくんも『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』……なんだよね?」
「アンナちゃんといい、ミハイルくんといい、どうもそんな感じはしないわよねー」
 雰囲気というか、風格というか……と、真子は付け加えた。
「そんなもんだ。実際、『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』で風格のある奴なんて半分もいねぇよ。それよりも、ステージに向かおうぜ」
 スタートは1時半から。A、B、両ブロックのデュエルが別々のステージで同時に始まる。



   8-1 ― 本戦開始と準備完了 ―



「本戦はどんなルールでデュエルするんだよ?」
 それは5日前、「MAGIC BOX」で栖鳳学園と練習試合もどきを行った日。アンナは不意にそんなことを玄に聞いてきた。
「結構面白そうな感じだったぜ。えーっと、この前本部から詳細ルールを記したメールが来てたんだけど……あった、これだ」
 その画面を移した携帯をアンナに渡す。その画面には、いくつかのルールが記されてた。
 1.本戦では6対6の勝ち抜け戦を行う。勝利したプレイヤーはそのままのライフ、手札、フィールドの状況のままターンを進め、次の対戦プレイヤーとデュエルをする。例)プレイヤーAとプレイヤーBのデュエルの結果、プレイヤーAがライフ4000、手札2枚、モンスターゾーンには《スターダスト・ドラゴン》、魔法・罠ゾーンには《聖なるバリア-ミラーフォース-》が伏せられている状況で、プレイヤーBのライフを0にした。その状況のままプレイヤーCのターンからデュエルが再開する。
 2.バトルフェイズでライフを0にした場合、そこで強制的にバトルフェイズは終了し、メインフェイズ2に移行する。ただし、バトルフェイズに《魔法の筒》などのカードによってターンプレイヤーのライフが0になった場合、メインフェイズ2へ移行することはできず、次のプレイヤーへとバトンタッチし、対戦プレイヤーのターンからスタートする。その場合でもモンスターゾーン、魔法・罠ゾーンの状況はそのまま次のプレイヤーに引き継がれる。
 3.バトルフェイズ以外でライフを0にした場合、バトルフェイズ前であればそのターンにバトルフェイズを行うことはできず、メインフェイズを終了した時点でそのままエンドフェイズとなる。
 3.墓地は同校内で共有。《貪欲な壺》などの墓地のカードをデッキに戻すカードによって前プレイヤーのカードを選択することは可能だが、選択したカードは持ち主に戻るだけで、発動プレイヤーのデッキには戻らない。
 4.最終的に対戦校のメンバー6人すべてを倒したチームの勝利とする。
 5.このルールに関してのみ、特別禁止カードを設ける。表は以下の通り。
「えーっと、《封印されしエクゾディア》、《終焉のカウントダウン》、《ウィジャ盤》とかの特殊勝利効果を持ったカードに……《カオス・ネクロマンサー》、《究極時械神セフィロン》、《残骸爆破》などなど……」
「特殊勝利されちゃあ団体戦の意味がないし、2人目以降が楽に使えたり強くなりすぎたりするカードも、そればっかり使われたらみてる側が面白くないからな」
「ふーん……それでクロ、何か策みたいなのは考えたんだよ?」
「いや……大して考えてないな」
「……それで大丈夫なのー、クロー?」
「まぁ、対戦相手がやってくるであろう手はいくつか予想がつく。その辺適当に考えるさ」


 午後1時半。遂に全国高校生デュエル大会本戦が始まりを告げる。
 Bブロック。神之上高校と桜ヶ丘女学院の試合。その頃反対側のAブロックでは宮路森高校と藍原学園が試合を行っている頃だろう。
『Bブロックの実況及び解説は私、プロデュエルリストの三木島由愛(みきしまゆめ)お姉さんが務めまーすっ。いぇーい!』
「すっげーな。三木島プロっていたっら確かランキングでも2桁クラスだろ。よくそんな人の都合がついたな」
 本戦では実況兼解説としてプロデュエリストが呼ばれる。今回呼ばれた三木島プロは数百数千といるプロデュエリスト中でも2桁クラス。6年間のアベレージで91位を記録している相当な実力のデュエリストだ。
「三木島プロは桜ヶ丘女学院の卒業生らしいよ。そういうつながりじゃないかな?」
「なるほど」
「目立ちたがりでも有名ですからね……プロデュエリスト界でも「デュエルのお姉さん」で通ってるほどですし、率先してこういうのに来てるんじゃないでしょうか?」
「それに今年は盛り上がるのが確定してるしね。なんてったて『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』が確定で3人も出るんですもの」
「……俺は「元」だけどな」
『このままオープニングはお姉さんのトークで盛り上げちゃってもいいんだけど、みんなはごちゃごちゃ話しを聞くよりもデュエルを見たいだろうから、早速対戦校の紹介から。まずは東ブロック代表、神之上高校!!』
 うるさいほどの歓声。予選の時とは比べ物にならない観客の声がステージを震わせる。
『続きましてー、北ブロック代表、桜ヶ丘女学院!!』
 同じだけの歓声が響く。
「こういう大会に参加する高校で女子高は珍しいよね」
「地区予選にはずっと出てたみたいだけどね。本戦出場は今年が9年ぶり2回目だそうだよ」
「つまり、今までのブロック代表を下しての本戦出場……油断は大敵ってか」
「逆に、今までの本戦出場が全然ないからデータが集めづらいんだよなぁ」
 そうこうしているうちに試合スタートの準備が整う。
『それではさっそく行っちゃいましょーっ! 両校、最初の選手は出てきちゃって下さいな~!』
「それじゃ、言ってくるわ」
 立ち上がったのは真子。ステージに上がっていく。
(1度決めたオーダーは最後まで変えられない。宮路森を相手取るなら初戦は真子先輩に任せた方がいいだろう……多分)
 オーダーの変更は不可能。ならば最も恐れるべきであろう宮路森と対戦するときのことを考えての玄が提案したオーダー。その選択がどう影響するのかはまだ分からない。
(あー、っと去年は感じなかったんだけどなぁ。3年生だから、かしら? プレッシャーやばいわね。負けちゃったら合わせる顔ないかも……)
 ステージへと登っていく階段の途中、真子は後輩の前では出さないような弱気な思考をする。しかし登り終えると……。
「よしっ! まずはぱぱっと1人くらいやっつけちゃおうかしらね!」
 デュエルディスクを勢いよく構える。
「よ、よろしくお願いします!」
 桜ヶ丘側からも一人現れる。真子の……神之上の最初の対戦相手だ。
「え……えっと、胸をお借りします」
「貸すほどないけどねー」
(随分と弱気な子ね。緊張してるのかしら?)
『まずは初戦、神之上高校3年生で副部長さん、デュエリストレベル8の辻垣内真子選手! そして桜ヶ丘女学院1年生、デュエリストレベル6の入野真由(いりのまゆ)選手!』
 デュエルディスクが先攻後攻を決める。この結果が今後のデュエル全てに反映される大事な瞬間だ。結果先攻は。
『先攻は神之上高校ですね。それでは――』
 両者、構えたデュエルディスクからカードを引き……。

「「デュエル!!」」

 真剣勝負、その始まりのゴングが鳴り響く。
「私のターン、ドロー!」
(重要な初ターン。とりあえずは焦らずにいつも通りいつも通り……)
 6枚の手札から2枚のカードを引き抜く。
「モンスター1体とカードを1枚伏せて、ターンを終了するわ」
 落ち着いて様子見を選択。派手な動きは次のターンからだ。

第1ターン
真子
LP:8000
手札:4
SM、SS

入野
LP:8000
手札:5
無し

「わ、私のターンです……えーと、《ライトロード・パラディン ジェイン》を召喚です」
(【ライトロード】かしら?  いや……それよりも、何かしらこの違和感は?)
 真子の感じた違和感など知りもせず、入野はフェイズを進める。
「バトルフェイズです。《ライトロード・パラディン ジェイン》で裏側守備表示のモンスターに攻撃します!」
 自らモンスターにバトルを仕掛けるとき、《ライトロード・パラディン ジェイン》は攻撃力が上昇する。そこらの壁ではその攻撃を防ぎきれない。

《ライトロード・パラディン ジェイン》 ATK:1800→2100

 だが。
「迂闊ね。《ピラミッド・タートル》の効果を発動よ! このモンスターが戦闘によって破壊されたとき、デッキから守備力2000以下のアンデット族モンスター1体を特殊召喚できる! 現れなさい、《茫漠の死者》!!」
 そしてバトル終了と共に《ライトロード・パラディン ジェイン》の攻撃力も元に戻る。

《ライトロード・パラディン ジェイン》 ATK:2100→1800

《茫漠の死者》 ?→4000

「よ、4000……! えっと、じゃあ、メインフェイズ2で、カードを1枚伏せて、エンドフェイズに入ります」
「そこよ! 速攻魔法、《サイクロン》! その伏せたカードを破壊!」
 エンドフェイズ《サイクロン》。通称エンドサイク。速攻魔法では伏せターンにチェーンはできず、罠は1ターン待たなければ使えない。デュエリストの基本技の一つだ。
「あっ、《サンダー・ブレイク》が……」
 手札1枚をコストにカードを1枚破壊する罠カード。《茫漠の死者》を迎え撃つつもりだったのだろうが、発動されることなく墓地へと送られる。
「このままターン終了なら、《ライトロード・パラディン ジェイン》の効果を処理しちゃったら?」
「えっ、あ、はい。エンドフェイズ、デッキの上からカードを2枚墓地へ送ります」
 「ライトロード」は単体で強力な効果を持つモンスターが多いが、その副産物兼デメリットとして、自らのデッキを削っていかなければならない。
「これで私のターンは終わりです」
 完全に真子が攻め入る流れ。それを感じたのか真子のきらりと光る。

第2ターン
真子
LP:8000
手札:4
《茫漠の死者》

入野
LP:8000
手札:4
《ライトロード・パラディン ジェイン》

「私のターン、ドロー!」
 入野の伏せカードはなし。真子は一気に展開を目論む。
「《ゾンビ・マスター》を通常召喚。手札の《馬頭鬼》を捨てて効果発動! 墓地からアンデット族モンスター1体を蘇生……私は墓地から《ピラミッド・タートル》を特殊召喚! バトルフェイズに入って《ピラミッド・タートル》で自爆特攻よ!」

真子 LP:8000→7400

「《ピラミッド・タートル》が戦闘で破壊されたことでもう1度効果を発動! 2体目の《茫漠の死者》を特殊召喚!」

《茫漠の死者》 ATK:?→4000

「ま、またぁ……」
「まだまだバトルフェイズは続くわよぉ! 《ゾンビ・マスター》で《ライトロード・パラディン ジェイン》に攻撃!」
 攻撃力は両方とも1800……このまま行けば相殺だ。
「《オネスト》警戒ですね。良ければこのまま相殺で場が空いて、2体の《茫漠の死者》の攻撃でライフは0です」
「悪いと1800の反射ダメージを受けるけど、それでも《茫漠の死者》2体で4400ダメージ入るしね」
(《オネスト》がないなら私は無駄に《ゾンビ・マスター》を破壊させたことになるけど、それでも勝ちは取れる。《オネスト》があっても使わざるを得ない状況。それでも十分に《茫漠の死者》で圧倒できるわ)
 結果は。
「お、《オネスト》を手札から墓地へ送って効果を発動します……」
 手札から墓地へ送ることで光属性モンスターの攻撃力を戦闘モンスターの攻撃力分上昇させる強力なカード。《ゾンビ・マスター》の攻撃力1800ポイント分だけ攻撃力が上がる。

《ライトロード・パラディン ジェイン》 ATK:1800→3600

真子 LP:7400→5600

 しかし《ライトロード・パラディン ジェイン》の攻撃力が2倍になろうとも《茫漠の死者》には敵わない。
「それじゃあ、《茫漠の死者》Aで《ライトロード・パラディン ジェイン》を攻撃!」

入野 LP:8000→7600

「モンスターがぁ……」
「さらに《茫漠の死者》Bでダイレクトアタックよ!」
「きゃぁっ……!」

入野 LP:7600→3600

「私はカードを1枚伏せて、ターンを終了するわ」
(なんだか拍子抜けよねぇ……)
 緊張感を緩めるが、油断だけはしないようにしながら真子はターンを終える。

第3ターン
真子
LP:5600
手札:2
《茫漠の死者》×2、SS

入野
LP:3600
手札:3
無し

『序盤から辻垣外選手が押していますねー。デュエリストレベルの差か、それとも年齢の差か。どちらにしても、デュエルの流れは完全に辻垣外選手がものにしちゃってますし、入野選手にはこのターン頑張ってほしいものですね~』
 などとおっとりした調子で三木島プロは言うが、入野動きはこのターンも大人しいものだった。
「私のターン、ドローです。えっと、《ライトロード・マジシャン ライラ》を通常召喚します。効果で守備表示に変更して、伏せカードを破壊します」
(私の伏せカードは《リビングデッドの呼び声》。墓地には《ピラミッド・タートル》と《ゾンビ・マスター》と《馬頭鬼》だけ。チェーン発動させて美味しいモンスターは墓地にはいないし)
「破壊されるわ」
「それじゃあ、カードを1枚伏せて、えーっと、エンドフェイズに《ライトロード・マジシャン ライラ》の効果でデッキの上から3枚墓地に送って、ターンエンドです……」
 4ターン目だというのに動く気配もなければ、たどたどしい口調も治ることはなかった。後者はそういう性格のだとしても、前者については不可解どころか不気味ですらあった。
(この子……何を考えているの? いや……何も考えてない?)
 何も考えていないということはないだろうが、明らかに真子を倒そうという気概が感じられなかった。
 そして再び真子のターンへ。

第4ターン
真子
LP:5600
手札:2
《茫漠の死者》×2

入野
LP:3600
手札:2
《ライトロード・マジシャン ライラ》、SS

「私のターン!」
(何を考えていようと考えていまいと、このターンで終わりにする!)
 メインフェイズを飛ばして即バトルフェイズに入る。
「《茫漠の死者》Aで《ライトロード・マジシャン ライラ》を攻撃! 《茫漠の死者》Bでダイレクトアタック!」
 《ライトロード・マジシャン ライラ》は何の抵抗もなく破壊される。
 そして入野のライフは3600。対する《茫漠の死者》の攻撃力は4000ポイント。このダイレクトアタックを受ければ入野のライフは0となるが……。
「きゃああああああっ!」

入野 LP:3600→0

 何の防御もなく、あっけなく勝負はついた。
『初戦、決着です! 勝負は予想外にあっさり着いてしまいましたね。【ライトロード】の「切り札」が出てくる前にデュエルが終わってしまったのがお姉さん的にはちょっぴり残念です。それでは気を取り直して桜ヶ丘女学院からは2人目のご登場です。3年生、デュエリストレベル8、小野寺百合香(おのでらゆりか)選手です! 辻垣外選手と同じく副部長さんのようですね』
 今大会の特殊ルールによって、デュエルはこれでは終わらない。プレイヤーが入れ替わり、デュエルは続行される。
「お疲れ様」
「お、小野寺副部長……。ご、ごめんなさい。私何にも出来なくって……」
「いいのよ。あなたの仇はあたしが取ってあげるから」
「うぅ……っ、副部長ぅ……」
「それに」
 準備は整ったわ。真子には小野寺がそう言っているのように聞き取れた。
(準備……切り札……【ライトロード】……そしてあの子のプレイング……。まさか……っ!)
 ここで真子が桜ヶ丘の思惑に対して、ある一つの結論に至る。可能性は無視できる程度には低くない。
「これは……まずいかもね」
『プレイヤーが交代致しましたので、辻垣外選手は強制的にメインフェイズ2へ移行してもらいますね~』
「私はカードを1枚伏せるわ。これでターンエンド」
(防御札が足りない……間に合わないかも)
 呑気そうな三木島プロに対し、直接デュエルしていたからこそ感じ取れた違和感に、真子は内心相当焦っていた。

第5ターン
真子
LP:5600
手札:2
《茫漠の死者》×2、SS

小野寺
LP:8000
手札:5
SS

「私のターン。まずは伏せカードを発動」
 入野が残した1枚の魔法カードを小野寺が発動する。そのカードの発動によって真子の不安は確信へと変わる。
(やっぱりそう来るのね……)
「魔法カード、《ソーラー・エクスチェンジ》。手札の《ライトロード・ビースト ウォルフ》をコストにして、2枚のカードをドロー。その後デッキの上からカードを2枚墓地へ送るわ」
(【ライトロード】2連投……! いやおそらくは6連投で来る!)
 【ライトロード】には墓地が肥えることで出せる強力な切り札が存在する。条件を満たすのは大して難しくはない。しかし今回の特別禁止枠にはそのカードは入っていなかった。なぜなら【ライトロード】という区切りでしかその真価を発揮できないからだ。デッキを縛られる代わりに強力な切り札を得る。桜ヶ丘女学院はそのデメリットよりもメリットに目を付け、本戦ではメンバー6人全員が【ライトロード】デッキで挑んできたのだ。
(最初の入野さんが妙に慣れない手つきだと思ったら、普段使ってるデッキとは違う【ライトロード】を使っていたから……。そして私を倒すためのデュエルではなく、残りのメンバーのために準備をするためのデュエルをしてたからあんなに攻める気配が感じられなかったのね)
「気付いたみたいね。でももう遅いわ。条件は整った……墓地にはすで4種類の「ライトロード」が存在するわ。早速見せてあげる、私の、いいえ私たちの【ライトロード】の切り札――」

 Judgment Dragon!!!

「出たわね。でも……早々に退場願うわ! 罠カード発動! 《奈落の落とし穴》!」
「速攻魔法、《禁じられた聖衣》!」
「くっ」
 《裁きの龍》の攻撃力は600下がり、対象に取られなくなるとともにカード効果による破壊から守られる。当然《奈落の落とし穴》にも落ちない。

《裁きの龍》 ATK:3000→2400

「そして、《裁きの龍》の効果を発動! ライフポイント1000をコストにして、このカード以外のすべてのカードを破壊する!! ジャッジメント・レイ!!」

小野寺 LP:8000→7000

 《裁きの龍》の効果によって真子のフィールドの《茫漠の死者》2体も無残に破壊される。攻撃力が4000あろうとも、効果で破壊されてしまっては意味がない。
「そして墓地には光属性モンスターは4体以上いる……《裁きの龍》の召喚条件を満たすとともに、このカードの特殊召喚条件も満たしているわ。《ライトレイ ダイダロス》を特殊召喚! さらに通常召喚、《ライトロード・モンク エイリン》!」
 一気に3体のモンスターが展開される。
「あっちゃー、まずったわ。私の負けね」
「それは残念だったわね。バトルフェイズ、《裁きの龍》、《ライトレイ ダイダロス》、《ライトロード・モンク エイリン》でダイレクトアタック!」
「きゃあああっっ!!」

真子 LP:5600→4000→1600→0

『桜ヶ丘女学院、小野寺選手がフィニッシュ~! 入野選手の仇を取るように3体のモンスターによる攻撃で辻垣外選手に勝利しました! チーム一丸となっての思い切った策ですが、これに対して神之上高校はどう迎え撃つのでしょうかね、目が離せませんっ!』
「ごめんなさい。不意を突かれたわ……」
 真子はステージから降りてくると申し訳なさそうに頭を垂れていた。
「はっきり言ってこれはかなりうざそうよ。頑張って」
「言われるまでもなく」
 降りてきた真子は登っていく仲間にバトンタッチする。続きは任せた、と。
 そして真子の意思を引き継ぎ、神之上高校決闘部、鷹崎透が出陣する。


 To be continue

 鷹崎透は強い。
 しかし最近では勝率が大分落ちてきており、神之上高校決闘部に入部してからと言うもの、戦績が伸び悩んでいた。
 同級生である早川璃奈に対しては90パーセント近い勝率を誇っていた。デュエリストレベルが同じ秋月美里とはほぼ5分5分。副部長である辻垣内真子には40パーセントそこそこ。部長である音無祐介には100戦以上挑んでいるが勝利した回数は2桁にも達していない。極め付けとして、部内最強を誇る元『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』の白神玄には、今の今まで1度も勝利したことがなかった。
 最後に関しては部内で全員が同じ結果のためそこまでひどいとは言えないが、それでも鷹崎透は満足していなかった。
「私はこのまま何もせずにターンエンドよ。そしてエンドフェイズ、《裁きの龍》と《ライトロード・モンク エイリン》の効果でデッキトップを合計7枚墓地へ」
 現在全国高校生デュエル大会本戦のBブロック。桜ヶ丘女学院の小野寺が真子を倒し、そのままターンを終える。
 エンドフェイズに《禁じられた聖衣》の効果によって下がった《裁きの龍》の攻撃力が元に戻る。

《裁きの龍》 ATK:2400→3000

第6ターン
鷹崎
LP:8000
手札:5
無し

小野寺
LP:7000
手札:3
《裁きの龍》、《ライトレイ ダイダロス》、《ライトロード・モンク エイリン》

 約2週間前の地区予選では準決勝まで無敗を貫いたが、それは相手が大したことがなかっただけ。自身だけでなく音無と美里&真子ペアも無敗を貫いていたのだから、それは間違いない事実だろう、と鷹崎は考えていた。
 そして決勝戦、栖鳳学園の部長の新塚彩花とのデュエルでは、一歩及ばず負けてしまった。
「俺のターン、ドロー」
 そして5日前に「MAGIC BOX」で栖鳳学園と練習試合を行ったときは、初戦にデュエリストレベル8で自分よりも格上の東仙春江を負かした。ギリギリの勝負だったとは言え勝利は勝利。鷹崎はこの調子で残りのデュエルでも勝つと意気込んだ。しかし結果はそううまくいかなかった。
 2試合目は大会でもその力で璃奈を圧倒した鳳瞬に敗北。3試合目では『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』であるアンナ・ジェシャートニコフに大敗。4試合目ではデュエリストレベルでも互角だったはずの東仙冬樹にも僅かに届かず負けた。
「《調和の宝札》発動。2枚ドロー。さらにコストとして墓地へ送った《伝説の白石》の効果によって、デッキから《青眼の白龍》をサーチする」
 慢心はなかったはずだ。余裕もありはしない。間違いなく全力で当たりにいった。そして全力でそれを弾き返された。
「そして今加えた《青眼の白龍》をコストに《トレード・イン》を発動。2枚ドロー」
 入部試験で音無に敗北してから、彼は努力を惜しまなかった。休日には近所で開かれている大会全てに参加した。自宅での暇な時間はテキストを読み込むことに時間を費やした。部活中は片っ端から誰かにデュエルを挑んでいた。
 それでも勝てないものは勝てなかった。
 鷹崎はこの4月に高校生になり世界の広さを知った。自分では到底届かぬ者がいることも知った。そして自分は弱いんだということを知った。
 しかしその上で今一度言う。
「魔法カード発動――」
 鷹崎透は強い。
「――《ライトニング・ボルテックス》!!」
「……っ!!」
 小野寺のフィールドのモンスター1体残らず破壊。完全に無防備なフィールドが露わになる。
(あっさりと抜けられた……これは少し予想外ね)
「《聖刻龍-ドラゴンゲイヴ》を通常召喚! そして《死者蘇生》を発動し、《青眼の白龍》を特殊召喚! さらに墓地の《馬頭鬼》の効果を発動! このカードをゲームから除外し、墓地からアンデット族モンスター1体を蘇生! 俺は《茫漠の死者》を特殊召喚だ!!」
 その攻撃力は対戦相手のライフによって決まる。

《茫漠の死者》 ATK:?→3500

 真子の残した置き土産。鷹崎は存分にその力を発揮する。これで鷹崎の場には、ドラゴンが2体と、普段は見られないアンデット。しかし種族を超えたところでこの攻めの姿勢は変わりはしない。
(データ通り、一気に攻めてきたわね……!)
「バトルフェイズ! 《聖刻龍-ドラゴンゲイヴ》、《青眼の白龍》、《茫漠の死者》でダイレクトアタックだ!」
「くっ……《青眼の白龍》のダイレクトアタック後に、手札の《冥府の使者ゴーズ》を守備表示で特殊召喚よ!」

小野寺 LP:7000→5200→2200

「……《冥府の使者ゴーズ》の効果で攻守3000の《冥府の使者カイエントークン》を同じく守備表示で特殊召喚するわ」
「それなら、残った《茫漠の死者》で《冥府の使者カイエントークン》を破壊する」
(もぬけの殻になったフィールドに単調に突っ込んで来たわけじゃない。《冥府の使者ゴーズ》を警戒して、わざと《死者蘇生》でもう1体の《茫漠の死者》でははなく《青眼の白龍》を蘇生してきた。しっかりと考えてるわね……)
「俺のすることはもうない。これでターンエンドだ」

第7ターン
鷹崎
LP:8000
手札:3
《聖刻龍-ドラゴンゲイヴ》、《青眼の白龍》、《茫漠の死者》

小野寺
LP:2200
手札:2
《冥府の使者ゴーズ》

『鷹崎選手は大きい手で何ターンも連続して攻めてくる傾向にありますねぇ。《裁きの龍》の、【ライトロード】の必殺技が決まっても、次のターンにはそれを覆してくると言うことですから、これは桜ヶ丘女学院側としては中々に厄介なものになると思いますけど、このターンでの返しが気になるところですね~』
「私のターン、ドロー」
(……手札にそう都合よく《裁きの龍》は来ない。でも来ないなら来ないで、呼ぶまでよ)
「手札の《ライトロード・マジシャン ライラ》をコストにして《ソーラー・エクスチェンジ》を発動。カードを2枚ドローして2枚墓地へ」
 通常ドローと合わせて3枚のドロー。さらには2枚のカードをデッキから掘り進める。しかし依然として《裁きの龍》の姿は見えない。
 だが。
「ふふっ、私の運はそこでまで悪くないみたいね。《ソーラー・エクスチェンジ》の効果でデッキから墓地へ送られた《ライトロード・ビースト ウォルフ》の効果を発動。このカードを特殊召喚するわ」
 さにら小野寺は手札から《ライトロード・パラディン ジェイン》を通常召喚した。
「光属性レベル4の《ライトロード・パラディン ジェイン》と《ライトロード・ビースト ウォルフ》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《輝光子パラディオス》!! 効果を発動よ!」

《輝光子パラディオス》 ORU:2→0

「オーバーレイユニットを2つ使って、相手モンスター1体の攻撃力を0にしてその効果を無効にするわ。私は《茫漠の死者》を選択よ」
「ちっ」

《茫漠の死者》 ATK:3500→0

 3500と言う圧倒的な攻撃力を誇っていた《茫漠の死者》も、今は見る影もなく攻撃力0の木偶。生ける屍である。
「《冥府の使者ゴーズ》を攻撃表示に変更して、バトルフェイズ。《輝光子パラディオス》で《茫漠の死者》を、《冥府の使者ゴーズ》で《聖刻龍-ドラゴンゲイヴ》を攻撃するわ」
「ぐっ……両方喰らう」

鷹崎 LP:8000→6000→5100

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド」
(一応は場を荒らしたけれど、やっぱり次のターンにはこれを超えてくるはず。私のライフは2200……ギリギリってところね)

第8ターン
鷹崎
LP:5100
手札:3
《青眼の白龍》

小野寺
LP:2200
手札:1
《冥府の使者ゴーズ》、《輝光子パラディオス》、SS

「ドロー」
(ここで《手札抹殺》……か。正直言えばこの手札じゃどうしようもねぇと思ってたところだ。今の俺の手札にとっては救いの糸。だが、もしこの《手札抹殺》によってあっちの手札に《オネスト》が来たらどうする? まぁ、逆に手札から《オネスト》が弾き落とされるって可能性もあるが……ちっ、どっちにしろ撃たなきゃ勝ちは遠ざかる。だったら撃ってやるよ)
 数秒迷い、《手札抹殺》を発動する。
「3枚捨てて3枚ドロー」
「1枚捨てて1枚ドロー。やってくれるわ……せっかくの《オネスト》が落とされちゃったじゃない」
 鷹崎にとっては最高の結果。心の中でガッツポーズを取る。
「俺は《手札抹殺》で捨てた光属性・ドラゴン族の《聖刻龍-ドラゴンヌート》と、通常モンスター・ドラゴン族の《ガード・オブ・フレムベル》をゲームから除外し、《聖刻龍-ウシルドラゴン》を特殊召喚!」
 フィールドには光の大型ドラゴンが2体。《オネスト》が手札から弾かれた今、小野寺のモンスターでは太刀打ちできない。
「次から次に大型を……」
「悪いな、それが俺の売りなんでね。行くぞ、バトルだ! まずは《青眼の白龍》で《冥府の使者ゴーズ》を攻撃!」
「くっ……」

小野寺 LP:2200→1900

「そして《聖刻龍-ウシルドラゴン》で《輝光子パラディオス》を攻撃だ!」
「そっちも受けるわ」

小野寺 LP:1900→1300

「《輝光子パラディオス》の効果で1枚ドロー」
「俺はカードを2枚伏せる。これでターンエンドだ」
 鷹崎の伏せは《スキル・サクセサー》と《奈落の落とし穴》。力攻めをしてくるならば多少の攻撃力差程度は《スキル・サクセサー》で返り討ちに、《裁きの龍》なんかをだしてくれば《奈落の落とし穴》で除去する。守りとしては申し分ないものだった。

第9ターン
鷹崎
LP:5100
手札:0
《青眼の白龍》、《聖刻龍-ウシルドラゴン》、SS×2

小野寺
LP:1300
手札:2
SS
 
「私のターン、ドロー。行くわよっ……まずは《大嵐》を発動!」
(ここで来るか……!)
「チェーンして《スキル・サクセサー》を発動。《聖刻龍-ウシルドラゴン》の攻撃力を400ポイントアップ」
 しかし、もう1枚の伏せ、《奈落の落とし穴》は破壊される。

《聖刻龍-ウシルドラゴン》 ATK:2600→3000

「悪足掻きね。そんな程度じゃどうにもならないわよ。私もチェーンして罠カード発動。《光の召集》」
 手札を全て墓地へ送り、その枚数分だけ墓地から光属性モンスターを回収するカード。手札は2枚。よって……。
「私は墓地から真由ちゃんの《裁きの龍》と私の《裁きの龍》を1枚ずつ回収するわ」
(……ちっ、終わりかよ。あーあー、情けねぇなクソったれ)
「《裁きの龍》を特殊召喚。効果を発動。場を一掃するわ」

小野寺 LP:1300→300

「さらにもう1体《裁きの龍》を特殊召喚。バトルフェイズよ」
(相手はデュエリストレベル8……格上だった。その上チーム全員で【ライトロード】を使って序盤から有利な状況だった……。なんてものは言い訳にもならねぇ。ただ俺が弱かっただけだ。ただ俺が甘かっただけだ。ただ俺が……)
「《裁きの龍》2体でダイレクトアタック!!」
(また勝てなかっただけだ)

鷹崎 LP:5100→2100→0

(なら、勝つまでやり続けよう。負けたよりも多く勝てるようになるまで、強くなろう。誰にも負けないくらい、誰よりも誰よりも誰よりも……)
 鷹崎透は強い。その心の在り方はこの場にいる誰よりも強かった。
「悪い、負けてきた」
「ああ、見てたよ」
 ステージを降りた鷹崎の第一声は素気なく、玄の第一声はあっけなかった。
「本当にすまないな……大口叩いといてこのざまだ。迷惑かける」
「なんだ、似合わず殊勝だな。何かあったか?」
「いや何も。デュエルっつーのはなんとも難しいもんだなと改めて思っただけさ」
「確かに難しいな。でも難しいからこそ楽しいんだろ?」
「まったくだ」
 それだけ言葉を交わして鷹崎は美里の元に歩いて行った。
(勝った負けた以前に、楽しまなきゃ意味がない……か。そういう心の余裕が足りなかったのかもな。反省しておこう)
「俺と副部長の分まで頼んだ」
「任された」
 美里は短くそう言ってステージへと登っていく。
(私の方が鷹崎くんより、ちょっぴりお姉さんだから……)
「私の方が、ちょっぴり頑張らないとね」



   8-2 ― 強いあいつと弱いアイツ ―



『鷹崎選手、今一歩届かず負けちゃいましたけど、とってもいいデュエルでした! それに鷹崎選手に削られたせいで小野寺選手のライフはもう風前の灯状態! さぁ、どんどん行っちゃいましょう! 神之上高校からは3人目、2年生でデュエリストレベルは7、秋月美里選手でぇっす!』
 そして、小野寺のメインフェイズ2。しかしすでに手札は0枚。やることはなく、エンドフェイズに《裁きの龍》2体分の効果でデッキトップを8枚墓地へ送り、ターンを終える。

第10ターン
美里
LP:8000
手札:5
無し

小野寺
LP:300
手札:0
《裁きの龍》×2

 秋月美里は弱い。デュエルが、ではなく、体が。
「私のターン……けほっ」
 生まれつき体が悪く、長時間の連続でのデュエルは彼女の体には悪影響を及ぼす可能性がある。
(うぅーん……今日はちょっと調子悪いかもだね)
 そうは思いながらも、初期手札に加えこのターンのドローを含めた計6枚の手札を眺める。そして。
「まずはその邪魔な龍から……《ブラック・ホール》を発動!」
「はぁ……ここまで、みたいね」
 使える札は使い切った。もう小野寺にできることはない。
「《クリッター》を通常召喚。バトルフェイズに入って、ダイレクトアタック!」

小野寺 LP:300→0

『決着です! あっけなくはありますけど、鷹崎選手の削ったライフに、秋月選手が止めの一撃を与えてゲームエンド! 1人倒しても次の1人に一撃でやらちゃう、なーんてことが多々ありますからこのルールでのデュエルは油断ができませんね。それでは桜ヶ丘女学院も3人目になります。2年生、デュエリストレベル7、赤傘雪緒(あかがさゆきお)選手です!』
「本当なら3人くらいは倒したかったんだけど、さっきの彼が予想以上に手強くってね。私の分まで頑張ってね、雪緒ちゃん」
「まっかせて下さいよ! あんな病弱そうな女、私がぱぱーっとやっつけちゃいますから!」
「人のことを見た目で判断しないの」
 ぺしっ、と赤傘の頭にチョップを喰らわせる。しかし実際美里は病弱である。
「いてっ、うー、ごめんなさーい」
『それでは秋月選手はメインフェイズ2に入って下さいな~』
「カードを2枚セット。これでターン終了だよ」

第11ターン
美里
LP:8000
手札:2
《クリッター》、SS×2

赤傘
LP:8000
手札:5
無し

「いっくよー、私のターン!」
(元気な子だなぁ……)
 対照的に美里は咳き込む。
(最近は調子いい日が続いてたから、その反動? せめて大会中にはやめてほしいよ……)
「へへぇ、早速来ちゃったよ! 《裁きの龍》を特殊召喚! 効果発……」
「特殊召喚成功時、《月の書》を発動。効果は使わせないよ」
 間髪入れずに美里がクイックスペルを発動。是が非でも《裁きの龍》には効果を使わせない。
「ちぇっ、なら次の手! 《援軍》を発動! デッキトップからカードを3枚墓地へ送って、デッキから「ライトロード」を1体サーチ! 私は《ライトロード・パラディン ジェイン》をサーチして、通常召喚!」
 そしてバトルフェイズに入る。
「《ライトロード・パラディン ジェイン》で《クリッター》に攻撃! そして《ライトロード・パラディン ジェイン》は攻撃の間だけ攻撃力がアップ!」

《ライトロード・パラディン ジェイン》 ATK:1800→2100

美里 LP:8000→6900

「《クリッター》の効果を発動。デッキから《アマリリース》を手札に加えるよ」
 そしてバトルが終了したことで《ライトロード・パラディン ジェイン》のステータスも元に戻る。

《ライトロード・パラディン ジェイン》 ATK:2100→1800

「うーんっと、することないし、《ライトロード・パラディン ジェイン》の効果でデッキトップを2枚墓地に送ってエンド!」
(セットカードはない……まぁ、《裁きの龍》で攻めるのがメインみたいだから、どうしても罠カードなんかは少なめだよね。なら、心置きなくそこを突いていくよ……)

第12ターン
美里
LP:6900
手札:3
SS

赤傘
LP:8000
手札:4
《ライトロード・パラディン ジェイン》、SM

「私のターン、ドロー」
(さっきの人はデュエリストレベル8……あそこから攻め込んだ鷹崎くんで負けちゃうくらい強かった。でもこの子はあたしと同じレベル7。それに動きは単調。それなら私の得意分野だよ)
「《リビングデッドの呼び声》を発動。墓地から真子先輩の《ゾンビ・マスター》を特殊召喚!」
「んー? 《茫漠の死者》じゃないんだ? 今なら攻撃力4000なのに」
「私は大型を使うのはあんまり得意じゃないからね。小型でちまちま行くのが好きなの。《ゾンビ・マスター》の効果を発動。手札1枚を捨てて、墓地から《ピラミッド・タートル》を特殊召喚! そして魔法カード発動、《シールドクラッシュ》! 守備表示のモンスター1体を、《裁きの龍》を破壊!」
「早速やられちゃったー!?」
 まだまだ美里は動きを止めない。
「《ゾンビ・マスター》と《ピラミッド・タートル》でオーバレイ! エクシーズ召喚! すべてを握りつぶして、《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》!!」
 素材を2つ外すことでフィールドでのモンスター効果を無効化する強力なエクシーズモンスター。これで一時的に《裁きの龍》の効果を抑制できる。
「そして無意味に残った《リビングデッドの呼び声》をコストに、《マジック・プランター》を発動。2枚ドロー」
(よしっ)
 次々とカードを発動し、美里はさらに展開を進める。
「墓地の《アマリリース》の効果を発動。このカードを墓地から除外することで、このターンに1度だけ召喚に必要なリリースを1つ減らすことができる。私は《ホルスの黒炎竜 LV6》を召喚!」
 《アマリリース》は《クリッター》で手札に加え、《ゾンビ・マスター》の手札コストで墓地へ送った。動きに無駄がない。
「そろそろバトルフェイズに入るよ。まずは《ホルスの黒炎竜 LV6》で《ライトロード・パラディン ジェイン》を攻撃!」
(ここで《オネスト》があったらほとんど私の負けが確定)
 そう考えながら、その攻撃に迷いはなかった。
「うぅ……受けるよぉ」

赤傘 LP:8000→7500

(そう都合よく引いてるなんてことはない……よね)
「《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》でダイレクトアタック!」
「うっ!」

赤傘 LP:7500→5500

(《冥府の使者ゴーズ》も……なしっ。このままいける!)
「私はカードを1枚セット。エンドフェイズ、《ホルスの黒炎竜 LV6》が相手モンスターを戦闘で破壊したことで、その経験値を糧にレベルアップ! 《ホルスの黒炎竜 LV8》を特殊召喚!」
 すべての魔法を封殺するか否かを自由に選択することができるモンスター。その上攻撃力は3000とかなり高い。一度出されれば突破はかなり難しいだろう。
「ターン終了」
『秋月選手、見事最終形態《ホルスの黒炎竜 LV8》の特殊召喚に成功ですっ! これは神之上高校いっきに優勢ですよぉ~! 桜ヶ丘女学院、赤傘選手はどう切り返していくのでしょうね?』

第13ターン
美里
LP:6900
手札:1
《ホルスの黒炎竜 LV8》、《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》、SS

赤傘
LP:5500
手札:4
無し

「私のターン! ドロー! よぅしキタァ!! 墓地の《ゾンビキャリア》と《ライトロード・パラディン ジェイン》をゲームから除外して、《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》を特殊召喚!!」
『《裁きの龍》に続いて《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》です! 赤傘選手は引きがいいんですね』
「さっそくバトルだよ! 《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》でお邪魔な《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》を攻撃!」
(これで《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》を倒してから、効果で2回攻撃! 相殺でもいいから《ホルスの黒炎竜 LV8》をどければ私の勝ちは間違いなしっ!)
 しかし、美里がそれを許さない。
「ダメージステップ、速攻魔法、《収縮》を発動! 《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》の攻撃力を半分にするよ!」
「!?」

《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》 ATK:3000→1500

赤傘 LP:5500→5000

「くぅっ……それじゃあメインフェイズ2で、モンスターとカードを1枚ずつセット。ターンエンドッ!」
 勢いよくカードを叩きつける。赤傘からは少なからの苛立ちが見て取れた。
『《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》がいる手前《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》の効果は使えませんし、そこで攻撃してきたころを《収縮》で迎え撃つ。秋月選手は赤傘選手をうまくいなしていますねー』
(そうだよね。うまく思い通りにいかなくてイライラしてくるよね。でもそんな相手は私にとってはカモがネギを背負ってるだけ……冷静さを欠けば欠くほど嵌っていく。ここで決めさせてもらうよ)
 美里は自身が弱いと感じているからこそ、自分を鍛え上げるのではなく、他人を貶める。出来ないことはやらず、出来ることをやる。弱いからこそ、弱点の突き方を熟知しているのだ。

第14ターン
美里
LP:6900
手札:1
《ホルスの黒炎竜 LV8》、《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》

赤傘
LP:5000
手札:2
SM、SC

「私のターン」
(ここで普通に考えればあのセットモンスターは《ライトロード・ハンター ライコウ》か一時凌ぎの壁かのどちらか。まぁ十中八九《ライトロード・ハンター ライコウ》だね。なら問題はあのセットカード)
「ドロー」
 しかしその問題もこのドローカードでおおよそ解決した。
「《N・グラン・モール》を通常召喚。バトル、《N・グラン・モール》で裏側守備モンスターに攻撃!」
「甘い! 《聖なるバリア-ミラーフォース-》!」
(うん、読んでるよ)
 攻撃モンスター全てを破壊する強力な攻撃反応系の罠。しかしその存在も美里にとっては何の障害でもない。
「ライフを1500払って、速攻魔法発動! 《我が身を盾に》! モンスターを破壊するカードの発動を無効にして破壊する!」

美里 LP:6900→5400

「そして《N・グラン・モール》の攻撃が問題なく通る。《N・グラン・モール》の効果でお互いのモンスターをバウンス!」
 例えリバースモンスターや戦闘破壊体制を持ったモンスターだとしても、《N・グラン・モール》でセット状態のまま手札に戻してしまえば意味はない。これで赤傘のフィールドに彼女を守るためのカードはない。
「えっ……これじゃあ……」
「そう、あなたの負けだよ。《ホルスの黒炎竜 LV8》と《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》でダイレクトアタック!」
 前のターンの赤傘のドローは《裁きの龍》。もちろんさっきのターンにいなかった《冥府の使者ゴーズ》など持っているわけもなく、何の手立てもなく2体のモンスターの攻撃を受ける。
「きゃあああああああああっ!!」

赤傘 LP:5000→3000→2000

『ここで神之上高校秋月選手、ぴったりライフを0にしての2連勝ですっ! トリッキーな動きで赤傘選手の思惑をぜーんぶ断ち切ってしまいました。秋月選手は戦術のレベルでは非凡な才能を持っていると言っちゃっても過言ではないと思います。そして試合も中盤戦に差し掛かりましたね。桜ヶ丘女学院からはもう4人目です。2年生、デュエリストレベル7、澤木澪(さわきみお)選手です!』
 美里は強制的にメインフェイズ2へ移行させられるが、手札は0枚のためすることはない。そのままターンを終了した。
「けほっ……」
 軽く咽る。体の弱い美里にとって高レベルのデュエリストとの連戦は体に響く。
(むー、ちょっと張り切りすぎちゃったかなぁ。でも……)
「それじゃあ、もう1人くらい、いっちゃおっか?」
 それでも……弱い彼女は、強かに戦う。


 To be continue
17, 16

  



第15ターン
美里
LP:5400
手札:1
《ホルスの黒炎竜 LV8》、《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》

澤木
LP:8000
手札:5
無し

「私のターン、ドロー」
 桜ヶ丘女学院側からの4人目、澤木のターン。じっくりとドローカードを眺めている様子を見ると、初ターンから《裁きの龍》は引いていないようだった。その様子を見て美里はほっと一息つく。
(《ソーラー・エクスチェンジ》なんかで手札交換をしようにも《ホルスの黒炎竜 LV8》で封じてるからできないし、このターンは大丈夫そうかな)
 そこで澤木は考えがまとまったのか、1枚のカードを手札から引き抜いた。
「《フォトン・スラッシャー》を特殊召喚です。バトルフェイズ、《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》に攻撃」
 伏せカードも手札もなし、魔法の発動も無しでモンスター効果の発動もなければ美里のできることはない。甘んじて《フォトン・スラッシャー》の攻撃を受ける。

美里 LP:5400→5300

「メインフェイズ2に入ります。《ライトロード・ウォリアー ガロス》を通常召喚し、2体のレベル4モンスターでオーバイレイ! エクシーズ召喚! フィールドを指揮する魔人、《交響魔人マエストローク》! 効果を発動します!」

《交響魔人マエストローク》 ORU:2→1

「オーバーレイユニットを1つ外すことで、相手フィールドのモンスター1体を……《ホルスの黒炎竜 LV8》を裏側守備表示にします」
 こうなっては《ホルスの黒炎竜 LV8》の効果は使用できない。これで澤木は魔法を使えるようになった。
「デッキの上からカードを3枚墓地へ送って、魔法カード《光の援軍》を発動。「ライトロード」と名の付いたモンスター1体をデッキから1枚サーチします。そして今加えたカードをコストに《ソーラー・エクスチェンジ》を発動。2枚ドローして、デッキの上から2枚のカードを墓地へ送ります」
 一気に魔法を2枚発動させ、手札を交換し整える。
「カードを2枚伏せて、ターンを終了します」
(《ホルスの黒炎竜 LV8》は残ったけど……これはちょっと難しいかも。それでも、残りのみんなが少しでも楽できるように頑張ろう)

第16ターン
美里
LP:5300
手札:1
SM

澤木
LP:8000
手札:2
《交響魔人マエストローク》、SS×2

『一時的にだけど《ホルスの黒炎竜 LV8》の能力が封じらちゃいましたね。それでもまだ健在ですから、この勝負どう転ぶかは分かりませんよー!』
「三木島プロはそう言ってますけど、正直美里ちゃんかなりピンチですよね」
 不安そうな声を出したのは璃奈。それに受け答えたのは玄だった。
「そうだな。基本的にデュエルってのは1対1、多くとも2対2を想定して行われるものだ。特に美里のデッキは正にそういうもの。今回は変則的なルール。それにさっきのデュエルみたいにほぼ五分五分の状況ならまだしも、手の内を晒し切った今の状態からのスタートは厳しいな」
「向こうはもう4人目、最初の3人に比べてデッキ内の大型の比率が上がってきてるはず。小型で攻める美里ちゃんには厳しかもね」
 このターンのドローはようやく相手にとって全く未知数のドローカード。そのカードによっては一発逆転と言うのもあり得るが……。
(ドローは《王宮のお触れ》。……微妙なタイミングでドローしちゃった)
 ここで問題となるのは《ホルスの黒炎竜 LV8》を反転召喚するか否か。成功すればとりあえずは相手の魔法を封じることに成功する。しかし、《激流葬》や《奈落の落とし穴》があれば《ホルスの黒炎竜 LV8》は除去されてしまう。
(だからと言って一旦《王宮のお触れ》を伏せてから次のターンに動いたんじゃ遅すぎる。だったら)
「まずは《ホルスの黒炎竜 LV8》を反転召喚」
 これに対して澤木は何の反応も見せない。
(《奈落の落とし穴》はなし……それでもこっちが《N・グラン・モール》を出してからの《激流葬》はまだ十分あり得る。そうなると《N・グラン・モール》は出せない。そして次の問題は《ホルスの黒炎竜 LV8》攻撃するかどうかだけど……)
 攻撃に成功すれば、《交響魔人マエストローク》は自身の効果で破壊こそされないが、オーバーレイユニットを失いその効果を発揮できなくなる。しかし《聖なるバリア-ミラーフォース-》や《次元幽閉》なんかの攻撃反応カードが発動されれば成す術なく《ホルスの黒炎竜 LV8》は除去される。
(でも、《交響魔人マエストローク》の素材を外さないと、結局次のターンにまた効果を使われて《ホルスの黒炎竜 LV8》が裏側守備表示になっちゃう。それにさっきも言ったけど、《裁きの龍》が攻撃の要な以上、自分のセットカードも破壊してしまう可能性が高いから、攻撃反応型よりもフリーチェーンのカードの方が多く採用されてるはず。そうなればもう一択しかない……よね)
「バトルフェイズ、《ホルスの黒炎竜 LV8》で《交響魔人マエストローク》に攻撃!」
「何もありません。オーバーレイユニットを身代りに《交響魔人マエストローク》を生き延びさせます」
 戦闘破壊は免れても、攻撃力の差分のダメージは受ける。

澤木 LP:8000→6800

(《王宮のお触れ》も決まれば有利にはなるかもだけど……)
 相手のセットカードはどちらも表になることはなかった。《サイクロン》などの可能性が高いため、《王宮のお触れ》が決まるとも限らない。
「けほっ……カードを1枚セットして、ターン終了」
 ここで澤木は動き出した。
「エンドフェイズ、罠カード《光の召集》を発動! 手札2枚を捨てて墓地から2枚の《裁きの龍》を回収!」
「しま……」
(……ったぁー! 《王宮のお触れ》を読んでエンドフェイズに使ってきた。これで次のターン私のフィールドは消し飛んじゃう!)
 しかしできることなどもうない。美里はターンを終える。

第17ターン
美里
LP:5300
手札:1
《ホルスの黒炎竜 LV8》、《王宮のお触れ》

澤木
LP:6800
手札:2
《交響魔人マエストローク》、SS

「私のターン、ドロー。ではさっそく、《裁きの龍》を特殊召喚! 効果を発動します!」

澤木 LP:6800→5800

 美里のフィールドの《ホルスの黒炎竜 LV8》と《王宮のお触れ》、そして澤木が自分で伏せたセットカード諸共フィールドから消滅する。
「そしてもう1体の《裁きの龍》を特殊召喚。バトルフェイズに入ります」

美里 LP:5300→2300→0

「あーうん、残念」
『秋月選手、粘り切れずに負けちゃいました。でも澤木選手も秋月選手を倒すのに少し手札を使いすぎた様子ですし、続く神之上高校は多少は攻めやすいかもしれませんね』 ふらふらとステージを降りていく美里。見ていられなくなった真子と璃奈が支えに行く。
「大丈夫美里ちゃん?」
「うーん、久しぶりに結構来てるかも……」
 2人の手を借りてゆっくりとステージを降り、ベンチに座る。
『次は神之上高校決闘部の部長さん、3年生でデュエリストレベルは8。音無祐介選手の出番でーす!』
「音無先輩頑張ってね、……けほっ」
「ああ、頑張るよ。それよりも美里ちゃん、調子悪い様だったら医務室行って休んで来たらどうだい?」
「ううん、大丈夫。座ってるだけで結構楽だから。ベンチで応援してるよ」
「そうかい。ありがとう」
『選手交代が終わったみたいなのでー、澤木選手、メイン2に入っちゃって下さいっ!』
「このままエンドフェイズに入ります。《裁きの龍》2体の効果でデッキの上からカードを4枚ずつ落として、これでターン終了です」

第18ターン
音無
LP:8000
手札:5
無し

澤木
LP:5800
手札:1
《裁きの龍》×2

「ホントならライフを半分くらいは持っていきたかったんだけどね。駄目だったよ」
 ベンチに横になりながら美里が呟く。ちなみに頭を痛めないように真子が膝枕している。
「まぁ、大丈夫だろ。音無先輩なら」
「ああ、関係ないだろうな」
「4000も5800も大差ありませんよ」
「音無くんなら大丈夫よ、だって私たちの部長ですもの」
「……そうだね。音無先輩なら大丈夫だったね」
 神之上高校決闘部の誰もが、音無祐介の心配などしていなかった。
「僕のターン、ドロー。まずは《手札抹殺》を発動。5枚捨てて5枚ドローだよ」
「1枚捨てて1枚ドローします」
(……やった。《オネスト》が手札に来た。これなら大型で来れられても大丈夫)
 しかしその瞬間、2体の《裁きの龍》が重力の渦に呑まれ消える。
「魔法カード、《ブラック・ホール》を発動。ん、どうしたんだい? そんな手札の《オネスト》が使えなくなってしまったみたいな顔は?」
「……!?」
 見事手札を言い当てられ動揺する澤木。対する音無は普段と変わらないトーンで軽く笑う。
「随分と驚いているようだけど、図星だったのかい? 当てずっぽうだったんだけどな。それじゃあ《バトルフェーダー》なんかがないと分かったわけだし、心置きなく攻めさせてもらおう。手札から魔法カード――」
 その宣言をした途端、墓地から3枚のカードが弾き出され、デッキへと戻る。戻された3枚は《サイバー・ダーク・ホーン》、《サイバー・ダーク・エッジ》、《サイバー・ダーク・キール》。それの表す意味は一つ。
「――《サイバーダーク・インパクト!》!! 融合召喚、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》!!!」
 禍々しい機械の竜。全身のパーツが突き刺さるように尖っている。
「効果を発動。融合召喚成功時、墓地からドラゴン族モンスター1体を装備し、その攻撃力分自身の攻撃力に加算する。僕は《手札抹殺》で落とした《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》を選択。さらに、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》は自分の墓地のモンスターの数だけ攻撃力が100ポイントアップする。僕の……いや僕たちの墓地にはすでにモンスターが15体。2つの効果を合わせて、攻撃力は合計5500ポイントアップだ」

《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》 ATK:1000→5000→6500

「こっ……攻撃力、6500……!!」
(《手札抹殺》で3種類の「サイバー・ダーク」を墓地に送って、それと一緒に《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》も送って、しかもそのドローで《サイバーダーク・インパクト!》を引くなんて……)
「それじゃあ、バトルフェイズ。《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》でダイレクトアタック! フル・ダークネス・バースト!!」
「きゃあああああああああああっ」

澤木 LP:5800→0

『……えーっとぉ、け、決着です! お姉さんもびっくりな正に一撃必殺!! 流石は部長さんっ、ものすごいインパクトでした! えっと、桜ヶ丘女学院は早くも5人目、デュエルの勝敗が決するまであと僅かとなってきましたよ。3年生、デュエリストレベル7の二見原(ふたみはら)さくら選手!』
 選手交代のため音無はメイン2へ強制移行する。
「僕はカードを2枚セットして、ターンエンドだ。さぁ、このままもう一人くらいは倒してしまおうかな」

第19ターン
音無
LP:8000
手札:1
《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》(装備)、SS×2

二見原
LP:8000
手札:5
無し



   8-3 ― 部長の役目 ―



 音無祐介は、目立つのがあまり好きではない。かと言って目立ちたくない訳でもない。変に目立つのは嫌だが、全く無関心でいられるのも嫌だという、極めて一般的な思考を有する高校生なのだ。
 その証拠がこの【サイバー・ダーク】と言うデッキだ。派手な動きはなく地味に攻めていくデッキ。しかし、使い手が少ないせいか注目度は低くはない。音無は単純にこのデッキを気に入っているから使っているのだが、無意識のうちにそんな目立ちそうで目立たないデッキを気に入っていたのだ。
 対する対戦相手、二見原さくらは目立ちたがりのお嬢様だった。
(ふんっ……【サイバー・ダーク】ですって? 攻撃力を上げることしか能のない地味カテゴリでわたくしに挑もうなんて、ちゃんちゃらおかしいですわ!)
「わたくしのターン! ドローですわ」
(……語尾に「ですわ」を付ける人なんて本当にいるんだ……)
「手札の《ライトロード・モンク エイリン》をコストに、魔法カード《ソーラー・エクスチェンジ》を発動ですわ。デッキから2枚のカードをドローし、その後デッキの上から2枚のカードを墓地へ。そしてもう1度《ソーラー・エクスチェンジ》を発動。今度は《ライトロード・パラディン ジェイン》をコストにして2枚ドロー、そして2枚のカードを墓地へ送りますわ」
 2連続《ソーラー・エクスチェンジ》によって手札を大幅に入れ替える二見原。準備は整ったようだ。
「そんなちんけな機械竜、吹き飛ばして差し上げましてよっ! 《裁きの龍》を特殊召喚!」
「生き生きとしているところ悪いけど、カウンター罠、《神の警告》を発動。ライフを2000払って《裁きの龍》の特殊召喚を無効だ」

音無 LP:8000→6000

「そっちのデュエルはもう何度も見せてもらった。やってきそうなことはもう大体わかったよ」
「それでは、これはどうかしら。《歯車街》を発動し、《ライトレイ ダイダロス》を特殊召喚ですわ!!」
『二見原選手、ここに来て《歯車街》を発動しました! 《ライトレイ ダイダロス》とのコンボからの大ダメージを狙ってるみたいですね』
 《ライトレイ ダイダロス》はフィールド魔法1枚と、相手フィールドのカード2枚を選択し、選択したカードを破壊するという効果を持つ。そして、《歯車街》は破壊され墓地へ送られたとき、デッキ・手札・墓地から「アンティーク・ギア」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる効果を持つ。このコンボが成立すれば音無のフィールドは空き、二見原のフィールドに高攻撃力のモンスターが2体並ぶ。
「《ライトレイ ダイダロス》の効果を発動ですわぁ! 《歯車街》とあなたのフィールドの《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》とセットカードを選……」
「《デモンズ・チェーン》を発動。《ライトレイ ダイダロス》の攻撃と効果を封じる」
 鎖が《ライトレイ ダイダロス》の体に雁字搦めに巻きつく。《ライトレイ ダイダロス》は身動き一つできない。
「大体わかった、って言っただろう? それくらいも十分に想定の範囲内さ」
「くっ……カードを1枚セット。これでターンを終了しましてよ」

第20ターン
音無
LP:6000
手札:1
《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》(装備)、《デモンズ・チェーン》

二見原
LP:8000
手札:2
《ライトレイ ダイダロス》、《歯車街》、SS

「僕のターン、ドロー。魔法カード、《マジック・プランター》を発動。《デモンズ・チェーン》を食べて2枚ドローだ」
 これで手札が3枚となる。
「あら? 《ライトレイ ダイダロス》を縛る鎖を解いてしまってもよろしいので?」
 ニヤ、っと小馬鹿にしたように口元を釣り上げる。これでもし次のターンまで《ライトレイ ダイダロス》と《歯車街》が残ることになれば音無のフィールドが壊滅する。
 だが、音無に対するそのような挑発は百害はあっても一利もない。
「挑発……と言う行為には何種類かの意味がある。この状況なら、攻撃させるためか、攻撃させないためか。僕が挑発に乗って攻撃すればそのセットカード、または手札に控えている可能性のある《オネスト》で返り討ち。僕が挑発に乗らず攻撃しなければ次のターンに《ライトレイ ダイダロス》の効果が発動される。ならここで僕がするのはただ一つの簡単な確認作業だ。《サイクロン》を発動。セットカードを破壊する」
 破壊されたのは《次元幽閉》。攻撃反応型の罠だ。二見原は心の中で舌打ちをするとともに、気にしなければ分からない程度に表情を歪めた。
 しかしそんな程度の情報ですら、音無にとっては有益な情報だ。
「そのセットカードが攻撃反応型の罠であることを考えれば、手札に《オネスト》はない。なぜなら、もし手札に《オネスト》があるならば《次元幽閉》をセットする意味がないからだ。手札に《オネスト》があるならばわざとセットカードで警戒などさせず「自分には何もない」と思わせ、無警戒に攻撃してきたところを《オネスト》で返り討ちにすればいいからね。それに、ほんの僅かだが悔しそうな顔をしたね。これで《オネスト》を持っている可能性はさらに下がった。と言うことで、そろそろバトルフェイズに入ろうか」
「……」
 音無の読みはすべて正解。その証拠に二見原が呆然と立ち尽くしていたのだ。
 しかし今の読みには穴がある。もしも二見原が音無の思考を読み切った上でのプレイングだとしたら、その手札に《オネスト》がある可能性はまだ拭えない。
 だが音無はさらにこう考えた。前のターンでのプレイングや彼女の性格、またデュエリストレベル7程度であることを考慮し、二見原ならばあの一瞬でそんな思考を巡らせることはできないだろう、と。
 そしてまるで当然のように、この読みも正解だった。
「《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》で《ライトレイ ダイダロス》を攻撃!!」
「きゃあああっ」

二見原 LP:8000→4100

「カードを2枚セット。ターンエンド」
『二見原選手のすべてを読み切った上でのプレイングですねー。音無選手はとっても思考の能力が早いみたいです。ちなみに私は考えるのが苦手なので、あんまり深く考えずにデュエルしてまーっす☆』
 そんなんでいいのかプロ。会場中の心が一つになった瞬間であった。

第21ターン
音無
LP:6000
手札:0
《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》(装備)、SS×2

二見原
LP:4100
手札:2
《歯車街》

「くっ……わたくしのターンですわ」
 このドローを含め二見原の手札は3枚。今ドローした《激流葬》に、元々手札にあった《ライトレイ ギア・フリード》と《ライトロード・モンク エイリン》。逆転には程遠い。
「モンスター1体とカードを1枚セット。これでターン終了ですわ」
(これならそのまま攻撃されてもダメージは0。ゲームエンドに持っていこうとモンスターを召喚したら《激流葬》であの邪魔な《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》は消える。一先ずは大丈夫そうですわね)
 だが。
「手札の位置をずっと確認していたけれど、今のドローカードはそのセットカード。そしてセットモンスター、《ライトロード・ハンター ライコウ》ではないね。もしもそうだったならさっきのターンにセットしているはずだ。ならそのセットモンスターに警戒する必要はない。なら問題はセットカードの方。これも、全く問題がない」
 音無は何の警戒すらなく、いつも通りに淡々と口を開く。
 ここで二見原は悟る。自分ではこの相手には勝てない。自分では全く及ばない。そして、自分は次のターンで負けるのだろう、と。

第22ターン
音無
LP:6000
手札:0
《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》(装備)、SS×2

二見原
LP:4100
手札:1
《歯車街》、SM、SS

「僕ターン、ドロー」
 音無は今ドローしたカードをデュエルディスクへ読み込ませる。
「《レスキューラビット》を通常召喚。何かレスポンスは?」
「《激流葬》を発動しますわ」
「《盗賊の七つ道具》を発動。ライフを1000払い罠カードを無効だ」
 無効にされることが分かっていたかのように、二見原は無気力にカードを発動していた。もはや彼女は勝利を諦めていた。

音無 LP:6000→5000

「《レスキューラビット》をゲームから除外し効果を発動。デッキから同名の通常モンスター2体を特殊召喚。僕は《ハウンド・ドラゴン》2体を特殊召喚する。レベル3の《ハウンド・ドラゴン》2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《No.17 リバイス・ドラゴン》!!」
 《No.17 リバイス・ドラゴン》はオーバーレイユニットを1つ外すことで、攻撃力を500ポイントアップさせる。さらに、オーバーレイユニットとして墓地にモンスターが送られたため、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の攻撃力も上昇する。

《No.17 リバイス・ドラゴン》 ORU:2→1 ATK:2000→2500

《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》 ATK:6500→6600

「さぁバトルだ。《No.17 リバイス・ドラゴン》でセットモンスターを攻撃! バイス・ストリーム!!」
 何事もなくセットされていた《ライトロード・モンク エイリン》は破壊される。これで《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の一撃を防ぐ術は残されていない。
「不本意ながら、僕は部長を務めさせてもらっているからね。チームを引っ張っていくという役目がある以上、こんなところで負けてはいられないんだよ」
「……それなら分かりますわ。わたくしたちの部長も、きっとそんなことを思っているのでしょうね」
 二見原が無気力ながらも反応する。
「ですから、わたくしが負けてしまっても、わたくしたちのチームは負けませんわ。その部長が、私を引っ張ってくれますもの」
「そうかい……それは気を引き締めないと行けなそうだね」
 音無はほんの少しだけ微笑むと、目付きを決闘者のそれに変えた。
「《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》で、ダイレクトアタック。フル・ダークネス・バースト!!」

二見原 LP:4100→0

『さぁ、遂に終盤戦までやってきましたよ~。長かったような短かったようなそんな時間でしたけど、桜ヶ丘女学院は後がありません。大将にあたる6人目は、3年生で決闘部を引っ張る部長、デュエリストレベル8の円城凛々音(えんじょうりりね)選手です!』
「円城さん……ごめんなさい。わたくし、あの方には手も足も出ませんでしたわ……」
 ステージに上ってきた円城に向けて、二見原は深く頭を下げた。
「頭を上げてください二見原さん。彼は神之上高校のナンバー2です。負けてしまっても恥じることなどありません」
 円城は二見原の両肩にポンと手を置き、話を続ける。
「それに二見原さんが頑張ってくださったおかげで、彼のライフは5000まで減り、手札は0枚。守りは薄くなっています。あなたの努力を無駄にしないため、ここは私が……いいえ、私たちが勝ちます」
「そうですわね……お気をつけて」
「はい。部長の役目……果たしてきます」
 そうして円城はステージ上に立ち、デュエルは再開された。音無は何もせずターンエンドを宣言。

第23ターン
音無
LP:5000
手札:0
《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》、《No.17 リバイス・ドラゴン》、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》(装備)、SS

円城
LP:8000
手札:5
《歯車街》

『各校の部長対決になりますねー。部を仕切っている者同士として、お互い負けらない戦いでしょう』
「私のターン、ドロー」
(うーん、正直この状況はあまりいいとは言えないんだよね。攻撃力6600の《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》と攻撃力2500の《No.17 リバイス・ドラゴン》がいるとは言え、あっちの必殺技は効果破壊。効果破壊耐性を持たないこの2体は相手ターンじゃ実際はただの木偶。セットカードも1枚あるけど、防げるのは1回だけ。対してあちらさんの手札はこのドローを含めて6枚。それに《歯車街》も残ってるし……きついなぁ)
「私たちの墓地には光属性のモンスターが5種類以上存在しているため、このモンスターの召喚条件を満たしています。《ライトレイ ディアボロス》!」
(まず《ライトレイ ディアボロス》から来たってことは……詰み、かな)
「《奈落の落とし穴》を発動。《ライトレイ ディアボロス》を破壊し除外だ」
 《ライトレイ ディアボロス》には1ターンに1度セットカードを除去する事ができる。ここで使うにせよ使わないにせよ、結局は音無から防御の手段が失われる。
「はい、了承しました。では、《ライトレイ ダイダロス》を特殊召喚し、効果を発動します。《歯車街》と《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》、《No.17 リバイス・ドラゴン》を選択し、破壊します」
 さらに、《歯車街》が破壊されたことで、その効果が発動。デッキから
「私は《歯車街》の効果でデッキから《古代の機械巨竜》を特殊召喚します!」
 攻撃力3000の《古代の機械巨竜》は、《歯車街》から呼び出すことのできる最高打点を誇るモンスター。
「バトルフェイズに入ります。《ライトレイ ダイダロス》と《古代の機械巨竜》でダイレクトアタック!」

音無 LP:5000→2400→0

「お互い部長同士ですけれど、ひとまずこの勝負は私の勝ちのようですね」
「そうだね。素直に負けを認めよう。変則ルールとは言え負けは負けだ」
「残りの2人……早川さんと白神さんも私が倒します。例え相手が『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』だとしても」
「……一つ塩でも送っておこうかな。君の対戦相手は白神君じゃなくて、早川さんだということを、覚えておくことだね」
 それだけ言い残し、音無はステージを降りる。
「後は任せたよ。君なら勝てる」
「はい」
 短く答え、早川璃奈はステージへと登る。
『人数的にはまだ神之上高校のほうが有利ですけど、後のない桜ヶ丘女学院の持つ威圧感はすごいものですね~。それじゃあ神之上高校からは5人目です。1年生、デュエリストレベル6の早川璃奈選手ー!』
「メインフェイズ2に移行します。カードを1枚伏せて、ターンエンドです」

第23ターン
璃奈
LP:8000
手札:5
無し

円城
LP:8000
手札:3
《ライトレイ ダイダロス》、《古代の機械巨竜》、SS

(早川さん……この方はデュエリストレベルが6でありながらその爆発力は明らかにその枠組みから外れているほどのポテンシャルを持っています。ですが、勝率は悪い。辻垣外さんの情報も、鷹崎さんの情報も、秋月さんの情報も、音無さんの情報も、すべて事前に収集した通りのものです。ならば早川さんの情報も調べ通りのはず。それならこのデュエルをすぐに終わらせて、白神さんを全力で相手取らせてもらいます)
 この時の円城凛々音の思考には、ミス……見落としがある。
 確かにどの情報も収集した結果通りになっただろう。だが、その情報と言うのは2週間前で止まっているのだ。公の大会での情報、つまりは地区予選時の情報が最終的な評価となるのだが、もしも、その2週間の間に大幅に進化した決闘者がいたとしたら? 当然その情報は意味を成さなくなる。しかし普通に考えて2週間の間に劇的に進化する人間などいない。そう、普通は。
 これより、早川璃奈の新たな決闘が始まる。


 To be continue


「このデュエル、必要なものはなんだと思いますか?」
 神之上高校決闘部とのデュエルが始まるおよそ30分前、桜ヶ丘女学院決闘部部長、円城凛々音は部員たちにそんなことを聞いていた。
「えっと……チームワークですか……?」
 自信なさそうにそう答えたのは入野。
「普段とは違うルールなのだから、タクティクスかしら?」
 冷静に考えを述べたのは小野寺。
「気合!!」
 思ったことをただ口にしたのは赤傘。
「個々の実力も重要だと思います」
 いつも通り淡々と答えたのは澤木。
「もちろんエレガントさですわっ!」
 自信満々に答えたのは二見原。
「どれも正解です。全てが大事で、全てを出して、全てに全力を尽くします」
 全員の視線が円城に集中する。
「勝ちましょう」
 彼女の一言に、部員たちは無言で頷く。入野真由も、小野寺百合香も、赤傘雪緒も、澤木澪も、二見原さくらも、誰もが円城凛々音を信じ、円城凛々音についていく。
 彼女たちは円城に引っ張られてここまで来た。彼女たちは円城の背中を追いここまで来た。彼女たちは円城を支えて、これからも行く。


(私は負けらない。私が引っ張ってきた彼女たちのためにも、私を追ってきた彼女たちのためにも、私を支えてくれた彼女たちのためにも、私は……勝ちます!)
「私のターン、ドロー」
 変則的なルールによって繰り広げられるこの試合。現在25ターン目。音無とバトンタッチし、璃奈のターンに突入した。
「手札を1枚捨てて、魔法カード、《ライトニング・ボルテックス》を発動します!」
 円城のフィールドの表側モンスター――《ライトレイ ダイダロス》、《古代の機械巨竜》――が降り注ぐ雷によって破壊される。
(流石は【ネオスビート】ですね。破壊と再生、そして攻撃に優れている。そう簡単には倒されてくれませんか……)
『神之上高校はここまでバトンタッチするたびに初ターンに《ライトニング・ボルテックス》→《ブラック・ホール》→《ブラック・ホール》→《ライトニング・ボルテックス》とマスデストラクションでその場を打開していますねー。引きが強いくて羨ましいです』
 ただの偶然だが、逆転に関しては神之上高校決闘部一同は並々ならぬ力を発揮するようだ。全くの偶然だが。何度も言うが、偶然だ。
「続いてもう1枚魔法カードを発動です。《ヒーローアライブ》!」
 ライフを半分支払うことでデッキからレベル4以下の「E・HERO」を特殊召喚する通常魔法。璃奈のライフは現在初期値の8000。つまりは4000のライフを失うことになる。

璃奈 LP:8000→4000

(ライフを4000払ってまで《ヒーローアライブ》を使った……と言うことはこのターンできめるつもりでしょうか? ですが……わたしにはまだ「あれ」が残っています)
「私はデッキから《E・HERO エアーマン》を特殊召喚して、効果で《E・HERO プリズマー》をサーチします。そのまま《E・HERO プリズマー》を通常召喚ですっ」
 さらにその効果でデッキから《E・HERO ネオス》を墓地へ送り名称を変更した。
「私はレベル4のモンスター2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 切り裂いて、《機甲忍者ブレード・ハート》!!」
 オーバーレイユニットを取り外し、自身に2回攻撃を付加する。

《機甲忍者ブレード・ハート》 ORU:2→1

「さらに魔法カード、《死者蘇生》! 墓地から《茫漠の死者》を特殊召喚!」

《茫漠の死者》 ATK:?→4000

 攻撃力4000としてフィールドに現れる。このデュエル中、実に4度目の出番だ。
「《機甲忍者ブレード・ハート》の2回攻撃と《茫漠の死者》の攻撃力4000を合わせれば、合計ダメージは8400! これで終わらせます! バトルフェイズ! まずは《機甲忍者ブレード・ハート》で攻撃です!」
 すべて通れば璃奈の勝利。とは言え円城のフィールドにはまだ1枚のセットカードが残っている。勝利は確実とは言い切れないだろう。
 しかし、円城はセットカード開けることなく、その場を凌ぐ。
「墓地の《ネクロ・ガードナー》の効果を発動です。攻撃を無効」
 自らをゲームから除外することで攻撃を1度だけ防ぐことができる《ネクロ・ガードナー》。《機甲忍者ブレード・ハート》の刃は円城まで届かない。
 だが、ここで1つ疑問が生まれた。
(《ネクロ・ガードナー》を使うんだったら、攻撃力が高い《茫漠の死者》の攻撃を防ぐべきなのでは? なんでわざわざ《機甲忍者ブレード・ハート》の攻撃を……)
 そこで、さらにもう1つ疑問が生まれる。
(いや……そもそも、25ターンも経っているのに、あれだけ墓地を肥やしているのに、どうして今の今まで《ネクロ・ガードナー》が使われなかったんですか……?)
 そう思いながらも、璃奈は続けて2度目の攻撃権を使用し《機甲忍者ブレード・ハート》でダイレクトアタックを宣言する。
 だが。
「墓地の《ネクロ・ガードナー》の効果を発動です。攻撃を無効」
 聞こえてきたのは、数秒前となんら違わぬ台詞だった。《機甲忍者ブレード・ハート》の刃は、やはり通らない。
「ま、まさか。うっ……《茫漠の死者》でダイレクトアタックですっ!」
「もう1度、墓地の《ネクロ・ガードナー》の効果を発動です」
 再三、防がれる。
 合計攻撃力8400の布陣を以ってしても、円城のライフに傷一つ付くことはなかった。
「そうか……今までどうも《ネクロ・ガードナー》の姿が見えねぇと思ったら、こういうことか」
「……? どういうことかしら?」
 呟いた玄に対し、真子が疑問を投げる。
「貯めてたんだよ、あいつら。大将のために《ネクロ・ガードナー》を」
 部員たち全員が耳を傾ける様子を確認し、玄は続けた。
「【ライトロード】は墓地を肥やすのが得意なのは周知の事実。その効果を生かし、墓地で発動する効果を持ったモンスターを利用することが容易いテーマだ。その代表例の1つが《ネクロ・ガードナー》。最初はどんな攻撃に対しても使われないせいで、手札に来て腐ることを恐れてデッキに入れていないのかと思ってた。そして次第に記憶の片隅に追いやられていって、気付いたらこうだ」
「確かに……あれだけカードを墓地に送っておいて、今まで1度も発動されなかったものね。この大将戦にすべてを託すために、わざと使ってこなかったのね」
「ああ。こりゃあっちの墓地には相当な枚数の《ネクロ・ガードナー》が落ちてることだろうぜ」
 玄が言った通り、桜ヶ丘女学院の墓地には大量の《ネクロ・ガードナー》が落ちていた。
「その枚数、実に8枚。今3枚使ってしまったから、残りは5枚ですけどね」
「5枚……」
 つまり、円城に攻撃を通すには最低6回の攻撃が必要と言うことだ。さらに厳密にいうならば、致命傷を避けるように使えば、フィニッシュまでの攻撃回数は10を超えることになるだろう。
「……私は、カードを2枚伏せて、ターンを終了します」
「そこです。エンドフェイズ、《光の召集》を発動! 手札を3枚捨て、墓地から3枚の《裁きの龍》を手札加えます!」
 もはや見るのは3度目となるこの手。デッキの作りが似たようなものになるだからそれも当然だが、当然のように強い一手だ。

第25ターン
璃奈
LP:4000
手札:0
《機甲忍者ブレード・ハート》、《茫漠の死者》、SS×2

円城
LP:8000
手札:3
無し

「私のターン。ドローです」
『手札0枚の早川選手に残された防御手段はもはや2枚のセットカードだけですけど、円城選手の手札は4枚です。その内3枚は《裁きの龍》ですから、どうしても3体の《裁きの龍》の内1体はスルーされますねー。そしてもしも彼女のドローカードがモンスターだったなら、早川選手の負けとなってしまいますね』
 《ヒーローアライブ》でライフを半分にしたのが仇になったのか、開始2ターン目にして璃奈はピンチだった。
「私は、《裁きの龍》を特殊召喚です!」
 まず1体目。対する璃奈の行動は……。
「《神の宣告》を発動! ライフを半分払ってその特殊召喚を無効にします!」
 さらにライフを半分払い、初期値の4分の1まで減った。

璃奈 LP:4000→2000

(情報だと彼女は破壊→蘇生→攻撃の流れを主とした【ネオスビート】を使っていましたが、先程のターンの動きなどから推測するに、一撃必殺型の【アライブHERO】の流れを組み入れているようですね。どちらにせよ、このターンで終わらせます!)
「もう1度《裁きの龍》を特殊召喚です! レスポンスは何かありますか?」
「……いいえ、ありません」
 璃奈に動きはなし。《裁きの龍》の召喚は通る。
(それならあのセットカードは攻撃反応型の《聖なるバリア-ミラーフォース-》か、フリーチェーンの《デモンズ・チェーン》などカードの可能性が高いですね。確立的には7:3くらいでしょうか……)
 ライフを1000払い、《裁きの龍》の効果を発動する。

円城 LP:8000→7000

「このカード以外のフィールドのカードをすべて破壊します!」
「チェーン発動! 《活路への希望》!」
 攻撃反応型の罠でもなければ、《裁きの龍》を止めるカードでもなく、フリーチェーンのドローカードを璃奈は発動させた。
「相手プレイヤーとのライフポイント差が1000ポイント以上あるとき、ライフを1000ポイント払って効果を発動です」

璃奈 LP:2000→1000

「ライフポイント差、2000ポイントにつき、私はデッキからカードを1枚ドロー……円城さんのライフは7000、私のライフは1000。6000ポイントの差ですから、3枚のカードをドローします!!」
 手札0から一気に3枚にまで手札を増やす。
(《ヒーローアライブ》、《神の宣告》、《活路への希望》とここまでは今までの彼女の情報になかったカード。読み通り【アライブHERO】のギミックを取り入れた新しい型のようですね。ならば彼女の狙いは《速攻のかかし》で間違いないでしょう。そう引けるとも思いませんが……)
「バトルです! 《裁きの龍》でダイレクトアタック!」
 攻撃宣言。この攻撃が通れば璃奈は負ける。しかし《速攻のかかし》をドローするのに成功していればそれは免れる。だが、その手札からカードを引き抜こうとする動作は見受けられなかった。
(取りましたっ!)
 《裁きの龍》の口から放たれる光の波動が璃奈を貫く。それでも、璃奈のライフは減っていなかった。
「これは、まさか……」
「何も……使えるのはあなただけじゃないんですよ。私は墓地の《ネクロ・ガードナー》の効果を発動しました」
 《ネクロ・ガードナー》。璃奈が《ライトニング・ボルテックス》の発動時にコストとして捨てたカードだ。
「フィールドには《裁きの龍》が1体いるだけです。後続はありませんから、バトルフェイズも終了ですね?」
「……はい、そうです」
『なんとか首の皮一枚繋がりましたね~。それでも早川選手のライフは残りたったの1000ポイント! 次のターンの彼女の動きがどう命運を分けるのでしょう?』
(これは私のミスですね……もう1体《裁きの龍》を出していれば勝利していた勝負を、ほんの少しの慢心が決着を遅らせてしまいました)
 この時、円城の手札には《光の召集》で加えた《裁きの龍》と、このターンのドローカードである《奈落の落とし穴》。
(攻撃は《ネクロ・ガードナー》で防ぐことができますし、この手札なら大抵カードが来ても制圧できます。次の白神さんの相手をするのが厳しくなりますが、それでもここで勝利は間違いありません)
「なーんて、思ってませんよね?」
「!!?」
(心を見透かされた……ッ!? いいえ、そもそも早川さんの雰囲気が……違う?)
「円城さんはクロくんに敵いません。私にだって勝てません。だって……あなたからは、何も見えませんでしたから」
「え、見え……? 今なんて……?」
 しかし璃奈は、いいえ何でもありませんよ、といつもと変わらぬ雰囲気でそう応えた。怪訝そうな顔をしながらも、円城はターンを終了した。

第26ターン
璃奈
LP:1000
手札:3
無し

円城
LP:7000
手札:2
《裁きの龍》

「ねぇねぇ。結局璃奈ちゃんのデュエルスタイルってなんだったの?」
 真子に膝枕されながら美里が質問した。
「そういえば、璃奈のデュエルスタイルが判明する直前ってところで日差しにやられてふらふらだったから先に帰ったんだったな」
「うん。璃奈ちゃんのデッキが【アライブHERO】よりになってるのも関係あり?」
「あるな。どこから説明したもんか。そうだな……アポトーシスって言葉、知ってるか?」
 聞きなれない言葉。美里は無言で首を横に振る。
「アポトーシスって言うのは細胞の死に方の名前だ。役目を終えた細胞や不要な細胞が自ら死んでいく現象のことで、一個体を最善の状態としておくための細胞の自殺プログラムってとこだな」
 死ぬことによってほかが活性化される。少数の細胞が多数の細胞をより良いものとするために死ぬ現象の事だ。
「ふーん。それが、璃奈ちゃんのスタイルとどう関係するの?」
「ああ。一旦頭の隅に置いといてくれ。次に、フローって言葉を知ってるか? ゾーンとかランナーズハイでもいいけど」
「それは知ってるよ。スポーツ選手が極限の集中状態になったりすると起こるって言うあれだよね?」
 超集中状態となった者が、周りの動きがスローに見えたり、自分の体が嘘のように思い通りに動くようになることを指す。
「それの事だ。デュエリストでもたまに起こるな。俺も2回くらいなったことがある」
「うん」
「それでだ。璃奈はピンチだな。ライフがもう1000しかない」
「そうだね。自分からどんどん削っていった結果だけどね。んー? 自分から、どんどん、削った?」
(自分から「死」に……向かって行ってる……?)
 今までの璃奈とは全く違うデュエルだった。いや、全く違うデュエルスタイルだった。
「もしかして……それが、璃奈ちゃんのデュエルスタイル?」
「美里は頭がよくて助かる。まさにそれ。璃奈はライフが減っていき、あるラインを下回るとフロー状態に入る」
 例えばそれは辻垣外真子とのデュエルであったり、5日前の鳳瞬とのデュエルであったりする。
「それはライフが0になる瞬間にも起こる」
 例えば白神玄とのデュエルであったり、アンナ・ジェシャートニコフとのデュエルであったりする。
「それは『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』同士のデュエルみたいな超高度なデュエルを見ているときにも起こったりする」
 例えば、2週間前の地区予選決勝のデュエルであったりする。玄は最後に、俺は「元」だけどな、と付け加えた。
「そして、こんな噂を聞いたことがないか?」
 真の決闘者は有色の波動を纏い、またその波動を目視できるのも真の決闘者だけ。
 その色は決闘者そのものを表すという。
 例えば灼熱の様な赤。例えば深海の様な青。例えば森林の様な緑。例えば雷撃の様な黄。例えば大地の様な茶。例えば闇夜の様な黒。例えば閃光の様な白。
「璃奈がフロー状態に入るとその波動が見える。俺との初めてデュエルであいつは「黄金」を見たらしい。アンナとの最初のデュエルでもだ。そしてこの前の地区予選決勝大将戦でも……。見えるって言っても、相手が『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』クラスやデュエリストレベル10クラスの実力者じゃないと見えないみたいだけどな」
「それじゃあ今は……」
「何も見えてないだろうな。あの状態の璃奈なら、デュエリストレベル8程度は敵じゃあねぇよ」
 これが早川璃奈の新たなデュエルにしてデュエルスタイル――。




   8-4 ― 自殺決闘(アポトーシス) ―




「私のターン、ドロー! 魔法カード、《手札抹殺》を発動です! 3枚捨てて3枚ドロー!!」
「1枚捨てて1枚ドロー」
 円城は切り札である《裁きの龍》を捨てることとなったが、代わりに引いたのは《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》。こちらも切り札の内の1枚だ。
(これなら何の問題もありませんね……)
「さらに魔法カードを発動です。《ホープ・オブ・フィフス》! 墓地の《E・HERO エアーマン》、《E・HERO プリズマー》、《E・HERO ネオス》、《手札抹殺》で捨てた《E・HERO アナザー・ネオス》と《E・HERO バブルマン》をデッキに戻して、2枚のカードをドロー!」
 まるで引いてくるカードが分かっていたかのように、ドローしたカードを確認することもなく発動する。
「もう1枚魔法カードを発動します。《ヒーローアライブ》! ライフを半分払って《E・HERO エアーマン》を特殊召喚!」
 さらに自らのライフを削っていく。

璃奈 LP:1000→500

「効果で《E・HERO プリズマー》をサーチして通常召喚。効果で《E・HERO ネオス》を墓地へ送ります。そして私は、レベル4のモンスター2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 希望の使者、《No.39 希望皇ホープ》! さらにカオス・エクシーズ・チェンジ! 《CNo.39 希望皇ホープレイ》!!」
「狙いはそれですか。でもさせませんよ、《奈落の落とし穴》!」
 《CNo.39 希望皇ホープレイ》は抗う術もなく、奈落の底へと落ちていった。
「狙い通りにはならなかったみたいですね?」
「いいえ、狙い通りです。狙い通り、円城さんに《奈落の落とし穴》を使わせることができました」
 円城は表情を変えない。どうせ虚言だろうと耳を貸さない。
「ねぇ玄くん、いいかしら」
「はいはい何ですか真子先輩」
「美里ちゃん以外の私たちはその場にいたからその説明は一回聞いたのだけれど、結局フロー状態に入るとどうなるの?」
「まさか波動ってのが見えるようになるだけってんじゃねぇだろうな?」
 真子の台詞に続けて鷹崎が口を開く。
「そうだな……簡単に言うと、インスピレーションの超強化、かな」
「インスピレーション? つまりは閃きの力が増す、ってことかい?」
「今璃奈が《奈落の落とし穴》をわざと使わせた、みたいな発言をしただろ? 真子先輩の話だと入部試験時も真子先輩に《奈落の落とし穴》をわざと使わせたとかなんとか。それにさっきの《ホープ・オブ・フィフス》のドローも碌に確認せずに使ってた。あれは「何となく」そうだろうって分かったんだろうぜ、璃奈にはな」
 「何となく」伏せが《奈落の落とし穴》だと思い、《CNo.39 希望皇ホープレイ》を囮に使った。
 「何となく」ドローが《ヒーローアライブ》だと思い、確認もせず使用した。
「自分のデッキを知り、相手のデッキを知り、自分を知り、相手を知ることで、「何となく」「そう思った」という感覚で相手の行動を予測し、自分の行動を予測する。本来眠っているはずの力をフルに活用できるようになるのがあの能力なんだよ」
「確かに、「何となく」でも次の行動や次のドローが予測できれば、デュエルはかなり有利に進められるな」
「でも、それだけで璃奈ちゃんがあそこまで強くなるものなの?」
「だから言っただろう? 眠っているはずの力をフルに活用できるって。璃奈は元々ポテンシャルがかなり高いんだ。つまりはこれが璃奈の本当の実力ってことだよ」
(早川さんの手札は3枚……仮に大型モンスターを展開できたとしても私の墓地には5体の《ネクロ・ガードナー》がいます。攻撃は通りません!)
「それじゃあ行きます。この3枚……3枚の魔法カードで、円城さんを倒します!」
(ライフポイント差は6500。3枚の魔法カードでそんなダメージを与えるんて無理です! 出来るわけがありません!)
 円城は心の中で何度もそう唱え続けたが、周りの人間が気付かないレベルで小刻みに震えていた。恐怖していた。有利なのは自分のはずなのに、目の前の少女の自信溢れる発言に動揺を隠しきれなかった。
「まずは1枚目、《ミラクル・フュージョン》! 墓地の《E・HERO エアーマン》と《E・HERO プリズマー》を素材に、《E・HERO Great TORNADO》を融合召喚です!」
 風を司る「E・HERO」の融合体。召喚時にフィールドの相手モンスターの攻撃力を全て半減させる。

《裁きの龍》 ATK:3000→1500 DEF:2600→1300

「攻撃力を下げても攻撃が通らなければ意味がありま……」
「2枚目の魔法カードを発動します」
 円城の台詞を遮り、続いて璃奈は2枚目の魔法カードを発動させた。
「《ミラクル・コンタクト》を発動! 墓地の《E・HERO ネオス》と《N・エア・ハミングバード》をデッキに戻して、《E・HERO エアー・ネオス》をコンタクト融合!!」
(《N・エア・ハミングバード》なんていつの間に……はっ、あの《手札抹殺》。捨てた3枚の内の残った1枚ですか……!)
「《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力は私のライフが相手プレイヤーのライフよりも少ないとき、その差分だけ攻撃力を上昇させます」
 璃奈のライフはたったの500。円城ライフは7000。よってその差6500ポイントが《E・HERO エアー・ネオス》に加算される。

《E・HERO エアー・ネオス》 ATK:2500→9000

「こ……攻撃力、9000……!? で、ですが、モンスターは2体だけです! あと1枚の手札で4回の攻撃をしなければ、《ネクロ・ガードナー》の壁を突き抜けることは不可能! エンドフェイズには《E・HERO エアー・ネオス》はエクストラデッキに戻ります! どう考えても、どうしたって、私には、私たちには勝てません!」
 明らかに動揺していた。呼吸が乱れていた。肩が大きく揺れていた。冷静さを欠いていた。
「最後の魔法カードです。これが《ネクロ・ガードナー》の壁を超えるためのカード。《魂の解放》!!」
 お互いの墓地から合計5枚のカードを選択し、ゲームから除外する。《魂の解放》が持つ効果はたったそれだけ。たったぞれだけで、牙城は、崩れる。
「私は円城さんの墓地の《ネクロ・ガードナー》5体を選択し、ゲームから除外します。何かありますか?」
「《ネクロ・ガードナー》の効果はフリーチェーンです! すべてチェーンして発動……チェーンして……?」
 そこで円城は冷静さを取り戻した。このフィールドの意味が、この現象の意味が、この魔法の意味が。
「そうです……《ネクロ・ガードナー》の効果はフリーチェーンですから、5体全てをチェーンして発動すれば攻撃を防げます。ただし、《ネクロ・ガードナー》は発動してから最初に宣言された攻撃を防ぐ効果。5回の効果をチェーンさせてもその全てが1度目の攻撃を無効にすることしかできません。つまり……」
「私は……攻撃を1度しか防げない……?」
 しかも、例えどんなに攻撃力が低いモンスターであろうとも、最初の一撃を防がなければならない。防御のタイミングを選択することはできない。
「バトルフェイズです。《E・HERO Great TORNADO》で《裁きの龍》に攻撃です」
 5体の《ネクロ・ガードナー》の効果が発動。ソリッドビジョンには、半透明の姿として《E・HERO Great TORNADO》の攻撃を防ぐ。5体掛かりで。
「これで、あなたを守る壁はなくなりました。止めです……《E・HERO エアー・ネオス》で、《裁きの龍》に攻撃!! スカイリップ・ウィング!!」
「きゃっ、きゃっああああああああああああっ」

円城 LP:7000→0

『決まりましたーっ!! 神之上高校対桜ヶ丘女学院、Bブロックを制し決勝へと駒を進めてたのは、神之上高校でーっす!!!』
 観客席から注がれる称賛の嵐。それを最も多く受けたのが、璃奈だった。
『《手札抹殺》、《ホープ・オブ・フィフス》、《ヒーローアライブ》、《ミラクル・フュージョン》、《ミラクル・コンタクト》、《魂の解放》の魔法カード6連続発動で逆転勝利を手にした早川選手! 何か一言どうぞっ!』
「ふぇっ、えっ、えっと……ぉ」
 三木島プロの突然の振りに動揺する璃奈。その様子はいつも通りだった。
「あの、えっと……頑張りましたっ」
 満面の笑みでそう一言。会場は余計に盛り上がり、璃奈は余計に恥ずかしくなる。
 そんな璃奈に、円城が近づいてきた。
「円城さん……」
「負けました……私の、私たちの完敗です」
 スッと右手を前に差し出した。握手、と言うことだろう。
「はい、私の、私たちの勝ちです。ですから……」
 ギュッと両手で円城の右手を握りしめた。
「またいつか、デュエルしましょうね?」
 先程と同じくらい明るい笑顔で璃奈はそう応えた。
「はいっ」
 円城もまた同じく笑い。ステージを降りると、仲間に囲まれながら、全員で泣いた。


「お疲れ様」
 璃奈を待っていたのは仲間の笑顔。栖鳳戦の時とは違う、すっきりとした笑顔で璃奈が全員の元へ駆け寄る。
「ありがとうございます、クロくん」
「璃奈、一言いいか?」
「はい? なんです?」
「ふん、俺が出るまでもなかったな!」
 仁王立ちしてステージを仰ぎ見ながら悪そうな顔でそう言った。
「言いたかっただけですね」
「うん」
「それじゃあ、この後はどうします? もしかしたらAブロックの試合がまだやってるかもしれませんし、見に行きます?」
「いや……もうとっくに終わってるだろうぜ。それより、真子先輩が友人に頼んでAブロックのデュエルを撮っておいてくれてるらしいし、ホテルに戻ってそれを見よう」


 神之上高校があるのは神奈川県。対する本戦会場があるのは東京都。いちいち移動するのも面倒なため、部費を使って近場のホテルへと泊まっている。成績の優れた部活であるため、神之上高校内のどの部活よりも部費が多い。全員が1人部屋の上に、朝食と夕食はホテル側から出される豪華メニュー。こんな待遇が初めての玄、璃奈、鷹崎はここに始めてきたとき絶句していた。
 会場からホテルまでバスを利用して約10分。ホテルに戻ると各人多少の休憩を取ってから、音無部屋に集まり録画してもらったAブロックのデュエルを見ることにした。
 そして14ターン目の出来事。神之上高校VS桜ヶ丘女学院のデュエルのおよそ半分のターンんで、デュエルは終了した。
 画面からは宮路森高校が勝利したことが宣言された。決着を付けたのはミハイル・ジェシャートニコフ。そして、先鋒として参加したのも、ミハイル・ジェシャートニコフだった。
「何よ……これ」
「藍原学園のメンバー6人を、一人で倒した……?」
「ああそうだよ、これが「黄金」だ。アンナや今の俺程度を見て「黄金」を理解した気になってたなら、それはとんだ勘違いだよ」
 壁は2つ。高く、硬く、大きい壁が2つ。乗り越えなければ、勝利はない。

19, 18

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