どうしてこんなことになったんだ。
もはや意味があるとは思えないことを自問自答しながら夢中で走り、気付くと店員は自宅近くまで来ていた。
こんな状況で家に帰るつもりなど全くなかったのだが、足は無意識に自宅へと向かっていたらしい。習慣というのは恐ろしい。
だが自宅が安全な場所だと思えるほど店員は楽天的ではなかった。
物陰に隠れつつ、こっそりと自宅の方を窺うと、案の定自宅前には数台のパトカーが止まっていた。
（素直に出て行って無実を訴えようか？ というか実際無実だよな？）
しかしそれには問題もあった。
なにしろ死体は確実に一つあるのだ。
更に言うなら死体となった女は衆人環視の中で「店員に密かに思いを寄せていた」と宣言している。あの妙な連中以外のまともな客達の耳にも入っているだろう。
そしてその後、騒ぎが大きくなるにつれて客達はどんどん退散していった。
女が地蔵に踏み潰されて圧死した時には自分と例の連中しかいなかったはずだ。厨房や事務所には他の従業員がいただろうが、おそらく女が二次元となった瞬間は見ていない。
女が自分に思いを寄せていたと証言する者はいても、地蔵が女を踏み潰したところを目撃している（まともな）者はいないのだ。