ある式の日
桜は日本の国花らしい。
満開時の、外来種に比較して慎ましやかな華やかさから、あはれにも散りゆく儚さが日本の情緒を見事に表しているから、とのことだが。
本質はそうじゃない。「日本固有の花だから」でいいと思う。実際それが重要。
世界中に桜が咲き乱れていたらどう?情緒?そんなの1ポイントだって考査に反映されない。
ハイビスカス=東南アジア・南国の風潮にしても、あのアホみたいなゴテゴテ感は我らがアメリカ様そのものだと思う。色彩感覚とか。
パステルカラーのケーキと同じ。イメージで選ぶならそうなるでしょう?無駄にでかいし。
修飾語が無駄についているから、国旗も国歌も反対されるんだ。本質を理解できない。
歌え。掲げろ。先祖代々の決まり事。それでいい。軍靴の音もタップのリズムであれば和平主義の色に染まる。
強制も悪一文字ではないと思う。
しかしながら、21世紀の高校それも公立ともなれば、どうやら自主性を重んじる方向性を採った様で。
在校生一同は、ただ一竿の校旗に向かってチャート1位のポップスを合唱する。地方自治体は上位団体に絶対服従では無い様だ。あっぱれ日本。さらば軍国主義。
『在校生代表、3年7組千葉明文君――』
幼稚な儀式が一段落つくと、定型文が読み上げられる。それほど偏差値の高くない私ですら2~3度聞けば諳んじられるような陳腐な文章を、背筋を伸ばし、直立不動で抑揚素晴らしく読み上げるこの生徒会長は、やはり十人並の人間ではないのだろう。ただ、お得意の感情……とやらは言の葉に載ってない様だ。
一部から特に熱のこもった拍手に迎えられて、当代一の色男さながらに彼は壇上から去った。やはりいけ好かない。
『新入生代表、1年5組比嘉幸人君――』
名前を呼ばれて長身の二枚目の後を受けた男子学生は、いかにもまだ幼く、中性的な顔をした少年だった。
一部から下品な発情の視線が集中したが、彼は手にした用紙を開かずに発した。
「このたびは、こんなにすばらしい入学式をしていただいて、とてもうれしいしいです。ボクたちは、はじめてここに来るのでとても不安でした。でも、こんなにすてきなセンパイたちがいるこの学校を、とても好きになりました。」
嬉しそうに。楽しそうに。世界中の幸せがここにあるとでも言うように。続く言葉も、明るく、朗らかで、そしてよく通った。
わずか数分、彼の摩訶不思議な答辞が終わったとき、たちまち私以外の白けた空気は消え去ってしまっていた。
満足そうに壇上から降りる彼を、はしゃぎ気味で迎える男子生徒の一団は、恐らく中学からの同級生なのだろう。
口々に、よかったぜ、だの、さすが幸人、だの賞賛の言葉を浴びせている。その声援に彼は、またしても満面の笑みで答えるのである。
私は、不快感と嫌悪感でいっぱいだった。