新聞にはこう書かれている。2年B組の相模原慎吾(16)が死体として発見された。現場は3号館2階のトイレ。凶器はガラス製の灰皿と思われる。第一発見者は新任の教師。相模原くんは野球部に所属しており万年補欠であった。
一体誰が彼を殺害したのか。
それを解明するのは我ら探偵部の使命であろう!
俺、東郷次郎は、犯人の正体について確信があった。
俺は夕焼けの差し込む、普通の教室の半分ほどしかない狭い部屋の入り口から、奥の机に座る人物を見つめている。
「犯人はオマエだ」
スッと指を突きつける・・・。その先で俯いて机に長い黒髪を垂らしつつも傲慢な雰囲気を醸しだして座っているのは、我が探偵部の部長である飛騨純子先輩だ。
「・・・トウゴウくん」
顔を上げた先輩の顔は怒りに歪んでいて、目尻には涙が浮かんていた・・・。
「あいつがいけないのよ・・・!あいつが、わたしの貞操を奪ったから・・・!殺すしかなかったのよぉ!」
「先輩・・・」
俺は両手で先輩のほっぺたをぐにーっと広げて先輩の表情を面白くしてやった。怒りに歪んだようにしようと頑張ってるつり上がった眉毛と、妙にニヤけたようになった口元のギャップが超ウケる。
「にゃにしゅんのお!」
「先輩・・・腐れ縁のよしみで先生には通報しませんけど、やめましょうよこういうの」
「ああひにゃんにおひえにゃいひ!」
そう、この先輩には残念な虚言癖があるのだ。
相模原くん殺人事件。号外新聞の見出しにはそう書かれていた。
しかし事実は、その号外新聞がゲリラ的に下足箱のそばの掲示板に貼りだされ、15分後に人だかりのなか教師に回収されるという方が本当の事件だった。
もちろん2年B組出席番号15番で野球部補欠の相模原くんは殺害されていないどころかピンピンしている。ピンピンしているが、今回の事件があって、少し不安に思っているようだ。嗚呼可哀想な被害者よ。
先輩は俺が高そうな先輩の私物のティーカップに注いだ紅茶を優雅に飲んでいる。俺はその向かい側の机で、先輩のに注いだ余りの午後の紅茶ミルクティーをペットボトルで飲んでいる。
「でもデューク、今回の事件で学校生活が面白くなったと思わない?」
「誰がデュークだ。あとゴルゴでもないですから」
俺はこの東郷という苗字のせいで某漫画の主人公になぞらえていじられることが多い。だが俺はちょっと長めの髪型で中肉中背、極めて平凡な体型の中学生であり、決して角刈りでガタイのいい暗殺者ではない。
「でも最近のアレクサンドリア学園はみんな優等生でつまらないわ。だから私が架空の事件を起こして皆の青春に彩りを加えているわけね。」
「ただ先輩の好き勝手にやって迷惑かけてるのを正当化しないでください・・・ていうか新聞貼りだし事件は実際にちょっとした事件ですから・・・」
ちなみにアレクサンドリア学園とは先輩が勝手に考えた俺達の通う市立大和中学校の別称である・・・。
「まぁいいわ。今日はそろそろ帰るわよゴルゴ!」
「暗殺すっぞコラ!」
「まぁこわい。やっぱりゴルゴだったのね。愛銃はM16なのね」
しまった・・・ノってしまった・・・!
「ほら!はやく帰るわよ!帰って新しい事件の犯行予告をワードで作らなきゃいけないでしょ!」
「もう勘弁して下さい!」
勘弁してくれといってもまた勝手に先輩は事件を作り続けるのだろう。先生にバレて怒られるその日まで。