主人公は目立ちたがりやであったが、小、中学校では注目され人気者になるようなことはなかった。よって、彼も十分に学んだのだろう。高校では無理に人目を集めることを諦め、自然に生きることに決めたのであった。
僕が小さい頃、スプーンの絵を描いたことがあった。何度も消しゴムを使い、やっと形が取れたはいいがどうもスプーンには見えない。そこで色を塗ることにした。僕はクレヨンの箱にある銀色をとり塗りたくった。だが、そこにあるのはくすんだ灰色であって、銀色ではなかった。何度も塗ったがやはりスプーンは完成しなかった。そのときに自分には才能がないのだろうかと思うと同時に、銀色というものが気になった。もしかすると、本物の銀色のクレヨンはまだできていないのかもしれないと思った。父親から聞いていた、科学者という仕事があると、あらゆる不思議を追求して社会に役立つことを見つける仕事だといっていた。そうか、僕は将来科学者になるぞ。科学者になって、本物の銀色を見つけるぞ。
そんな決心を忘れた頃、僕は高校生になっていた。
クラスの明るく友達の多そうな者達が集まって、楽しそうな話をしている。
カラオケに行こう、お前この前の歌ヘタすぎ、いいね、それはおめえが無理やり知らない曲やらせるからだろ、じゃあどこにする、今回はお前にうまいって言わせたるわ。
うらやましい。彼らがじゃない。彼らの中心人物だ。僕はあの人だかりの真ん中の人物になろうとしてきたが、うまくいかなかった。ああいうのを見ると劣等感にさいなまれる。とてもじゃないが一緒に遊ぶことなんてできない。
ああいう予定を作ることが目的のような連中と違って、僕は今日も暇だ。家で絵でも描いていようかな。
放送で帰宅しろと言っていたので、かばんに持ち物をまとめて詰め込んで帰る用意をした。みんな二人以上で連なって教室から出て行く、挨拶をするものも居る。僕が目立とうとするのをやめるだけで、こんなにも自分の周りが寂しくなるとは驚きだ。これが僕の自然なのか。周りが人でいっぱいの奴もそれが自然なのか。
帰り道は硬いアスファルトがいやになる。秋らしく紅葉が見られたりもするが、木があるのは電灯の裏や誰かの家の庭、公園の周りぐらいだ。そうか自分は自然だから人気者になれないのか。
帰り道にはコンクリートの壁がいくつかある。真っ平らだから何も伝わってこない。少しぐらい凸凹していたっていいんじゃないか。
群れていた、楽しそうな人たちをみて、黒い想像が浮かんだ。今日は紙が荒れる。
家に帰っておやつを食った後、スケッチブックを取りに行ったが、いつものところにない。家中を探したが、どれも使用済みだ。しばらく食堂の椅子にかけて、昨日の夜使い切ったことを思い出した。
「こんなことを忘れるなんてどうかしているな」
たまった苛立ちを何かで発散したかった。だから、この前、車の中から見た小さな文房具店にスケッチブックを買いに行くことに決めた。自転車に乗るのは久しぶりだ。ハンドルの変速機のゴムがはがれていた。今日は少し運が悪い。それに、気分はすこぶる悪い。
行き帰りで二時間くらいか、暇だからちょうどいい。
自転車は地面の段差にあたるたびにきしむ音を出した。ナットが外れたりしないか不安になる。前についているカゴは壁に寄りかかったトートバッグみたいにひしゃげているし、サドルは日光で熱々だった。何もかも不備ばっかりだ。
似たような場所がたくさんあって道に少し迷う。長屋のような建物の端から二番目に店はあった。
店内は薄暗くて、狭く短い通路にびっしりと文具がぶら下がっている。店の間取りは田舎の駄菓子屋を彷彿させる。店員は今は居ないようだ。一目見たところ、それなりに物は揃っているようだ。お邪魔します、といってから音を立てないように入った。雰囲気が静かにしろといっているように感じたからだ。
「あった、これだ」
すぐに買いにきた物は見つかった。これを買おうと手に取ったとき、隣に少し変わったスケッチブックがある事に気がついた。見た目は普通だが、バーコードもメーカーも商品名さえも書いてない。
「おや、見る目があるね。それは願いが叶う不思議なものだ。何が叶うかはわからんがね」
割烹着のおばあさんが店になっている家の中から出てきた。足音に気がつかなかったので、突然に感じた。
「お邪魔してます。いまやってますよね? この店」
「いつでもやっとるよ、そうそう、叶う願いはとても単純なものだよ。それに今から願ったってそのとおりにはならんよ」
声がする方は気になったが向かないようにした。できるだけスケッチブックから目を離さないようにしたかった。
「あの、これに名前書いたら人死んだりします?」
「これに言葉は関係ないと思うけどね、画材だから」
スケッチブックは八百円らしい。高いし、さすがにおばあさんの言っていることを本気にしたわけじゃない。嘘でも良かった。何か変わったことが起こるのは楽しいことだ。
「ぼったくりじゃないですか」
「そんなことないよ良心的な値段さ、たぶんお前さんは常連になる。毎度ありは次から言うよ。それで……買うかい?」
値下げしてもらうつもりだったが無理そうだ。
「買います。じゃ、また今度」
「じゃあね」
僕は店を出て自転車にまたがった。風が強くなっていて、手が悴みそうだ。
「手袋を持ってこればよかった」
不備ばかりだ。
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家に帰って早速鉛筆を削った。僕がいつも使っているのは4Bの鉛筆で、初めて使ったときはこんなに黒く塗れるものなのかと感心した。手が寒さで悴んでうまく彫刻刀を握れない。手首が自由に動かないのは不便であることを気付かされる。
やっとのことで削り終え、机に鉛筆を置いた。手を揉み解しながら紙を取りに行く。
スケッチブックを机に置き、表紙をめくるともうそこには絵があった。予想の斜め上だ。さすがに魔法が使えたりしなくても普通の画用紙ぐらいには使えるだろうと思ってたのに、まさか使用済みだったなんてふざけるんじゃない。
「ああっ」
激情に任せて、椅子を蹴った。頭をかきむしった。
明日あのばばあに返品して怒鳴ってやる。そうすれば少しはスッキリするだろう。
僕は場を放置して自分の部屋から出た。リビングでテレビでも見て気を紛らわそう。
番組ではストリートアートについて取り上げていた。このごろ日本でも頻繁に見られるようになったとのことだ。
「それが、自分の気持ちを人々に伝える方法だからだ」
それが、彼らのグラフィティ(スプレイアート)を行う理由らしい。壁に絵を書くなんてアウトローもいいとこだがそんな奴らでも自分の気持ちを理解してほしいなんて思うのか。僕だって理解してほしいさ。その番組が終わった後は顔も覚えていない芸能人が叫んでいるばかりで面白くなかった。
「消すか」
「おにーちゃーん」妹の女子にしては低い声が聞こえてきた。
「なんだ」
「絵うまくなったねー」
「そんなことは昨日もおとといも言っていたような気がするが。ていうかお前また勝手にスケブ見たのか」危ない系の絵は別のところだから安心しろ自分。
「いやいや、今日のは格別だよ。何、ハイパーリアリズムにでも目覚めたの? エッシャー?」
「は?」僕は今日絵を描いていない。
「あれ? 違った? これお兄ちゃんのだよね」
そうだ。今日僕が買ったスケッチブックだ。
「ちょっと見せろ」
そこに描いてあったのは僕の顔、僕の部屋そのものだ。写真みたいにうまい。だけど、何か変だ。何なんだ。
「おかしい」
「何が? うまいし全然おかしくないけど?」
妹にはこの違和感がわからないらしい。何なんだ。
「カレンダーが反対だ」鏡みたいに。
「なに言ってんの? 当たり前じゃん」あはは、おかしー、と妹は笑う。
「だって、おかしいだろ?」
「おかしくないよ。お兄ちゃんはどうやって自分を見るの?」確かにそうだ。そうか、問題点はそこじゃない。
「いいか、これは僕が描いたんじゃないんだ」
「うん」
「この画用紙には買った時から絵が描いてあったんだ。これは他人の絵だ。だからお前が僕の絵じゃないってことに気がつかないはずがないだろ? だけどお前は気がつかなかった。なぜならこの絵には僕が描いてあったから」
「つまり、最初からこの絵は存在していたことに……」妹が確信に触れた。二人の顔がみるみる青ざめていく。
「不思議って言うのはこういうことか」俺は納得していたが、妹は腑に落ちない様子。
「どういうこと? 自演でしょ?」違うが、説明がめんどくさい。今はこの不思議な画帳がきになる。
「はいはい。自演ですよ。あぁこれだから妹はのりが悪くて困る」
「はあ、そんなんだから友達居ないんでしょ。いちいち人の対応にけちつけるから」いや、さすがに他人にそんなことしませんよ妹さん。
妹は宿題が残っているのか、さっさと自分の部屋に戻っていった。僕は自室へ戻り、もう一度それを開いた。
「僕の部屋だ。それと僕」僕の左後ろにはカレンダーがある。これはスケッチブックを開いたときの状況と同じだ。もしかするとこれは本当にすごいものかもしれない。
「鏡か」
やっとのことで削り終え、机に鉛筆を置いた。手を揉み解しながら紙を取りに行く。
スケッチブックを机に置き、表紙をめくるともうそこには絵があった。予想の斜め上だ。さすがに魔法が使えたりしなくても普通の画用紙ぐらいには使えるだろうと思ってたのに、まさか使用済みだったなんてふざけるんじゃない。
「ああっ」
激情に任せて、椅子を蹴った。頭をかきむしった。
明日あのばばあに返品して怒鳴ってやる。そうすれば少しはスッキリするだろう。
僕は場を放置して自分の部屋から出た。リビングでテレビでも見て気を紛らわそう。
番組ではストリートアートについて取り上げていた。このごろ日本でも頻繁に見られるようになったとのことだ。
「それが、自分の気持ちを人々に伝える方法だからだ」
それが、彼らのグラフィティ(スプレイアート)を行う理由らしい。壁に絵を書くなんてアウトローもいいとこだがそんな奴らでも自分の気持ちを理解してほしいなんて思うのか。僕だって理解してほしいさ。その番組が終わった後は顔も覚えていない芸能人が叫んでいるばかりで面白くなかった。
「消すか」
「おにーちゃーん」妹の女子にしては低い声が聞こえてきた。
「なんだ」
「絵うまくなったねー」
「そんなことは昨日もおとといも言っていたような気がするが。ていうかお前また勝手にスケブ見たのか」危ない系の絵は別のところだから安心しろ自分。
「いやいや、今日のは格別だよ。何、ハイパーリアリズムにでも目覚めたの? エッシャー?」
「は?」僕は今日絵を描いていない。
「あれ? 違った? これお兄ちゃんのだよね」
そうだ。今日僕が買ったスケッチブックだ。
「ちょっと見せろ」
そこに描いてあったのは僕の顔、僕の部屋そのものだ。写真みたいにうまい。だけど、何か変だ。何なんだ。
「おかしい」
「何が? うまいし全然おかしくないけど?」
妹にはこの違和感がわからないらしい。何なんだ。
「カレンダーが反対だ」鏡みたいに。
「なに言ってんの? 当たり前じゃん」あはは、おかしー、と妹は笑う。
「だって、おかしいだろ?」
「おかしくないよ。お兄ちゃんはどうやって自分を見るの?」確かにそうだ。そうか、問題点はそこじゃない。
「いいか、これは僕が描いたんじゃないんだ」
「うん」
「この画用紙には買った時から絵が描いてあったんだ。これは他人の絵だ。だからお前が僕の絵じゃないってことに気がつかないはずがないだろ? だけどお前は気がつかなかった。なぜならこの絵には僕が描いてあったから」
「つまり、最初からこの絵は存在していたことに……」妹が確信に触れた。二人の顔がみるみる青ざめていく。
「不思議って言うのはこういうことか」俺は納得していたが、妹は腑に落ちない様子。
「どういうこと? 自演でしょ?」違うが、説明がめんどくさい。今はこの不思議な画帳がきになる。
「はいはい。自演ですよ。あぁこれだから妹はのりが悪くて困る」
「はあ、そんなんだから友達居ないんでしょ。いちいち人の対応にけちつけるから」いや、さすがに他人にそんなことしませんよ妹さん。
妹は宿題が残っているのか、さっさと自分の部屋に戻っていった。僕は自室へ戻り、もう一度それを開いた。
「僕の部屋だ。それと僕」僕の左後ろにはカレンダーがある。これはスケッチブックを開いたときの状況と同じだ。もしかするとこれは本当にすごいものかもしれない。
「鏡か」
俺の予想はこの写生帳が鏡のように景色を写しだす力があるというものだ。確認のための簡単な実験を今から試す。
「新聞どこにあるー? 青黄ー?」
「……もー、勉強中なのにー。知らないよー」
しかたがない、天気予報でやるか。今やってるのはどこだろ。
「明日の天気は晴れとなる模様です。―地方は午後二時ごろから」よし、やってる。
スケッチブックをテレビに向けて開く。観察に徹していたので、初めてこれをめくったときには聞こえなかった音に気づいた。無数の鉛筆が一気に線を引くような、小さいが多くの音が一瞬鳴った。
紙を見るとそこには鏡写しになったお姉さんと天気図がかいてあった。この不思議な力はリアルタイムのものだといえるだろう。
あのおばあさんの変わった商品は、どうやら開いた時の状況を鏡のように写し出すスケッチブックのようだ。すごい、が絵が描けないんじゃあ、画用紙の意味がない。今日はやっぱり絵がかけないじゃないか。
暇な時間はネットでつぶす。特に目的を持たずにつなげた場合は、もっともリターンの少ない蕩尽といえるだろうがこれが楽しいから困る。この文明の発達によって、高知能層はさらにハイレベルになるだろうが僕たちはどうなんだろうか。いつもの情報まとめサイトを開き、興味を引く内容を含んでいそうな題名を探す。
ネットでは(特にネタ系を扱うことの多い集まりでは)、有名であったり話題になるような特徴を備えた画像に対して、不自然に又は一見自然に他の画像を貼り付けるコラージュ(以下コラ)が流行っているようだ(むしろ、それがネタ画像の大きなジャンルであるが)。
僕はコラを見て思いついた。この画用紙の新たな使い道である。
さっそく、取り掛かることにした。ネットにねっとり張り付いているのがいつもの夜だが、今日はなぜかすっぱりと離れることが出来た。これもスケッチブックの不思議な力なのだろうか。まず、順番に僕の写っている絵からはじめる。落書きの定番から始めることにしよう。こういう時、自分の平凡さが心にしみる。僕は自分の顔にひげを描き、さらに髪の毛を消した後、そこにツンツンの剣山を出現させた。もちろん完全に周囲に溶け込む形にしてある。完璧だ。これが自分の顔でなければアップロードしていたところだ。
ところで今日はもう遅い、さっさと寝てしまおう。
いつもぎりぎりまで寝ての登校で、歯も磨かないし、顔だって洗わない。だが、飯はいつもしっかり食べている、今日は納豆と味噌汁と目玉焼き、昨日と同じ。文句は言いたいだけど言わない、それが養われているということだ。
反発していた時期もあった、だが無駄なのであきらめた。
用意を忘れていたのでさっさとつめて学校に向かう。
なぜか、ちらちらと見てくる人が居る。奇異なものを見る目でこちらを向いている。
教室でもそうだった、数人が僕を見てくる。そして、席に座ると「えっ」というこえが聞こえた。人目を集めるようなことをした覚えはない。僕は居心地の悪さを感じ、目が泳いでいた。気がつくと自分の前の席におかっぱの女の子が座ってこっちを向いていた。真理さんだ。
「あなた誰?」僕の顔をじっくり見ながらそういった。
「当ててあげよう。緑青君だよね。君、そういう人だったんだね」自分で聞いて自分で答えてる。
「どういう人……ですか?」
「不良にあこがれる、いや、不良。どちらかって言うと子分」
「そんなことないよ」
「見た目がね」
「君って人を操れたりする?」
「いや、なにいってんの」
「じゃ、なんで」人がじろじろ僕を見たりするんだ。
「顔にかいてあるよ」
「なにいってんの」
「ハイ、これ」彼女は四角い手鏡を僕に向けてきた。
確かに描いてあった。昨日の落書きが。まさか現実にアップロードされるとは思わなかった。
「今日はこれでいきます」
「不良にあこがれて?」
「ちがうよ」
「新聞どこにあるー? 青黄ー?」
「……もー、勉強中なのにー。知らないよー」
しかたがない、天気予報でやるか。今やってるのはどこだろ。
「明日の天気は晴れとなる模様です。―地方は午後二時ごろから」よし、やってる。
スケッチブックをテレビに向けて開く。観察に徹していたので、初めてこれをめくったときには聞こえなかった音に気づいた。無数の鉛筆が一気に線を引くような、小さいが多くの音が一瞬鳴った。
紙を見るとそこには鏡写しになったお姉さんと天気図がかいてあった。この不思議な力はリアルタイムのものだといえるだろう。
あのおばあさんの変わった商品は、どうやら開いた時の状況を鏡のように写し出すスケッチブックのようだ。すごい、が絵が描けないんじゃあ、画用紙の意味がない。今日はやっぱり絵がかけないじゃないか。
暇な時間はネットでつぶす。特に目的を持たずにつなげた場合は、もっともリターンの少ない蕩尽といえるだろうがこれが楽しいから困る。この文明の発達によって、高知能層はさらにハイレベルになるだろうが僕たちはどうなんだろうか。いつもの情報まとめサイトを開き、興味を引く内容を含んでいそうな題名を探す。
ネットでは(特にネタ系を扱うことの多い集まりでは)、有名であったり話題になるような特徴を備えた画像に対して、不自然に又は一見自然に他の画像を貼り付けるコラージュ(以下コラ)が流行っているようだ(むしろ、それがネタ画像の大きなジャンルであるが)。
僕はコラを見て思いついた。この画用紙の新たな使い道である。
さっそく、取り掛かることにした。ネットにねっとり張り付いているのがいつもの夜だが、今日はなぜかすっぱりと離れることが出来た。これもスケッチブックの不思議な力なのだろうか。まず、順番に僕の写っている絵からはじめる。落書きの定番から始めることにしよう。こういう時、自分の平凡さが心にしみる。僕は自分の顔にひげを描き、さらに髪の毛を消した後、そこにツンツンの剣山を出現させた。もちろん完全に周囲に溶け込む形にしてある。完璧だ。これが自分の顔でなければアップロードしていたところだ。
ところで今日はもう遅い、さっさと寝てしまおう。
いつもぎりぎりまで寝ての登校で、歯も磨かないし、顔だって洗わない。だが、飯はいつもしっかり食べている、今日は納豆と味噌汁と目玉焼き、昨日と同じ。文句は言いたいだけど言わない、それが養われているということだ。
反発していた時期もあった、だが無駄なのであきらめた。
用意を忘れていたのでさっさとつめて学校に向かう。
なぜか、ちらちらと見てくる人が居る。奇異なものを見る目でこちらを向いている。
教室でもそうだった、数人が僕を見てくる。そして、席に座ると「えっ」というこえが聞こえた。人目を集めるようなことをした覚えはない。僕は居心地の悪さを感じ、目が泳いでいた。気がつくと自分の前の席におかっぱの女の子が座ってこっちを向いていた。真理さんだ。
「あなた誰?」僕の顔をじっくり見ながらそういった。
「当ててあげよう。緑青君だよね。君、そういう人だったんだね」自分で聞いて自分で答えてる。
「どういう人……ですか?」
「不良にあこがれる、いや、不良。どちらかって言うと子分」
「そんなことないよ」
「見た目がね」
「君って人を操れたりする?」
「いや、なにいってんの」
「じゃ、なんで」人がじろじろ僕を見たりするんだ。
「顔にかいてあるよ」
「なにいってんの」
「ハイ、これ」彼女は四角い手鏡を僕に向けてきた。
確かに描いてあった。昨日の落書きが。まさか現実にアップロードされるとは思わなかった。
「今日はこれでいきます」
「不良にあこがれて?」
「ちがうよ」