何から話せばいいのだろう。
あれから一ヶ月が経った。まだ一ヶ月しか経っていない。
コロニーの移動は阻止され、連邦艦隊が撤退していって、
このジャンク街は、まるでなにもなかったかのように、何も変わっていない。
うずたかく積まれた電子部品の山と、立ち並ぶ工房。
その一角にある私の電子部品鑑定所。
「じゃーん」
私が仕事用の顕微鏡から顔を上げて、眼鏡をかけ直すと、制服を着たグレースが帰ってきていた。
「貰ってきたよ!どう?似合ってる?」
金髪の少女が見せびらかすのは、黒と緋色をメインにした制服で、一見オーソドックスだが、隅々にまで技巧が凝らされている。
洗うのめんどくさそう・・・。と口にはしない。
「可愛いじゃないか。汚すなよ?」
よごさないよーんと言うグレースは、制服の着心地を楽しむようにぴょんぴょん飛び跳ねてみせる。うわぁ絶対こいつ3日以内に汚しそう。
「それで、学校には馴染めそう?今までの研究所暮らしとはちょっと違う感じでしょ?」
「もう人が多くてびっくり!でもシャーロットっていう子がいろいろ教えてくれたの。三つ編みの子でね」
そうして午後の時間は過ぎていく。
ジョン博士は2日だけこのあたりのホテルで暮らしていた。3日目に尋ねるとすでに引き払ったあとだった。それきり姿を消してしまった。
私とグレースは郊外に犠牲になった5人のささやかな墓を作った。
悲劇を乗り越えて生きること。それが私とグレースにそれぞれ科せられた十字架のように思う。
え?プラチナバードはどうしたかって?
・・・それは私とグレースだけの、秘密。