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第12章 新聖帝の誕生

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 「ウェンディの様子はどうだ?」
 ―ギィィン
 僕がウェンディを神殿に寝かせ、地上へ出ると、ガルーザがシュジェと剣を合わせながら聞いた。
 シュジェが軽快な身のこなしで大剣を振るい斬撃を繰り出すが、ガルーザは片手で攻撃を捌いている。
 「‥‥まだ意識が戻らない」
 僕の手紙を見て駆けつけたガルーザ達の助太刀を得て、辛くも飛空艇サラマンドラを撃退したが、力を酷使したためか、ウェンディは昏倒して意識を戻さない。
 思い詰めている僕を見て、ガルーザが言う。
 「心配することはない。2、3日神殿で安静にしていれば回復するだろう」
 ―ガキィィン
 ガルーザが隙を突いてシュジェの大剣を地面へ叩き落とす。
 「甘いな」 ガルーザが牙を見せてニヤリとする。
 「力任せに剣を扱いすぎだ。それではいくら速い斬撃でも、剣筋を読まれる」
 「‥‥くそっ!」
 シュジェが大剣を拾い悪態をつく。
 「ガルーザ、僕に剣術を教えてくれないか」
 僕の頼みを聞き、ガルーザが僕の顔をしげしげと眺める。
 「ウェンディは精霊だ。まともに闘ったら、俺でも敵わない。大自然を相手にするようなものだからな‥‥だから、自分の無力さを嘆く必要はない」
 僕の心中を察し、ガルーザが助言をする。
 「‥‥わかってる。僕の力じゃウェンディを守ることはできないって。でも、何もせずにただ皆の足を引っ張るだけなのは嫌なんだ」
 僕のせいでウェンディが命を落とすような事になったら、とても耐えられない。
 「‥‥わかった。剣術は俺が教えよう。弓術はシュジェに教わるといい」
 シュジェを見ると、彼女は微笑む。
 「俺の指導は厳しいぞ」 ガルーザは意地悪く笑った。


 3日後、ウェンディが目を覚ました。
 彼女はすっかり傷も癒え、以前と変わらない様子で僕に話しかけた。彼女を抱きしめる。
 「シードラゴンは‥‥?」
 「‥‥残念だけど、シードラゴンは僕達を守って」
 僕達の盾となって竜巻を受けた水竜は、飛空艇を撃退した後間もなく息を引き取った。
 水竜の身体には刀で斬られたような鋭利な傷跡が無数にあり、僕はそれを見て竜巻の威力を改めて知った。水竜が盾になってくれなければ、僕とウェンディもズタズタになっていたはずだ。
 シードラゴンの遺体は、クリーチャーに穴を掘ってもらい、湖の畔に埋葬した。
 僕の話を聞き、シードラゴンの墓へ移動すると、ウェンディは涙を流す。
 「‥‥この前、シードラゴンが親代わりだって言ってたけど、シードラゴンがウェンディを育ててくれたのかい?」
 「うん。シードラゴンは本当はこの島に棲息しているんじゃなくて、海で暮らしているの。でも、海岸でわたしと姉が倒れているのを見つけて、この泉まで運んでくれた。それからも、海に戻らずにわたし達を育ててくれたわ」
 「そうだったんだ‥‥ウェンディとお姉さんがヒューマンに捕まったのは?」
 「ヒューマン達は、突然聖域へ来て、わたしと姉を脅したのよ。自分たちの言うことを聞かないと聖域を破壊して、シードラゴンを殺すって‥‥わたし達は、そのことをシードラゴンに秘密にしてヒューマン達の言うとおりにしたわ。彼女に心配を掛けたくなかったから」
 「そんなことがあったのか‥‥」
 「でも、アンリ達がわたしを救い出してくれた。そのおかげで、もう一度この島に戻って、シードラゴンに会うことができたわ。本当にありがとう」
 そう言って、ウェンディは僕を見つめる。
 「そんな。お礼を言うのは僕の方だよ。教会でも、この島でも、ウェンディに助けられてばかりだ。‥‥でも、僕はウェンディと一緒にいたい。一緒にいれるように頑張るよ」
 そう言って、僕と彼女は口付けを交わした。
 翌日、僕たちは聖都目指して島を出発した。
 ガルーザの話によると、四精霊の宝玉があればこの世界のあらゆる出来事が記録された「ガイアの記録」とやらを手に入れることができるようだ。
 今僕達のもとには、ガルーザの持つ森の宝玉とウェンディの水の宝玉がある。
 残るは精霊サラマンドラの炎の宝玉、精霊シルフの風の宝玉だ。両方共聖都にあると考えられる。
 僕はガルーザから預かったクインの剣を握りしめ、決意とともに大海原に目を凝らした。


 「先帝が貴様の父親だと‥‥?」
 イヴ神父の告白を聞き、ヨハネスは神父の首元にダガーを突き付ける。うっすらと血が滲む。
 「そうだ。俺を殺すか?」
 ヨハネスは一瞬逡巡し、手を離す。
 「ふん。子供を殺したところで何の意味もない」
 「‥‥そうか」
 ヨハネスの言葉を聞き、イヴ神父はため息をつく。
 「先帝は今何処にいる?」 再度ダガーを向け、ヨハネスが尋ねる。
 「行方不明さ。29年前からね」
 「29年前‥‥?」
 「十字軍が魔族を殲滅してからさ。突然姿を消した。誰にも何も言わずにな。‥‥もっとも、その頃には俺は縁を切っていたからな。俺に何か言うわけも無いんだが」
 「復讐のために十字軍を編成したと言ったな。どういう意味だ?」
 「妻を――俺にとっては母親だが、魔族に首をはねられて殺されたのさ。少なくとも、彼はそう思っていたようだ」
 「証拠はあったのか?」
 「監視カメラの映像があった。死亡推定時刻に母の部屋に入ったのは、召使いであるその魔族の男だけだった。窓は内側から鍵が掛かっており、部屋に出入りすることができたのは監視カメラに映っていたドアからだけだ」
 「その魔族の男は、犯行を認めたのか?」
 「否認していた。気付いた時には、母の首が切り落とされていたと証言している。しかし、他に犯人はありえないと判断され、有罪となった」
 イヴ神父は息をつき、続けて話す。
 「‥‥その頃からだ。彼――聖帝リオネル・オーギュスト・レオンが精神的に不安定になったのは。よほどショックだったんだろう」
 「だからといって、魔族を虐殺していいことにはならない」 ヨハネスは感情を押し殺した声で告げる。
 「勿論だ。俺だって、彼は許されざることをしたと思っている」
 「生きているのか? その男は」
 「わからない。だが、29年間も行方知れずなんだ。死んだと考えるのが自然だろう」
 そこまで聞くと、ヨハネスは踵を返し部屋を出る。
 「これからどうするつもりだ?」 神父が声を掛ける。
 「城内に侵入して、記録を探る。何かしら行方を知る手がかりがあるはずだ」
 ―ドォン!
 突然銃声が響き、ヨハネスが倒れる。
 「ぐっ‥‥貴様!」
 ヨハネスが身体を起こし、振り向くと、イヴ神父が彼に拳銃を向けていた。
 ―ドン! ドン!
 更に2回引き金を引き、銃口から煙が立ち昇る。
 すると、礼拝堂の扉が開き、蝶番が擦れる音が教会中に響いた。男達が慌ただしく礼拝堂に入る。
 「お迎えにあがりました。イヴ・オーギュスト・レオン陛下」
 男達は神父に跪き、厳かに告げた。


 「その男は、城内の牢屋に放り込んでおけ」
 「承知しました」
 男達は礼拝堂に倒れるヨハネスを担ぎ、教会から出る。
 「‥‥お前はどうする? ネスビット」
 騒ぎを聞きつけ、寝間着姿で部屋から顔を覗かせるネスビットに対し、イヴ神父は質問する。
 神父に問われ、ネスビットはわけ知り顔で思案する。
 「アンリ君を裏切ることになるんじゃないかと憂慮しているんだろう?」
 決めあぐねるネスビットの様子を見て、神父は茶化すように言う。
 「あ、あんなロリコン殺人鬼どうでもいいわよ! 私も行くわ!」
 ネスビットは部屋へ戻り荷物をまとめると、聖帝イヴ・オーギュスト・レオンと共に教会を後にした。
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