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あたまのなか戦争

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あたまのなか戦争

R「断言する。二十年後には家庭と子供を作って、小さな世界の中で小さな幸せを見つけて君は満足する」

K「俺の未来をお前なんかが決めるな!」

R「子供の写真を会社の部下に見せて微妙な顔をされる」

K「俺はそんなこと、絶対しない」

R「君は普通のつまらない大人になるよ。でもそんな人生が一番幸せだからね」

K「何が幸せかなんて人それぞれだろ? お前なんかに何が分かるんだ!」

R「いいじゃないか。普通の人生。ちょっとの友人。ちょっとの金。ちょっとのやりがい。平和。そして、愛。これ以上何が不満なんだ?」

K「決められた人生なんて、歩みたくない」

R「決められた人生だっていいじゃないか。このニュース映像を見てみろ。普通に生きるのを拒み、会社で金転がしを続けた結果倒産させ、金だけで結ばれていた周りの人間たちは皆離れていった。でも成功していた時代が忘れられず、借金して豪遊。闇金の返済に追われ、ついに強盗をし、逮捕された男だ。これが幸せに見えるか? ああなりたいのか?」

K「失敗するかどうかなんてやってみなきゃ分からないだろ!」

R「栄えあるものは必ず滅ぶのだ。多くを望めば、多くを失う」

K「そんなことはない! それに人間、失敗したって何度だってやり直せる」

R「ビジネスで言えば、ほとんどの人間は失敗し、失敗したっきりだ。一人の天才が輝くのは、一万人の凡人がいるからこそだ。単純に言えば、君が天才である確率は一万分の一なんだよ。0.01%に賭けるなんて、バカな賭けじゃないか。普通に生きようよ」

K「普通に生きる事がそんなに偉いのかよ?」

R「偉い・偉くないのレベルではもはや無い。日本社会は、一部の優秀な人間に大勢の子どもを作らせるよりも、全ての人が平等に子供を作る義務を持たせる道を選んだ」

K「義務は、納税・教育・労働だろ?」

R「確かに、義務と大っぴらには言わないけど、世の中はそういう仕組みで溢れている。子孫を残さず生きるのには人生は長すぎるし、周囲の目もあるし、とにかくありとあらゆる方向から、子孫を残したいという生物の本能をくすぐるようにできている。途中経過はどうあれ、人間がすべきことは、子供を残すこと。それだけ。それ以外は全て暇潰し」

K「人それぞれ、子供に限らず、色んなことに強い想いを持って生きてる。それを踏みにじるような言い方をするな!」

R「この世で最も強い気持ちは、親が子を想う気持ちだ。その支えが無いと、仕事に目的が見い出せなくなる。だから能率も下がる。子供が居る人には敵わないよ?」

K「みんな同じだなんて。そんなつまらない社会、俺が壊してやる……」

R「だから! つまらないのは君の人生であって社会じゃない。子供を残している人はみんな幸せなんだって。人間の本能がそうできているんだから。種を残せっていう命令を先祖の遺伝子から受け、その命令を果たす代償に幸福感を得られる。君はその命令に背いているから、いつまで経っても人生が向上しない」

K「本能本能って、知ったような口で! 知識でばかり語りやがって。お前に心は無いのか?」

R「事実を言ってるだけだよ。例えば他人に触られること無く育てられる子供がどうなるか知ってる?」

K「知らない。また知識自慢か?」

R「死ぬんだよ」

K「人間はモノじゃない! 法則に従うとは限らない」

R「そんなことはない。誰もが愛し愛されたい、子供を残したい、という強い気持ちを持つ。若いうちは無くても、十年後には絶対に抱く。だって、子供を残したくない、わがままな衝動で動く人間ばかりで社会が出来ていたら社会は回らないし、種は残らない」

K「人は社会の為に生きてる訳じゃない」

R「社会というのは人のことだよ。今僕たちが座っている椅子を作る人。この床を掃除する人。ご飯を作る人。トイレを磨く人。頭を下げてものを売り回る人。そういう人達がいるから僕達は生きていける。自分だけ嫌だなんて、虫が良過ぎない?」

K「見透かしたような上から目線はやめろ!」

R「無理すんなって。一生そうするつもり?」

K「お前の言う事が気に入らないんだよ!」

R「俺に怒ってもしょうがないさ。君は幸せになる権利がある。その権利を手にすれば、カリカリしなくて済むんだよ」

K「なんなんだよ……」

R「子供の為。他人の為。愛する人の為。社会のために生きなさい。それが幸せになるための唯一の方法。それ以外の方法ではいつか行き詰まる。人間はひとりひとりでは極めて弱い動物。支え合う以外では生きられない。その代わり、それでちゃんと幸せを得られるようになってる。都合良いでしょ? 人の心はそうやって出来てる」




審判「そこまで! ゲームセット」




実況「いやー、強かったですね! 前評判を完全に覆す結果となりました」

解説「大抵の人は思っていますからね。感情が理屈に負ける訳無いと」
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