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ホームドラマ(前)

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ホームドラマ

僕は、つまらない授業を受け、楽しい友達と過ごし、山のような量の宿題をこなしながら小学生活を送った。そんな僕が初めて異変に気が付いたのは、運動会の五十メートル走だ。市議会員の子供である加藤が、明らかに二位だったのに、一位になった。当然非難轟々で、僕も議員の息子は偉いのかよと思っていた。
僕のクラスの中の数人で、放送室でその息子の悪事を全部暴いてやった。
その時放送委員だった僕だけが放送室の機械の使い方を知っていたから、僕も加わって皆の違和感を解いたのだ。
その経験を受けて、僕は六年生の時に学級委員長になった。一年間これといったトラブルが起こる事もなく、僕は学級委員長という一大仕事を全うした。
僕は楽しい毎日を送った。勉強はあまりしなかったが、子供は遊ぶ事が仕事だとも教わったから、良い事も悪い事も学んだ。毎日が宝石のようだった。

そしてオレは中学校へ上がると、忽ちクラスを束ねる中心人物のいるグループに属した。その男は田中と言った。そこでオレはその田中が弱い奴にジュースを買いに行かせるのを見て笑ったりしていた。別にオレがやっているわけじゃないのだからバチは当たらないだろう。
しかし事件は起きた。学校裏サイトでオレたちのグループの悪口が書かれていたのだ。田中は、主に使っていた奴を二人呼び出した。オレ達の目の前に立たせた。しかし、田中はまだ黙っていたので、オレは言った。
「誰だか知らねえけど影でコソコソやってんじゃねえよ」
そこで田中が片方の奴の顔を見て言った。
「お前か?」
「お、俺じゃねえよ」
明らかに嘘だと見抜いた田中はそいつの腹を殴った。
「ウソついてんじゃねえよ」
殴られた奴は膝から崩れ落ち、半泣きでせき込みだした。オレも怒りが沸いてきてそいつに言った。
「テメー友達裏切ってんじゃねえよ」
結局そいつは土下座して謝ったのでオレたちは許した。
そんなこともあったのだが、修学旅行でオレの部屋でボヤ騒ぎが起こったりもした。煙草が原因だった。犯人は上がらなかったが、オレは最後まで友達を疑う事はしなかった。煙草を吸うことなんかよりも、一番悪いことは友達を疑うことだと思うからだ。
大人は言葉づかいだとか礼儀だとか、そういった表面の部分しか見ようとしない。大切なのは真心だろう。

そして、高校に入った。オレは高校で軽音楽部へ入った。あるバンドに憧れて音楽を始めることになった。そのバンドを愛する四人でコピーをしていた。オレはボーカルだった。教室では色んな事が禁止され、オレの気持ちは封じ込まれているが、ライブでは何を言っても誰にも何も言われない。ライブでだけは死ねなどと大声で叫べるのだ。つまらない人生を送ってる全ての奴に捧ぐ。「死ね!」
オレはもしかしたら天才かもしれない。ステージの中心で、歌いながらそう思った。世界中の全ての人にこの声を響きわたらせている姿を思い浮かべながら。オレは生きてると叫び続けてやる。

そして高校二年生の冬、彼女が出来た。彼女は同じ学校の一つ下の生徒で、オレのバンドのファンであった。オレは彼女のために歌を歌いたい。そうすることが、オレにとって、世界を変える事なんかより、大きくて、強い事なんじゃないかと思ったのだ。なんでオレは今までこんなに怒っていたのか。その理由が分からなくなった。人の人生には幸せに満ちているじゃないか。オレはそれから、高校三年生で彼女と破局し、バンドを解散することになるまでラヴソングしか歌えなくなった。
それからオレは受験勉強を始めた。今まで別の事(オレの場合はバンド)を熱心にやってきた人間は将来的に他のことをやっても上手く行きやすいらしい。オレはその言葉を信じて勉強をした。

オレは結局第四志望の大学へ入った。少し勉強を始めるのが遅かったかもしれないが、それは仕方が無い。勉強なんかしなくていい。勉強をする意味を答えられる大人がいないのが良い証拠だ。浪人をして親に迷惑を掛けることもない。大切なのは大学で何をするかだから、これで良い。
就職をするためには、サークル活動やアルバイトをするのが大事だ。履歴書にサークル活動を書くためにも、二週間に一回くらいのペースで行われる飲み会に参加するためににも。これからの時代はコミュニケーション能力が必要なのだ。人は一人では生きていけない。助け合って生きている。大学には、沢山の友達に囲まれ、サークルやアルバイトや飲み会を好きなだけ楽しんだ。
そして大学三年生になってオレはいよいよ就職活動を始めた。
オレは大学一年生から就職をするための準備をしてきた。サークルをしたし、三年間した様々なバイトの経験もあり、後輩に対しての見本になれていたと思う。飲み会にも積極的に参加し、コミュニケーション能力を磨いてきた。オレはきっと大丈夫だ。オレは学級委員長の経験もあり、生まれながらそれなりにリーダーシップもある。

集団面接の場で言いたいことが上手く言えずに、オレは不合格通知を五十通以上受け取った。
オレはムカついてきた。どうして会社はオレを採用しないのか。学歴や資格などといった時代遅れのステータスを見て社員を選んでいるのだろうか。もしくはオレが本当は社会に出るということに、あまり興味がないのに気付いているのだろうか。
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