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プロローグ

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   プロローグ

 蓋のある箱を用意して、その中に猫と放射性物質のラジウム、青酸ガス発生装置が繋がれたガイガーカウンターを入れる。
 箱の中のラジウムがアルファ粒子が発生するとガイガーカウンターが放射能を検知し、繋がれた装置から青酸ガスが発生して猫は死ぬ。だが、アルファ粒子が発生していなければガスは猫を殺す事はない。
 時間を経過させて蓋を開ければ猫の生死の如何が確認できるが、箱の蓋を開けなければ猫が死んでいる状態と猫が死んでいない状態の二種類がの可能性が重なって存在している事になる。
 シュレーディンガーの猫箱と呼ばれる、知名度のある量子力学の思考実験だ。
 それを今自分が置かれている状況に重ねて考えれば、これから起こる結果というのは蓋を開けるという神の手が下す最後の行動さえなければ自分が生存するか死ぬかの可能性が存在しているのを沖田は理解していた。
『……ゲームの説明は以上です。プレイヤーは五分のインターバルの後、所定の位置について下さい。プレイヤーが揃い次第、ゲームを開始します』
 機械女の無機質な声が、この白い正方タイルに覆われた無機質な部屋にアナウンスされる。
「尚志……」
「大丈夫だ、俺が守るよ。誰にも君を殺させなんてしない」
 傍に居た前原朱里(あかり)が腕にしがみついて来るのに、沖田は心配無いとかぶりを振った。見上げて来る彼女の表情はこれから訪れる恐怖にいまだ怯えている。
 部屋の中央に吊るされた四方を向くセンターディスプレイに『5:00』の文字が灯った。それは一秒ごとにカウントダウンを始め、カウントがされるたびに電子音が短く鳴る。
 冷徹にゲームの開始時刻を告げるカウントに、沖田はこの密室での殺人ゲームに至るまでの事を思い返していた。
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