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第2章1話食欲

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「何か、エンジンの調子がおかしくないか?」
東京発札幌行きのボーイング004の操縦席で、機長の御堂が、副機長の山中に話しかけた。
「はい。確かに、そういえば離陸の時もエンジンの回転が遅かったような気がします。」 
 山中も答えた。
「出発前の点検は正常に行われていたか?」
 御堂がエンジンを写すカメラからの映像をのぞき込みながら、山中に尋ねる。
「いえ、それが昨日から新人が行っていて、まだきっと点検が甘いんだと想います。今度私からも注意しテェッ!!!!」瞬間、機体が大きくぐらついた。
長年の操縦で培った勘で、山中はこの揺れが、乱気流による物でも、自分や御堂の操縦ミスによる物でもないことを悟った。エンジンを写すカメラを見ると、エンジンが黒い煙を大量に吐き出している。
「大変だ!直ちに近辺の空港、仙台空港に連絡を!!」
 御堂が叫ぶ。
「はい。」山中は答え、回線を繋ぐ。
「仙台空港!仙台空港!こちらボーイング004。コードエラー024!至急着陸を要請します!」無線に向かって、声を張り上げる。
「俺は後ろの客に呼びかけてくる。」
御堂が言い、席を立ち上がり、操縦質を急いで出ていく。
「わかりました。」山中が答えたその時、ガゴっという音が聞こえた。エンジンを写すカメラの映像を見る。
そのカメラの中に、エンジンは映っていなかった。あるのは、エンジンがはずれた跡のある、翼だけだ。
 操縦が効かない。飛行機は、だんだんとスピードを付けて、落ちていった。仙台空港からの応答は、ない。   


 機内は騒然としていた。神谷宗一は、ほかの客がそうしているように、立ち上がり、周りを見回していた。誰かが叫び声を上げている。
 何が起こっているのだ?今自分が乗っている飛行機が落ちている。アナウンスは入らない、キャビンアテンダントは一体何をしているのだろうかと、表しようのない焦りを、八つ当たりする。頭が混乱する。
 宗一以外の客の人数は少なかった。ざっと10人。小さな飛行機なので当たり前の事のように想われた。自分は、この10人と共に、死ぬのか?飛行機ごと落ちて?
そんな事は考えたくもなかった。自分は、刑事から警部補に昇格して、いずれは警察のトップに立つのだ。死にたくない。死にたくない!
 宗一が強く願ったとき、客席の前の方に、一人の男が立っているのが見えた。あれは誰だ?先程まではそこにいなかったはずだ。怪しい風貌をしている。あんな怪しい格好をしていたら、絶対に目立つはずだ。突如、男が口を開いた。
「私の話を聞け。」男は普通に話しているはずなのに、その声はまるで、宗一の頭の心に響くかのようによく届いた。ほかの客たちも動きを止め、男の方を見つめていた。
 「この、落下する飛行機という、絶望的な状況の中にいる諸君たちを、ある条件と引き替えに、助けてやろう。」
落下し続ける飛行機の中で、男が響く声で言う。
「ある条件?」誰かが聞く。
「ああ、そうだ。まずは落ち着いて話を聞け。」男が答える。
「こんな状況で、落ち着けるわけないじゃない!というか、あんた誰よ!」ヒステリックな高い声で誰かが叫ぶ。
「それもそうだな。私がだれかは跡で話そう。」男が答え、手を一振りする。すると驚いたことに、飛行機の落下が止まった。正しくは、飛行機が空中で不自然なまま、浮かんでいる。
「よし、説明しよう。諸君たちをこの絶望的な状況から助ける、一つの条件。その条件とは」男がそこまで言ったとき、誰かがよろけてきて、男の体にぶつかった。飛行機の床は、かなりの傾斜になっている。よろけるのも無理はない。
「その条件とは、あるゲームに参加してもらうことだ。」男はかまわずに続ける。
「ゲームだと?」またも誰かが言う。
「ああ、それも諸君等が想像するような、テレビゲームではない、これから諸君等に参加してもらおうと想っているゲームの名は、アペティートゲーム」男はまくしたてる。
「残念ながら教えられる情報はここまで。この墜落しそうな飛行機から、助かるチャンスに乗り換えるか、この飛行機に乗ったまま死ぬか。多数決をとろう。条件をのみ、ゲームに参加する者は?残念ながら、ゆっくり考えるような時間はないぞ。」男が聞くと、宗一から見える、全ての客が手を挙げていた。もちろん宗一も手を挙げた。みんな、男が飛行機を止めたのを見て、彼がただ者ではないことを察していた。
「決定だな」男が言い手を降る。次の瞬間、周りの景色は、薄暗い広い部屋に変わっていた。
「さあ、アペティートゲーム、スタートだ。」男が今度は、全く響かない声でそう言い、ほくそ笑んだのが、宗一には見えた。
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