ザーザーとノイズ交じりのジャズが鳴り響く。
愉快な音楽が、僕の憂鬱を持ち上げて楽にしてくれる。
僕は深夜のラジオが大好きだった。軽快なDJのトーク。斬新で面白くて、笑いを誘う投稿メール。
友達がいない僕にとって、ラジオだけが真の友達だった。
なので僕のラジオに名前を付けた。
ラジオ本体に、友達の名前が油性マジックで書いてある。
すなわち、ラジオ自身の名前である。
”ライオウ”。
変な名前である。特に意味はない。
ラジオの何よりいいところは、僕がしゃべらなくてもいいところや、なんならラジオに突っ込んだりして一人で会話の練習が出来るところだ。
僕は高校生で友達がいないながらも、皆勤賞を狙えるほどの勤労っぷりなので、夜の3時まで続く深夜ラジオを聴くのは少々体に堪える。
けれど好きな番組は一週間にたった2回しかないのでへっちゃらだ。
今日はそのうち、特に好きな方の番組だった。
いつも通りラジオ(すなわちライオウ)をチューニングし、机の上に置いて電源をオンにした。
しかし、ここでおかしなことが起こった。
なんと番組が入らないのである。
「どうしたんだよライオウ君!?」
僕はライオウに詰め寄り揺さぶった。今までこんなことは一度も起きたことがなかった。
チャンネルを確認しても、やはりあっている。
僕は動揺するあまり、立ち上がり、ライオウの前に立ち竦んだ。
ライオウからは、スーッと空気が抜けるような間の抜けた音しか発せられない。
「ふざけんなよライオウ君!」
僕は苛立ちのあまりライオウ君をグーでぶっ飛ばした。
ザーザーと音を立ててライオウが床に転がる。
もう番組開始時間から2分も立ってしまっていた。
そんな、大好きな番組が、唯一の楽しみが聞けないなんて・・・。
僕はどうしていいか分からずに、頭を抱えて椅子に崩れ落ちた。
その時だった。
『ザーッ・・・・・・ザーッ・・・・・・ゴホンッ、こんにちは。こんにちは』
パッと顔をあげると、ライオウが声を発していた。
やった、入った!と狂喜し、僕は急いでライオウを拾いあげ机の上に戻した。
『えぇ・・・えぇ。さぁ、始まりましたラジオの時間!私達はラジオの国からお送りしております』
何か違和感を感じた。
ふと冷静になって聴いてみると、それは僕の知る番組ではなかった。全然知らない男の声だ。
どういうことだろう。
先ほどぶっ飛ばした衝撃でチャンネルが狂ったかと思ったが、ちゃんと合っている。
「なんだよこれ!?」
僕のイライラは再沸騰し一気に頂点まで達した。
貧乏ゆすりが止まらない。
『今日は番組を急遽変更して、特別にアナタだけの番組をお送りしております』
番組変更?そんなの先週一言も言っていなかった。どうやら本当に急遽決まったらしい。
僕はがっくりして、ライオウの電源オフにした。
『ダメダメ切っちゃ。これはアナタの番組なんだから』
・・・え?
僕は呆然とライオウを見つめたまま固まった。
それが恐怖なのか何のか、自分ではよく分からない。ただ停止した。
いや、いやいや偶然だろうと思い電源を切り直すが、相変わらず切れない。
カチカチとオンオフを繰り返す。どうやら故障してしまったらしい。
『カチカチうるさいですよ。嫌がらせですか?』
今度こそ僕は背筋凍りつき、ラジオからわあっと飛びのいた。
ライオウが僕に向かって本当に喋っている。
「な、なにこれ。冗談?」
体に鳥肌が立ちながらも問うと、ライオウは無機質な声で返した。
『私達はアナタの”トモダチ”です』
「・・・は、はは。僕の頭も友達欲しさの妄想のあまりここまでイカレたか」
『そう。そのラジオをトモダチとしてみてくれるアナタの精神、素晴らしい!よってアナタを私達の国へご招待します』
「お、おい、聞けよ。人の話をっ」
『こちらに来て存分にお話しましょう。では、はじめましょうか。素晴らしい始まりの瞬間を。私達の国”ライオウ国”へご招待!』
まるで唄うように、軽快な声が響いた。
その瞬間、ライオウからザーザーと言う不快なノイズ音が大音響で部屋一杯に。いや、僕の頭中に広がった。
ぐるぐると視界が廻り、ノイズに支配されやがて聴覚以外の全ての感覚が消えた。
そしてノイズが響く中、僕は闇に包まれ意識を失った。
『・・・・・・・・ようこそ、私達のラジオの国へ』
―――――――Friends in Radioworld――――――.