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英雄、お出かけ

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さて、そんな俺だが、いつも引きこもっているわけではない。
たまには外の空気がすいたくなるときもあるのだ。
そんなときはまず母上にお伺いを立てる。

『title:今から出かけるけど
 main:何か買って来る物ある?』


すぐに返信が来た。
『メール:カーチャン』

『title:どちらさまですか
  main:電話帳に登録ないんですが』



俺は泣いた。


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とりあえず特に買うものは無いと判断する。

問題なさそうなのでゲームショップ、ゲーセン、本屋と回って帰ってこよう。

いつものルートだ。
今日はさっきのマフィアなモーニングコールがあったことだしもうアクシデントは起きないだろう。


さて、ここで重要になるのが家を出るときに使うルートだ。

我が家は元お嬢様な母親と現在絶賛サラリーマンの父親の二人により普通の一軒家よりやや広めにしてちょいお高めローンの家となっている。

無駄に大きく広い応接室、インスタントばかりなのにやたら機能的なキッチン、テレビ視聴用のミニシアターなど。
ちなみにカーチャンは専業なので父ちゃんが一人でお高めローンを払い続けている。
夫婦で金銭感覚の差があるってこわい。

ちなみに俺の部屋があるのは1階の奥、応接室の隣だ。トイレにも風呂にも近く、ドアはうち開きなので内側に箪笥でも噛ましてやれば即席シェルターの完成。
じつに立てこもりやすい。

ここから応接室の隣を通り玄関へ直行すれば話は早いのだが・・・今日は父方の親戚のおばさんが来るそうなのだ。

万が一鉢合わせでもしたら「英雄くん今は何をしているの」攻撃にさらされることは間違いないだろう。




いくら異世界で魔王とクラスの皆でパジャマパーティしたり国際機密保持組織のトップに落とした財布を拾って貰った事がある俺といえど親戚のおばちゃんを倒せるほどに強くは無い。
(ちなみに両親以外は俺のアクシデント体質を知らない。
クラスメイトも未だに「たまたま」自分たちのクラスが揉めやすかっただけだとおもっている・・・はずだ。)



・・・よし、ここはこっそり二階の非常階段から脱出するとしよう。

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階段を足音が立たないようそっと上る。手には履き古したサンダル、あとはもう3年ほど使っているジャンパーと財布。
まだ肌寒い季節なので上着は必須だ。財布の中には各種ゲームのメンバーカードが入っている。





そんなことを言っているうちに二階に無事に辿り着いたぞ。さあ、脱出だ。




「あらま!英雄くん久しぶり~!お母さんいる?あ、これお土産ね、ガ○ダム焼き」





おばちゃんが非常口で待機していた。
ビバ、アクシデント体質。



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俺は今、応接室で正座している。


おばちゃんの世間話とお母上から感じるプレッシャーの狭間で正座している。


「・・・そんでねぇ、そのときママチャリがばいーんてねぇ・・・」

「あ、あはははははは。大変でしたね」

「ほんとに!そんでそのとき秋刀魚がかごから落ちたんだけどそれがまたぽんぽんぽーんと・・・・」

終わりが見えない世間話。

早く脱出したい。しかしできない。


ちなみに俺は現在『某大学に進学したけど早めの春休みで帰ってきた』事になっているのだ。

余計なことを口走ろうものなら働かされてしまう。

一箇所で働けないなら派遣社員でもすればいいじゃない。とは去年の両親のお言葉だ。



それだけは嫌だ。働いて溜まるものか。俺は今の暮らしが気に入っているんだ。エロゲして、雑誌読んで、無駄飯食らいながらこのまま老衰まで生き延びてやるんだ。



とにかく話を学校の話にさえ持っていかなければ大丈夫なはず。


「そ、そういえばお土産のガ○ダム焼きいただいていいですか?ガ○ダム好きなんですよね!」



多少強引だが土産の話題に持っていこう。その後喉渇いたので飲むもの買ってきますとでもいってフェードすればいいんだ。


「あー。やっぱり英雄くんガ○ダム好きだったかぁ。いや、娘が東京の大学に行ってるんだけど、お台場で買ってきてくれてねぇ。おいしかったから来る途中によってきたんよ」
「そういえば英雄君も大学生だったっけ?」


俺の脇に手刀が刺さった。

結局開放されたのはアレから2時間後。5本目の手刀が刺さり掛けたときだった。
いまだひりひりと痛むわき腹をさすりさすり俺は自転車をこぐ。
ママチャリの籠をはずしてMTBぽくしようとした結果機能性最悪になったわが愛車だ。

ちなみに俺は自転車に乗るとき

1.スピードを出さない(踏み切りでタイムリープする可能性があるから)
2.曲がり角ではいったん停車のち、上空確認(女の子とぶつかる可能性があるから)
3.鍵はしっかりかける(盗まれる可能性があるから)

を厳守している。



案の定ゲームセンターまでの曲がり角5つのうち3つでパンを加えた美少女、2つで異世界人ふうの美少女が走ってきたり降ってきたりしたがこの三か条のおかげで絡まれることも無く無事ゲーセンに辿り着いた。

ゲームセンター内でもあからさまになんか秘密ありげな学生が揉めてたり、隅で乱闘が起きたりしていたが俺には関係ない。壁際で不気味な音を立てている見たこと無い筐体もスルーだ。


ほうっておけばそれなりに主人公っぽい奴が解決してくれるだろう。



さて、今日は何をしようかな・・・うん、音ゲーにしよう。



ドラムやギターや太鼓はなんだか照れくさいので9個のボタンを叩くアレにしようかな。



ゲームを開始すると妙なムービーの後画面に吸い込まれかけたが筐体をしっかり掴んで事なきを得る。

しゃべるはずの無いキャラクターからの問いかけはスキップだ。

さあ、ゲームスタート!

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「ほう?貴様なかなかやるな・・・」


しばらく遊んでいたのだが後からなんだかめんどくさそうな声がして振り向く。

するとそこにはいかにも「ぼく、ライバルです」と言いたげな男がかっこいいポーズで立っていた。



「面白い。この俺とどちらが上か勝負だ!」

一方的に喧嘩を売られたが無視。再びゲームに向かう。
こういう輩には関わらないのが一番のフラグ回避である。


「その勝負!ワシが見届けよう!」

妙な爺さんも寄ってきたが無視だ。

ポ○プ君を叩くことだけに集中する。


「無理よ!勝てっこないわ!」

さっきの男の知り合いだろうか?ヘンな女もやってきて男(以下ライバル)を宥めている。


「男にはやらなきゃならないときがあるのさ!いくぜ!」

やらなくていいです。

「よくぞ言った!それでこそ我が弟子!」

老人が増えた。



「やるのか!やらねぇのか!はっきりしやがれ!」

「静かにしてください店員呼びますよ」



やっと静かになってくれたところでちょうどゲームオーバーだ。ゲームショップにでも向かおう。


3, 2

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