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シフとアルベルト

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2月13日
午後8時28分。

「ねぇ、シフ……これから僕たちどうなっちゃうんだろう?」
アルベルトは何度も口にしたそのセリフをまた言った。
しかし、苛立つ様子もなく、いつもの優しげな笑顔を浮かべ、
隣にいた体躯のいい女は言った。
「大丈夫、私がついてるよ」

二人が高台の中腹に位置する洞窟の中に身を潜めて、早くも4時間が経とうとしていた。
逃げ場のない焚き火の煙に眼をしばしばさせていたアルベルトも、
寒さと心労からか、口数が減っていた。


アルベルトとシフ。
似ても似つかぬ二人だったが、アバロン帝国大学では有名なカップルだった。

アルベルトはアバロン西方に位置するイスマス国の王子である。
美貌と武勇、さらには賢さも持つ姉を持ち、
その反動からか、アルベルトは大人しく、内向的に育った。
姉が隣国の王子のもとに嫁ぎ、いよいよ表に出る機会が増えたころ、
アルベルトは父王の方針のもと、アバロン帝国大学で学ぶこととなった。
しかし、その性格から、お世辞にも目立った存在とはいえなかった。

かたやシフははるか南方、
一年を通して風雪に覆われた極寒の地の小さな村で生まれ育った。
狩猟民族の娘として、厳しい環境で生きる術を身に付けた。
戦士たちの中でもその身体能力は群を抜いており、
次期族長候補として、大学で学んでいた。
ぱち……ぱち……
足元の炎が燻り始めた。
「シフ!火が!」
「う~ん、どうしたもんかねぇ」
狼狽するアルベルトとは対照的にシフは至って冷静だった。
「薪を集めるには、なんともイヤな時間帯だね」
まるで「夕食が作れないじゃないか」と言うように、
日常茶飯事の厄介ごとを面倒くさがっているいつものシフだった。
その声音にアルベルトは癒されるのを感じた。

「どうしよう?僕が取ってこようか?」
「ん~……一人じゃ危ないだろ?」
「ぼ、僕だってそれくらいでき……!」
「わかってる、わかってるよ」
声を荒げるアルベルトのセリフをシフはさえぎった。
「だけどね、ここがどこかもわかんない。
どこで誰が何考えてるかもわかんない。
ましてやこんな時間さ。
夜行性の獣も動き出すころだろ?
ちょっと寒いかもしれないけど……ホラ」
シフは自分の毛皮のマントを広げると、アルベルトを包んでやった。
「シ、シフ!!」
あわあわと狼狽しはじめるアルベルトを見て、
シフは意地悪そうに耳元でささやいた。

「アンタのベッドほどふわふわしてないけどね」

アルベルトは耳まで赤く染め、口をぱくぱくさせている。
端整な顔立ちが台無しだったが、それはシフの好きな表情だった。
「さ、こうやってくっついてりゃ寒くないだろう?
明日から何があるかわかんない。早く寝ちゃおうよ。」
シフはアルベルトの額に口付けると静かに眼を閉じた。

堅い岩場、ごわごわの毛皮。
育ちのいいアルベルトには劣悪な睡眠環境だったが、
シフの香りと遠く寂しげに鳴くふくろうの声が
次第に彼を眠りに誘った。

その日、アルベルトは見知らぬシフの故郷の夢を見た。
6, 5

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