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:乖離

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「だーかーら、それをこの目で調べるのがあたし達の使命だと思わない? 調査報告書のこの記載が嘘なら嘘で別に誰も困らないし、本当なら本当で、新しい仲間を引き入れられるチャンスだよ?」
 使命もクソもない。仲間なんて増やしても絶対にろくなことにはならないし、そもそも、変な趣味性癖を持ってる奴らを集めたところで、ツバキが言うような何が得なことが起きるとはやはり思えない。
 逃げようと思えば逃げられるのだろう。でも、その行き先にあるのは、目の光を奪われるあの施設。逃げ場じゃなくて、あそこは本当の意味で牢獄以外のなにものでもない。
 自由のある束縛が自由を奪われる束縛か。そんなの選ぶとしたら一つしかない。
 

[:乖離]


 昼休み、俺はさり気ない顔をして教室を出た。もちろん、行き先はあの図書室だ。
 俺の高校には変わった風習がある。カップルはできるだけ図書室で昼食を食べるというものだ。噂によると彼氏彼女が居ない奴らが昼休みに教室でいちゃついているカップルへの妬みから、そういう流れができたらしいのだが、実際にその風習が出来上がった当時にそこに居たわけじゃないので、事実は不確かだ。
 東棟の一回奥にある図書室。そこに向かうためかカップルが手を繋ぎ俺の横を歩いて行く。俺には手を繋ぐ相手などは居ないが、待ち合わせている相手が図書室の前に居る。
 図書室の前にまで行くと、その待ち合わせ相手が待ちぼうけていたかのように俺の目の前にまで来て。「遅かったね……アキラ」と、顔を少し赤くしてツバキは言った。
「頼むから変な演技しないでくれよ……」
「でもやっぱりほら、雰囲気あったほうがいいでしょ? カップルなんだし」
 普通に見ればツバキは可愛い。と言うよりも美人だ。俺の横に居る事自体が不自然なほど美人だ。
「カップルってな……まあいい。入るか……」
「そうね」
 高校生活で最も関係のない場所だと思っていた昼休みの図書室。まさか、こんな形で入ることになるとは思っていなかった。そんなことをぼんやり考えながら、図書室の扉を開くと、そこはまるで桜色の空気が漂う、文字通りの春な空間が広がっていた。
 無言で俺とツバキは開いている席を見つけ、お互い隣同士になるように座った。対面で座ると声をそれなりに出して喋れないといけないので、周囲に話し声が聴こえてしまうから、カップル通しは対面ではなく横同士で座るのが、この昼休みの図書室の掟らしい。
 周りを見渡すとコソコソと話すカップル達。あーんをしあったりと、はっきり言って恋人の居ない俺としては、今ズグに後ろに並ぶ本棚を倒して叫び、暴れてやりたいところだが、そうもいかない。一応、俺にも相手は居る。
「なんか緊張するね……アキラくん……」
「そ、そうだな……」
 ラブホのフロントに居る時ってこんな感じなんだろうか。そんなことをぼんやりと考えてしまった自分が情けない。
「まあ、食べようか。アキラくんはお弁当? それともコンビニで買ってきた感じ?」
「いつも母さんが弁当を作ってくれるからな。それを持ってきたんだが、何かマズかったか?」
「うん。ちょっとまずかったかも」
「え、なに、なんで?」
「なんかね、掟的には女の子がお弁当を作ってきて、それを彼氏に上げるっていうのがここの常識らしくてね。それで一応あたしも作ってきたんだけど……」と横からお弁当を二つ取り出すツバキ。
 郷に入っては郷に従えってことか……俺は持ってきた弁当を椅子の下に置いて、ツバキの持ってきた弁当を受け取った。
 カップルではなく、ある意味で一方的に脅されている関係と言っても、女子に弁当をもらうのは正直嫌な気分ではない。
 包を取り、弁当を取り出し、蓋を開ける。包からわかっていたことだが、これぞ女子! と言った感じの小さいお弁当で、中身も男の俺からしたら雀の涙ほどの量しか入っていなかった。
「少ないでしょ? お弁当箱それしかなくて。ごめんね?」
「いや……大丈夫だ」
 母さんの弁当を捨てること無く、食べれることができそうなことに、どこかで安堵してしまっている俺。
「それじゃ食べようか?」
「そうだな……頂きます」
 端を取り出し、お弁当のオカズを摘み、口に運ぶ。
「あ、うまい」
「どうも」と少し照れるツバキ。
 このまま、このまま偽装カップルではなく、本当の彼氏彼女になれたら、どれだけ嬉しいことか。その代わりに、盗撮の一件とそのたもろもろは記録から無かったことになってもらわないと行けないが、そんなことはないわけで。
 得に喋ることもなく、モクモクと弁当を食べ合う、俺とツバキ。周りとは少し違う温度差を感じながらも、周りからの視線を感じることもなく、なんとなく気まずいだけの空気が流れてた。
「――ごちそうさまでした」
 物足りない。やっぱり物足りないが、何故かとてつもない眠気が俺のことを襲っていた。意識が朦朧とし、頭の回転もうまくいなかい。なんだ。これは?
「ねえ、アキラくん」
「……んー?」
「ちょっと奥に来て欲しいんだけどいいかな?」
「あ。あぁ」
 ツバキに手を引かれ図書室の奥に行く。が、何をするにも頭がふらふらする。目の前でツバキが何かを言っている。何故か笑っている。なにか、何か目標が達成したかのような笑顔を見た瞬間、俺はツバキに寄りかかるように眠りについた。

 目の覚ますと、先程まで図書室を照らしていた太陽の姿はもうなく、空は茜色に染まっていた。
 そうか、あのまま眠ってしまっていたのか……と言うか、誰も俺のことに気づいてなかったということなのか……なんかやるせない気持ちだ。そんなことを考えながら、背伸びをするとポケットから一枚の手紙が出てきたので、拾い上げ、手紙を読むと。
[アキラくんへ。おはようございます。と言っても多分、遅ようございますだけど。そんなことはどうでもいいので、例の図書室のパソコンを調べてください。それで何か証拠になるファイルがあったら、ポケットに入れておいた記憶媒体にコピーしておいてくださいね。ツバキより]
 あの女……もしかしてあの弁当に催眠薬でも盛ってたのか……それであの笑顔だったわけか……クソッ。
 しかしこうなってしまった異常、やることは一つだ。図書室の管理パソコンを開いて、例の三年生女子が図書室のその管理用パソコンを使って、自分で書いた十八歳以上向けの同人誌を海外サーバーを経由してアップロードしてるっていう証拠を見つければいいということなんだろうが、俺は機械音痴だ。
 はて困った。と思いながら、パソコンの前まで行くと電源がつきっぱなしで、画面には何か英語で沢山いろいろ書かれた下に、如何わしい、姿の男と男が如何わしいことをしている画像が映っていた。
「なんだこれ……なんだこりゃ……」
 素直に気持ち悪かった。男のペニスが男の肛門に突き刺さっている画像。しかも美化されにされ尽くした男性の絵と言うか、漫画かこれは……気持ち悪いな……んだこれ……と、視線を目の前に移すと、メガネを掛けた髪の毛がボサボサな女子が涙を流しながらそこに立ち尽くしていた。
 この人、あの報告書に書いてあった三年の先輩だよな……ってことはこの画像は……。
「あぁああ……見つかった……見つかっちゃった……どうしよ、どうしよう、どうしよう。施設送りはやだよ……やだ……やだおぉお」
 おいおい、この状況、どうすればいいんだよ……と思った瞬間のことだった。不意に図書室の扉が開き、ツバキが顔をだして。
「先輩、泣かないでください」
「ええ……誰……あなた……」
「あたしは二年のツバキっていいます」
「……ツバキさん?」
「はい。というかまさか、優等生の先輩がこんなことをやってるなんて、まさか夢にも思っていませんでしたよ」
「……なんのこと」
 この状況で白々しい態度を取るとは……と言っても物理的証拠はまだないわけだし、と言うか、知らない人から見れば俺が、海外のサイトにある男同士でSEXしてる漫画を見てるところを、この先輩が見つけて、あまりのイレギュラー状態に泣いていると思われても不思議な状況じゃないわけで。
「先輩。今頃そんなこと言っても遅いですよ。アキラくん。そのパソコン、なんて名前のユーザー名でログインされてる?」
「ええっと……ガガミかな?」
「それガガミ先輩のユーザー名ですよね? ね? ね? 言い逃れできる状況だと思ってます? 先輩」
 瞬間のことだった。全ての力が抜け落ちたのか、お漏らしをしながら、ガガミ先輩はその場に倒れこんだ。
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G.E. 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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