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:集会

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「やめ! ろ! 昔は、こんくらいの本! みんな、持ってた! だろ! ふざけるな、よ! ああ!」
 混乱しているのか、男はツバキを押し倒し、なおもツバキを傷つけようとしてが、当のツバキは気にすること無く、男の目見つめ、男の汗に濡れた頬を触りながら。
「そうだね。昔はそうだったかもしれない。でも時代は変わった。こんな息苦しい時代に。だから――」

[:集会]

 全てはツバキの思惑通りに計画は進んだんだと思う。
 どこから仕入れたのか、俺、カガミ先輩、そして、タテイシの三人の周りには誰にも言えない秘密を握りしめ、そして何を考えているのか、その秘密を共有し合う同好会を作り上げた。
 ツバキの思い描くメンバーが集まった今、ツバキはその同好会の顔合わせをしようと、同好会メンバー全員にあたし――ツバキの自宅に来るようにと、メールに地図情報を添付してきたので、断る理由もなかった俺は、そのメールに添付されている目的地の前まで来たのだが……なんだこれは?
「あ、いらっしゃい。待ってたよ」と玄関フロアのインターホン越しに俺を出迎えたツバキ。
「お、おう……で、2001号室って何階なんだ?」
「ん? 一番上だよ。二十階。ちなみに一番日当たりいい部屋なんだー。ささ、ドア開けたから早く! みんな待ってるよ!」
 市内でも、一番高いと言われている高層マンションの、しかも一番上の一番日当たりのいい部屋だなんて聞いてねえよ……。
 エレベーターを降りて、ツバキの部屋の番号が書かれた部屋のインターホンを押す。これで別の人が出できたらとんでもないことになるぞ……部屋間違えてないよな……といらぬ不安をしていると、ドアが開き、見慣れた顔のツバキがちょこんと顔をだした。
「いらっしゃーい。エレベーター早いでしょ?」
「お、おう。な、一つ訊きたいんだがいいか?」
「ん? なに?」
「お前ってもしかしてここで一人暮らしとかしちゃってて、実は実家がお金持ちで両親は海外住まいとか、そういうびっくりするような展開は無いよな?」
 あまりにも真面目な俺の顔を見て吹き出してしまったのか、ツバキが笑いながら。
「ないない! 親とちゃんと住んでるし、この部屋だって、このマンション買う時にあたしが抽選会でたまたまこの部屋当てただけで、別にそんなお金持ちってわけでもないよ」
「そうか。それならいいんだけど……さ……」
「んまーほら、みんな待ってるから早く入って! なんせ今日は同好会の初集会なんだから!」
「おじゃまします……」
 一般的な家に住んでいる俺のほうが、土地代、家代含めて、いいところに住んでいるのは分かる。けど、こっちの立地が余りにも良すぎて、負けているのが目に見えているのがクヤシイ。
 少し長い廊下を歩き、真正面にあるドアを開け、その先のリビングに行くと、居心地悪そうに、タテイシとカガミ先輩が高そうな真っ赤なソファーに座っていた。
「こんちゃす……。お二人ともその件ではいろいろどうも……」と俺が頭を軽く下げると、それに相槌するように、同時に頭を下げる二人。
「まぁまぁ、そんな固くならないで! 今日はとりあえず自分の性癖を晒す前に、ちゃんとした自己紹介をしようと思います! 性癖を晒すのは次回ということで」
 次回ってなんだ? この集会、もしかして定期的にやるの? そんな報告するようなこと無いと思うけど? そもそも、俺もそうだけど、ツバキにバレてしまっている時点で、盗撮とかもうできないし……。進展なんてなにもないわけで……。
「とりあえずあたしから!」ソファーから立ち上がり、小さく深呼吸をして。ツバキは続けた。「この同好会の設立者であり、責任者でもあるツバキです。みなさんと同じ学校の二年生をやっています。皆さん勘違いしてると思いますが、家はそこまでお金持ちではありません! まあ、気楽によろしくお願いします!」
 普通の自己紹介なら、ここで拍手の一つや二つ起きるのだろうが、そんなことが起きる雰囲気ではなく。
 小さくため息をついてツバキが。
「んもー、みんな暗いなぁ。もっとこう元気だそうよ! これからは自分の中に溜め込んでいた有象無象を、こうやって吐き出すことができるんだよ? ね?」
 ね? と言われても、実感もクソもないわけで。そもそも、吐き出せたところで、その先に何があるというんだ? 俺はツバキにうまくこの同好会が機能すれば、ツバキの太ももを見せてもらえるかもしれない。たが、そんなのは希望的観測だ。分かってる。真の目的は施設に通報されたくないからだ。決定的な証拠を握られているくせに、ツバキはこれひとつ尾っぽを出していないのだから。
「んじゃ次。アキラくん! と言いたいところだけど、アキラくんはトリね。次はカガミ先輩お願いします!」
 突然指名されたカガミ先輩。動揺しながら、周りを見渡しながら、突き刺さる俺たちの視線を何とか回避しながら立ち上がり。
「……えっと……カガミ……っていいます。高校三年生です。よ、よろしくお願いします」
 一人で騒ぎ、場を無理矢理盛り上げよう大喝采のツバキ。それにどう反応していいのか分からない、俺とタテイシ、そしてカガミ先輩。
「ちなみにカガミ先輩は図書委員会をしてます! タテイシくん! なんか読みたい本でもあったら、カガミ先輩に相談するといいよ?」
 ツバキよ、何食わぬ顔で二人の弱点を当回しに晒すのは辞めろ。ふたりとも冷や汗かいてるじゃねえか。
「んじゃ次、タテイシくんね! ほらほら、立って!」
 緊張のせいか、この間と同じく鼻息を荒くするタテイシ。重い腰をソファーから上げ、大きく深呼吸をして。
「タテイシ……です。二年生です……。趣味は……その……はい……ありがとうごました……」
 立つ時とは逆に、ソファーに吸い寄されるかのように、あっという間にソファーに腰を戻したタテイシ。
「タテイシくんは、テンションあがると相当元気になるけど、通常だとこんな感じなんだね。ふーん」と関心するツバキ。
 それもそうだろう。襲われた時の印象しかなければ、こうなるが、俺はあの片鱗を全て見ているだけあって、何もコメントできなかった。
「じゃ、最後にアキラくんお願いね!」



 俺のつまらぬ自己紹介のせいで場の空気が一変してしまい、何故かあのあと、ツバキ、タテイシ、カガミ先輩は謎に打ち解け、俺だけが除け者にされてしまったかのような、あの孤独間を再び味わなければいけないのか――そんなことを考えながら、二回目の集会が行われる、理科室へと向かう。
 どこでくすねたのか、ツバキ曰く、理解室の鍵はあるから大丈夫。予備鍵はこれだけだし、中から鍵かければ問題ないし。同好会ってやっぱり学校でやらないとダメじゃん? しかも今回は自分の性癖を晒す特別な、本当に特別な集会なんだから。とのことだったが……本当に大丈夫なのだろうか?
 この間みたいに最後になるのはイヤだったので、帰りのホームルームが終わると同時に、マツヤマとも顔を合わせずに、そそくさと早足で理科室に向かったのが功を奏したのか、理科室にはまだ誰も来ていなかった。
 鍵も開いていないし、ツバキが来るまでその場に座って待っていようかとも思ったが、思ったよりも廊下が汚れていたので、廊下の壁に背中を預け、待つことにした。
 少し慌ててきてしまったせいか、いっこうに誰も来る気配がない。体感的には十分くらい過ぎているのだが、実際に時計を見るとまだ三分も過ぎていない。
 なんだかやるせない間が漂う中、誰かの足音が聞こえてきた。ツバキだろうか? 音の先に視線を移すと、そこには一年生の上履きを履いた一人の男子がこっちに向かって歩いて来ていた。
 誰だろう? 一年生? ツバキが新しいメンバーでも誘ったのだろうか?
 一年生は俺の目の前で歩みを止め、優しい笑みを浮かべながら俺の顔を見つめていたので。
「もしかして、新しい同好会のメンバー?」
「同好会。そうですか、あなたが……」
 何を言っているんだこいつは?
「アキラ先輩ですよね?」
 何故、この一年は俺の名前を知っているのだ?
「話があります。上の音楽室に行きませんか? ここじゃまずいので……」
9

G.E. 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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