「シルクハットと四角い彼」
バラセート×クモノイ
でもバラセートは出てこない
一部適当な捏造設定がある
限定羊羹五本で護衛を引き受けたクモノイとオカ研部員たちは廃洋館への道を歩いていた。
道すがら、話す内容は昨日の世渡り社での出来事となる。
オカ研とクモノイの共通の話題が昨日の事とカジノでの一件しかないことと、カジノでの話になるとエニシが不機嫌になるので自然そうなった。
「バラセートさんとは仲悪いんですか?」
無邪気なオカ研の問いにクモノイはほんの一瞬、眉毛をピクリと上げてから、笑顔で答えた。
「ああ、僕は別に相手にしてないんだけどね。あの男が一方的に喧嘩を売ってくるんだよね。僕は全然相手にしてないんだけど」
「どこがだよ」
ボソッとツッコんだエニシを軽くスルーして、クモノイは張り付いたような笑顔をオカ研メンバーに向けた。
「バラセートさんのこと嫌いなんですか?」
「そうだね、本当に勘弁してほしいよ。一々突っかかってくるしさ。いつもスーツに白手袋だけどあんな乱暴な奴にちっとも似合わないよね。先に礼儀作法でも覚えたら? って感じだよ。ああ、あのスーツはオーダーメイドらしいよ。わざわざテーラーで作ってもらうんだってさ。破れたりしたら高い金を出してカケハギまで頼むんだよ。そこらの安いスーツでも着てりゃいいのにね。ネクタイなんて曜日ごとに変えてるんだよ。誰も見てないっての」
「よく見てますね、クモノイさん」
思わずポロッと零れたオカ研部員の本音にクモノイの足がピタリと止まった。
「は? 君、人の話聞いてるの? 僕は誰も見てないって言ったんだけど」
「え……いや、その……」
「何? 僕があいつを見てるとでも言いたいの? そんな訳ないよね?」
笑顔のまま、眼だけが笑っていなかった。
「そ、そうですね。もちろんそんなことがあるはずないです」
引きつった顔のオカ研を後に、「そうだよねー」と満足げに言いながら再び足を進めるクモノイに、流石のエニシも(いや見てるだろ……)というツッコミを口に出すことは出来なかった。
おわる