-僕はこんな研究をするためにここに来た訳じゃない-
山田は机を叩く真似をしながら、つぶやくように話し始めた。
「何がエコだ、そんなにエコロジーが大切なら、その口と鼻を5分ほど塞いでシーオーツーの排出を少しでも抑えておけばいい」
「僕らは、いや、我々人類は一人でより多くのエネルギーを使うために発展してきた、木を燃やし、石を燃やして油を燃やす、そして質量を燃やしてきた
そしてこれからもそうだろう?そりゃ効率化は大事だ目的の力を得るために、無駄なエントロピーを増大させるのは好ましくない。けれど、それとこれとは別の問題だ、根本が違う。」
「今日はよく喋るな山田君」と酒田が皮肉交じりの笑みを浮かべながら反応した。
「君みたいなやつをなんていうか知ってるよ、そうエコノミストだ。」
「エコノミスト!違うね僕はお金のことなんてこれっぽっちも考えていない、僕はサイエンティストだ」
「なってもいないのに科学者気取りか、おめでたい」
「うるさい、今はまだそうかもしれないがいずれなる」
「とにかく、そこで原発反対をヒステリックに叫んでいる奴らにはこう言いたいね。
原子力発電を廃止したければ原発より強大で効率的なエネルギー源を持ってきてくれよ、それが筋ってもんだろう?」
…
「決めた、僕は本を書こうと思う。」
「何の本だ?学術本か?今の研究の?」
「違う、小説だ、小説を書きたくなったんだ。」
「なかなか面白いことを言うね、山田君にそういった趣味があるとは知らなかったよ。他にも芸術の素養があるのかい?絵を描いたりとか?」
「絵はかけない、音楽もきかない、楽器も学校の授業でならったリコーダーぐらいしか知らない、もちろん踊らない、けれど文章なら書けそうな気がする。文字なら誰でも書けるし。」
「誰でも出来るっていうのは裏を返せば誰にも出来ないってことなんだぞ、君が書いた小説なんて数学の証明を読むように味気ないものになりそうだ」
「そうかもしれないが、出来たら読んでくれよ」
「わかった」