トップに戻る

まとめて読む

単ページ   最大化   




第一本「 seven starと不審者シガレッター 」



起床し、俺はいつも通りセブンスターに火を付けた。
咥えた紙煙草からは副流煙が流れ、部屋をヤニ臭く変える。
いつも通り、何も変わらない朝を迎えた俺は朝食食べ2本目の
煙草に火を付ける。飯を食った後の煙草ほど美味い物は無い。


出社し、仕事を片している合間に俺は喫煙所に向かった。
俺の勤めている新都社の9割の人間、つまり俺以外は誰も
タバコを吸っていない。俺はいつも一人きりで喫煙所へ向かう。

「こら火島 幸介(ひじま こうすけ)、また喫煙所か?煙草の吸いすぎやぞ」


軽く呟いた彼女は"矢弐 祥子(やに しょうこ)"
彼女は元ヘビースモーカーで値上がりと共に禁煙に成功したらしい。

「耳タコだな。煙草吸わないとやってけねーよ、あほ」

俺はそう受け流すと、タバコに火を付けた。
彼女は不思議だ、俺が喫煙所に向かうと必ずと言っていいほど
俺についてくる。煙草を吸うわけでもない、毎日のように
煙草の吸いすぎだと忠告してくるのだ。

「煙草吸いすぎると、その内えらい目に合うで?」

「癌でもなんでも構うもんか。俺は好きで吸ってんだ。」

と返事をする。だらだらと話をしている内に煙草の火は
根元まで来ており、しぶしぶと俺は火種を落とした。
喫煙所の扉を開け職場へ戻ろうと思った、その瞬間だった。


『煙草吸いてェェエェ!!!ヤニの臭いがするぜェエエェ!!!!』


と大きな叫び声を聞いた。否、断末魔と言ったほうがいいだろうか。
人間の声とは思えないような、耳を掻き回すほどの大きな声。
そして、声と共に見慣れぬスーツ姿の若者が姿を現す。
怪物は喫煙所を出た俺と矢弐を見るとニタァと笑みを浮かべ
大きな奇声を発した。

『テメェらァアアアア!!! シガレッターかァァア????』

『違うなァアアァ!!! かなり驚いてるもんなァアアァァ!!』

何を言ってるんだこいつは…シガレッター?煙草を吸う奴は
スモーカーだろ?若者なりの造語なのだろうか…
それよりも、危なそうな奴だ。警察に通報してしまおう。

『おっとォォオ!!! そうはさせないぜェエエェ???』

そう叫んだ不審者は指から何かを取り出し指で弾き飛ばした。
その瞬間取り出した携帯電話は、その何かで粉砕された。
ふと壊れた携帯に付いた見慣れた異物に目をやる。


シケモク……?こんな物で俺の携帯を破壊しただと……??

「ヤニ厨……シケモクの凶器……そしてシガレッター……」

矢弐がそうボソッっと呟く

「おい、矢弐! 何か知ってるのか?」

矢弐は暗い顔をしてこう言った。

「変なおっちゃんが今朝、こんなベルトを渡してきて……」

『今日、何か不吉な事が起きたらこのベルトを知り合いのスモーカーに
使わせなさい。そうすれば君もその人物も助かるだろう』

「とかなんとか言うてきたんや! ウチ貧乏性やから
無料でもらえるならええかなって……火島、これ使えへん?
おっちゃんの言う通りなら助かるかもしれへんよ!」

何言ってんだこのエセ関西弁女、何処からこんな物出したんだよ。
つーか、これで本当にシケモク不審者が撃退できるのか…?
そう考えている間に不審者は黙り込んで、微動だとしなくなった。
まあいい、物は試しだ。このままベルトを使用させてもらおう。

「ベルトだよな…?巻きつけて使うのか?」


不思議な形状をしている。バックルに細い穴……
まさに煙草一本分の大きさだ。試してみようか……?


俺はセブンスターに火を付け、一口吸う。
そして咥えた煙草をバックルの穴に挿入した。


『cigaret insert...PPP...OK Seven star』


機械音が発声する。こんなシーン、どっかで見た事あるな……。
声と同時にベルトから大量の副流煙が流れ出た。
身体が頭から熱くなる、なんだこの感覚は。
そんな事を考えていると俺の身体は見知らぬ姿に変わっていた。

「か、仮面ライダー? これ仮面ライダーやんな??」

矢弐が驚いている。なんだ、俺仮面ライダーになったのか?
純白のボディ。所々に刻まれる七つ星。
驚いた、本当に仮面ライダーになれるとは。
ガキの頃からの夢だったが、今叶ったんだな。

変身と同時に、動かなかった不審者が細かく震えだした。
身体の後ろに亀裂が走る。そしてその身体の中から
大きな化け物が現れた。まるで羽化のように……。

『なんだァ、お前シガレだったのかよォォオ!』

『まァいいやァア!! 気分いいからさァアアァア!』

『ぶっ殺してやるよォ! 仮面ライダーシガレェ!』

そうか、この姿はシガレと言うのか。
なんだよ、本当にあいつただの不審者じゃなかったのかよ。
いいや、俺だって念願の仮面ライダーになれたんだからな。
矢弐を怖がらせた罰だ、ぶっ倒して色々吐かせてやらぁ。

「矢弐、隠れてろ。すぐ終わらせてやるよ」


「お前の火種。いますぐ潰してやるぜ」

『いいねェ、やっぱシガレッターのままで戦うのはぞくぞくするぜェ!!」


俺の仮面ライダーシガレとしての人生が
今ここで、開幕したのだ。


1

ぱちぽち 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

トップに戻る