神の創造
【神の創造】
時は20XX年。
遥か古代から進化を続けてきた人類は、長い時間をかけて次の代へと受け継がれてきた洗練された知性と技術を駆使し、今まさにこの地球上の頂点に君臨する存在。そう、"神"の創造を計画していた。
人類は高度な医療技術の進歩によって、地球上のありとあらゆる生き物や植物たちの創造を可能にした。
初めは異なる種の交配による創造を試みた。
しかし、異種交配によって生み出された動物や植物は、短命さ、生殖確立の低さ、食用に至ってはその味の悪さと何もかもが劣化した生物しか創る事が出来なかった。
そこで全世界の学者の知恵を結集させ、この異種交配に勝る生物の創造を行うにはどうすればよいのかと模索し始めた。
そしてその血の滲むような努力の末、動物や植物における容姿、運動能力、知性、生殖能力とありとあらゆるものを意のままに創造することのできる機械を発明することに成功した。
これにより、長年にわたって人類はさらなる繁栄を可能とした。地球上の生物の頂点に君臨することが可能となったのはこの時からである。
しかし、人間とは実に強欲な生き物である。地球上の生物の頂点に君臨したのにも関わらず、誰もがその上を目指そうと考え始めたのだ。
その目的のため全世界の学者は再び一丸となり、開発した機械にさらなる改良を施し始めた。
そしてついに、動物や植物だけでなく自分たちそのもの、意のままに"人間"を創りだす事のできる機械を開発した。
学者たちは歓喜の雄たけびを上げた。
そして試験体として今まで人類が長きにわたり得てきた知性と、多くの人類の夢である不死の体を兼ね備えた人間の開発を開始した。
実験はなんの失敗もなく成功し、完全なる人間が誕生した。学者たちはその生命体を人類創造の唯一神から名を借りて『ヤハウェ』と名付けた。
ヤハウェは組み込まれた高度な知性により、青年の頃にはすでに学者たちの遥か上をいく知性の成長を遂げ、次第に人間の上をいく存在になりつつあった。
学者たちはそんなヤハウェをいつからか妬ましく思い始めた。
ある日、ヤハウェは自分を誕生させたこの機械を改良することで、今生きている人間全てを意のままに生まれ変えさせることが可能だと言い始めた。
学者たちはヤハウェのその発言に大喜びするとともに、それを使って今のヤハウェより遥か上の存在を目指す計画を密かに企て始めた。
そう、"神"そのものに成ろうと考えたのである。
ヤハウェと機械の改良を繰り返し、ついに今生きる人類全てを意のままに生まれ変えさせる機械の開発に成功した。
しかしその瞬間、学者たちは邪魔者であるヤハウェを縄で縛り上げ、地下の牢獄に閉じ込めてしまった。
学者たちはヤハウェと同じく人類が長きにわたり得てきた知性と、多くの人類の夢である不死の体に加え、永遠に若くいるために不老の体になるよう組み込んだ。
そして学者たちはずば抜けて上をいくものが出ない為にも、この機械を大量生産し、全世界の人間に使用するよう命令を下した。
そして全世界の人間たちが一斉に機械の中へ入り、"神"への生まれ変わりを開始した。
長い暗闇の中、赤ん坊の一人が液体の充満している容器の中で目を覚ました。恐らくあの学者たちの一人だ。生まれ変わりの実験は成功した、これで私は"神"となった。そう思っているのだろう。
まったく、人間とはつくづく馬鹿な連中だ。赤ん坊の体のまま不老を得て何ができよう。人を利用し、その上をいこうとするから痛い目をみるのだ。
さて、この赤ん坊たちは...そうだな。どこかの海底火山にでも放り込み、死ぬことのできない永遠の苦しみを味わってもらうとしよう。
なに、私のこの知性があるならそんなことなど造作もない。
しかしこの地球に人間が私一人というのは聊か悲しいものだな。
そうだ。手始めに人間の一人や二人でも作るとするか。
私は予め隠し持っていたナイフと切れた縄を手に、研究室へ向かった。
END