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野放図

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   11 野放図

 珍しくテレビでどこかの国のニュースをやっていた。この国の人間は大体外国のことは気にしないし、海外の人間もここの人間を気にしない。海を隔てると、そこはほとんど別の世界だからだ。音の伝わり方も違えば時間の過ぎる速度も違う。ニュースの内容は覚えていない。
 我々がいるのは楕円形の巨大な板の上で、その上に皇国と騎士団領が同居している。騎士団たちのなかにはものすごく広い領地を持った■■■■■・■■公爵のような人もいれば、タイル一枚の領土しか持っていない地方領主さえもいる。彼らは革命のときも、事変のときもほとんどなにも考えていない人形のように野放図に行動し、触覚のある無数の蟻のような黒尽くめの兵士たちが剣や槍やピストルで不毛な戦闘を繰り広げた。■■大空白海に怪魚が現れたのもそのころだった。
 そして、私が革命のアイデアを思いついたのもそのころだった。何世紀も前に兵士たちの脳を奪った大君がいたのを思い出したのだ。だから私は市民の頭もからっぽにして煽動し、混乱を起こして無政府状態を作り出そうと考えた。先延ばしにしてばかりだがいつかやらなくてはならないことだ。一晩のうちに首都と、この城郭都市■■■■、さらには革命党の本拠地の■■・■■砦、砂漠の交易都市■■■を陥落させなくてはならない。私一人でだ。彼らの頭に機械を埋め込んでしまえばあとは火をつけるだけである。首都の放送局にある衛星アンテナと、第二衛星■■・■■■の力を使えば可能だろう。日没と同時に開始し日の出には完了しているプランだ。私は計画書を書く主義ではなかったが、先日の査察のときに憲兵が、できるだけ書いたほうが補助金が下り易くなるので書くことをお薦めすると言っていた。ごくかんたんな記録機械を買えば、ここ最近のものにはちゃんと作成ソフトウェアが組み込まれているのだそうだ。確かに、革命税もそれほど安くない。踏み倒すことも考えたが、補助金でほぼ相殺できると聞いて、そうすることにした。

 放送の調子がおかしかった。街中を歩く黒い影たちは電波障害かなにかで、日没時みたいに巨大になったり、ぐにゃぐにゃにゆがみながら左右に揺れたりしていた。それを見ていてとつぜん嘔吐しその場に倒れた人がいた。周囲の野次馬は彼の頭を石で殴打する。するとそこから川が流れ始めた。彼の頭が水源になったのである。コマーシャルがうるさい区域に水音、心が安らぐ話だ。少年たちは夏休みになったので太陽をひたすら見つめ続けてそのうち全員の眼球が溶解しそこには黒い穴が開くだけになった。私はそこから一斉に青い蝶が飛ぶさまを想像したのだけれどそうはならずに煙が上がり、彼らは頭を発火させて死んだ。
 首都から来た貴族は護衛に竜を連れていた。そこらの家屋くらいの大きさがあって、気まぐれに人を齧るのでとても不評だった。ある子供が竜のしっぽを踏んだとき、竜が火をふいて時計台がドロドロに溶けた。誰も時間が分からなくなりパニックにおちいった。人々は貴族を殺した。竜が暴れだしてその区画は大騒ぎになった。管理局はそこをまるごと消失させることで解決を図った。このごろいつもそうだ。そこはラベンダー畑になった。

 火にかかわる話がもう一つある。海から帰って来たという先輩がある日やって来て、火蜥蜴がぎっしり入った瓶を見せてくれた。偶然鉱脈を発見したという。先輩はとても嬉しそうにそれを一つ一つ摘み上げて、落花生でも食べるように口に入れて飲み込む。そのたびに数えながら。
「火蜥蜴が七匹、火蜥蜴が八匹……火蜥蜴が二十五匹……」
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