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拡散王

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   13 拡散王

 私はある日、してもいないことの責任をとる方法を考えていると、急激に白昼夢が訪れ、交差点の雑踏の中に立っているような錯覚を抱いた。大きな、この前見た竜とおなじくらい大きなぶち猫や、黒い影が何十体も手を繋いで揺れているのを見たり、太陽が輝きを失ってただのビー玉になり私の足元に落下してくるのも見た。
 私は自分に弟がいたのではないかという考えに取り付かれた。もしくは妹。私は自分の両親のことを思い出そうとするができなかった。我が家のテレビと同じように砂嵐の向こう側だ。しかしそれはどうでもいいことだ……。蝿が黒い霧みたいに人々を包んでいる。私は突然、これが白昼夢ではなく現実であることを認識した。
 どこかで見たことがある人が現れて私の名を呼んだ。
「■■■・■■■■・■■、そろそろなんじゃないかと思うよ私は」その名前は今まで聞いた中で一番明瞭だったが一番いいというわけではなかった。その人はどうやら私に似ているらしかった。
「あなたは誰です」
「私は最初にこの世界に飛来して予期せぬ生を送らなくてはならなくなった最初の不幸な一人です。私がここに来たのは母親に出産されるまさにそのときでした。私がこの世界の収束点となったのです。そうでなければ拡散し続ける世界に誰も足を踏み入れることなどなかったでしょう。私こそ功労者であります。私は中心の王、世界の核です。まあでも今はそうじゃない。今からこの世界を拡散させるっていうわけです。私は拡散王です」
「へえ」
「怪訝なんですか?」
「ああまあ」
「見てくださいオーディエンスがたくさんいますよ。彼らは虹を見ていますね。虹は十七色なのに彼らはそのすべてを見ることが出来ない、もしくはそれよりも多くの色を見てしまうのです。■■■・■■■■・■■よ仕事は見つかりましたか」
「見つかっていないですね」
「革命を起こすことは諦めたのですか? その意志は、拡散したのだろうか」
「あるいは」
「この世界で私が見出したのは暗号化された希望と暴力です。錯乱が主役の世界ではないですか」
「いやあ、そう言われても」
「私は永劫です」
「なぜですか」
「美しい日になるでしょう。これを見てください」
 目の前には緑の海があった。下水の色に似ていた。
「これは汚い海だ」
「そうです。これを泳いで渡るのと馬の骨を拾い続けて砂漠を横断するのどちらがいいですか。馬の骨は百メートル間隔で三千本落ちています」
「馬の骨」
「なるほど、では次に視力を計ります」
 私はまずいと思った。視力の低下はさらに進んでいるのだ。このままでは新しい眼鏡を買わなくてはならなくなる。
 しかし相手の人はべつにそうしなくてもいいと言ったので私は安堵した。
 そうして私は馬の骨を拾いながら砂漠を横断したのだった。
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