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三重奏

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   15 三重奏

 我々が一年がかりで帰ると家に例の私に似た人がいた。■■■はそれを見ると聞き取れないほど破綻したノイズで呼んだ。
「これは一番酷い症状だよ。きみの」
「私は病気だということ?」
「たぶん、キャリアにどこかで接触したんだろう。もしかするとあの浜辺にいたやつかもしれない」
「これは一番最初にこの世界を訪れた人だと言っていた」
「先駆体のオリジナルが存在してるわけないと思うけどね。あまりに時間が経ちすぎてるからもうレコードみたく擦り切れてるし。だけど実際どうかは分からない。ああ、オレは掃除の途中だったな。塵が部屋の中に山を作ってなきゃいいけど」
「そういえば■■■はどこに住んでいるの?」
「ないよ」
「え?」
「住んでたりしない、オレはきみと会ってるとき以外は拡散してるから」
「なんで?」
「そういう契約をしてるからだよ■■軍閥と。便利と言えなくもないかな? 幽霊じみているとも言える。 しかしまあ、どちらでもいい話じゃない」
 私に似た人は私に似ていないよと言うように空中の塵みたいに揺れて消えたり現れたりした。壊れたテレビに映る人にも似ている。
「私は、拡散王です。主軸です」
「財産は?」
「財産だけしかない」
「イッカクは原初の海においてどういう役割を担う?」
「午前三時です」
 ■■■は若干不安そうに見ていたが、「そいつと話しすぎると虹が三色にしか見えなくなるぞ。ヤバいね」と言う。「世界は再生され続けてるうちにぶっ壊れていく、それを調整せずにいるからこういうふうになるってことだね」
 私に似た人は「彼は主観に私を入れるのを拒んでいますね」と言った。
 ■■■はぼんやりと言う。「空の上を見てみるんだ。虹を作る機械がある。人間の頭をおかしくさせる機械だよ」「へえ」「帰り支度をしなきゃならない時間かな?」「ああ」「前に話してくれた革命はどうなった? 着々と準備が行われているか?」「そうとは限らないよ」「ああ、容易じゃない話さ。点滅する信号を見てみなよ。一様にみんな不安な顔になる。点滅が一定の間隔に設定されているのさ。それは教義だから。古代の宗教の教義だ。テクノロジーがもっと偉大だった頃の教義が遺伝子に書きこまれてるのにほとんどみんな気づいてないんだ。オレたちは穴を掘るしかないね、固い地面に。爆弾で吹っ飛ばしてできた穴をさらに掘るんだ。 ■■軍閥は世界を掘り返そうとしてるよ。混沌の海をだ。オレはもう付き合うつもりもないし本格的な放浪者になる。間違いなくね。今年にはいって決意できたんだ」
 ■■■は知らぬ間に十二歳くらいになっていた。無精ひげがない彼を見るのは久々だ。それは今まで記憶の中にしかいなかった。
「アルコールを飲みたいね、今だからこそ」
 彼の声はほとんど女の子みたいだったし顔もそうだった。それは私と似ていた。
 我々はほとんど、三つ子だった。
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