１４ 不名誉の探索～追跡
「よろしく頼むよ、兄弟」
なぜか俺がアニーに濡れ衣を着せた犯人探しを手伝うことになった。まあ少ないながらも報酬をくれるというし、なるべく切った張ったは避けようと思っていたが、主にアニーが戦うそうだ。俺はパトリックとともに悪魔憑きに襲われたときみたく、身を守ることに専念すればいいだろう。
出発前、一瞬肝を冷やす出来事があった。アニーが、数日前賭場でカモにしてやった〈ジャズ〉という吸血鬼を追うことを宣言したとき、それまでにやにやと笑うだけだったマリオットがいきなり短刀を抜いてアニーに切り付けた。アニーはノーモーションの振りを少し首を傾けるだけで回避した。既に知っていたかのように。いや、知っていたのだ。彼女の顔に巻かれた布にじわりと血の染みが滲んだ。
「なんのつもりだい？ 吸血鬼の前にあんたと喧嘩しなきゃならないのかい？」
「へっ、力が鈍ってねえかチェックしただけだ。『油断大敵』」初めて俺はマリオットの声を聞いた。砂が喉に詰まったようなざらざらした低い音だった。「いつも言ってるだろアニー・スティグマ」睨むアニーに対しへらへらと陰気に笑って、「『笑う角には福来る』」
去り際、軍曹はアニーに言っていた。「まあいよいよもってどっかに加入すんのを考えた方がいいだろうな。教団や公社がいやってんなら、〈巡邏団〉との話を纏めんだな、意地張んのもいいが仕舞いにゃ灰だぜ」
俺達は地下鉄の線路に並行して続く、足首まで汚水が溜まった下水路じみた道を進んでいた。
「シムノン軍曹が言ってた〈巡邏団〉ってのは？」
「〈ドロウレイス地下巡邏団〉、まあ自警団だね」
「なるほど」ここらの衛兵は小銭を稼ぐことと小悪党を小突くことしか興味なく、教団や公社の魔女たちは魔族の相手で忙しい。住民を守る組織は必要だ……どんな形であれ。
「実態は盗賊ギルドだけどね」
「ああ、やっぱそうか」
二百年ほど前に解体されたはずの盗賊ギルドは、都市同盟全域で名を変えて存在し続けている。都市の暗がりに潜んだり、おおっぴらにやったり。さっきの反応を見ると、汚職衛兵たちとも知らぬ仲じゃなく、というか癒着してるようだし、はぐれ魔女たちも無関係じゃいられないだろう。
「私ぁ生まれてこのかた集団行動ってやつがどうも苦手でね。誘いはなんどもあったんだけどやんわり断り続けてたんだ。けどまぁ、これを期に入っちまうかね」
「今彼らのアジトへ向かってんだろ？ どこなんだい？」
「前に行ったことあるだろ。私らが最初に出会ったとこさ。しかる後ジャズのヤツを探し出して脳みそをぶちまけてやるさ……余裕がありゃどっか踊り食いさ……」
アニーは〈ブルーム〉を握り締めてへらへらと言っている……冤罪を吐かせるために殺してはいけないってのを忘れちゃいなければいいけど……