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20 降り始めた夕立

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   20 降り始めた夕立

 その人物に初めて出会ったのは放置区域の調査を終えて、公社へ報告へ行く最中だった。最初に空気の涼しさを感じた。ドロウレイスは常に蒸気で熱されているはずなのに。そして雨の匂い。
 曲がり角から一人の少女が現れた。懐かしの〈火の学院〉の灰色のローブを着ていて、手には黒革の傘、腰には金属製の、古びたフリントロック銃。目を引くのは頭髪で、三課の人間のように白いが、わずかに蒼みがかっている。微妙に光を発しているようにも見えた。エーテルが揺らめいているのだ。実際に見るのは初めてだが、どうやら彼女は〈彩色〉、異常な量の生体エーテルを内包し、その一部が溢れ出ている特異能力者だ。超人といってもいいかもしれない。俺たち魔導師が、節約しながら使う魔法をほぼ無制限に使えるのだ。帝国の歴史の中に現れる英雄にも多く存在し、初代皇帝の次男で〈火の学院〉設立者であったレオナルド一世が〈彩色〉の髪をしていたという。確かこのドロウレイスを築いた聖チャールズもそうだったはずだ。
 彼女は俺に近づいてきて、公社の位置を尋ねた。俺は彼女が所持している傘と銃が魔法具であることに気づく。〈黄金時代〉のレプリカであっても、馬鹿みたいな値がつくしろものだ。こう見えて、遍歴の冒険者なのだろうか。俺は探りを入れることにした。
「君は冒険者? 見たとこ〈火の学院〉の卒業生らしいけど」
「いえ、わたしは中退です……いろいろあって」
「なるほど。俺も学院にいたんだ」と言うと、彼女は分厚いモノクルをかけた目で俺をじっと見て無表情のまま、「最近どうですか?」といきなり尋ねてきた。
「どうって?」
「調子とか……」
「まあ、相変わらずといったところかな、魔法を使えるってのは実際、だいぶ有利だと思うよ、仕事はいくらでもあるし」
「……」
 俺は彼女が沈黙し始めたので、何か変なことを言ってしまっただろうか、と考えるが特に心当たりはないし、さっさと公社の場所を教えて去ろうとしたとき、
「そういった経験はあとで生きてきますね……」と言った。
 俺は終わったと思った会話を再開する。
「うん、生きてくるよ」
 が、再び沈黙。
「……」
「……」
「……誰も言わないようなことなのですけど」
 何がだろう? 
 俺は言った、「……そう、確かにあまり言われないことだけど」
「……」
「……」
「ひとかどの戦いが行われているわけですね……」
「うん、ひとかどの戦い」
「……うちの家系はそうなのですけど」
「ああ、そうなのかい」
「色々回って来ました……」
「うん」
「先輩の考えを伺いたいのですけど……」
「……まあ普通かな」
「……」
「……」
 俺は何を言っていいのかよく分からなかった。
「ああ、名乗るのを忘れてたけど俺はヴァーレインっていうんだ。君は?」
 少女は名乗った。「わたしはシャーロット・デンジャーフィールド」
「……」
「……」
「ではこれで……」
「ああ……」
 その後少し進んでシャーロットは公社の位置を聞いていないのを思い出して戻ってきた。
20

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