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8 都市の人々~気分屋のマーリン

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   8 気分屋のマーリン

 仕事を終えて小銭が入ったのでビールを飲みながら歩いていると、発電施設の上の鉄橋で呼び止められた。眼下に蒸気がもうもうと立ち込めてる。
「なあ、火貸してくんない?」金髪を後ろで束ねた若い狩人だ。二課の遊撃隊員らしい。煙草を口に咥えている。
 俺は腰に下げた杖を抜いて、先端に小さな火をおこし、つけてやった。
 相手はひどく咳き込んでいる。「大丈夫ですか?」
「うぇ、いやあ初めて吸ったんだけどこりゃ良くねえな。やめよう。やるよ、あんたに」と、煙草の箱を押し付けられた。
「なぜ吸おうとしたんですか?」と聞くと狩人は明瞭に、
「なんとなく。あんた冒険者か? よくこんなひでえ街に来たもんだな?」
「近かったから。国境越えてすぐの城塞で」
「ああ、帝国の人? 対岸のエンゼルストンのがまだいいとこじゃねえ? 俺は出身そこなんだ」
「どうしてこっちに?」
「なんとなく。ああ、俺はマーリン・マーレイってんだ」
 彼としばしの間雑談をする。ほとんどマーリンの発言は力ない愚痴だった。
「結局のところ」彼は帽子を脱いで髪の毛をかきむしる。「教団の遊撃隊ってのはほとんど冒険者とか、賞金稼ぎと違わねえんだよな。一番下っ端で、あんまし評価されねえ仕事だよ。給料も安い。基本給がね。でまあ歩合なんだけど、俺くらい貧弱なヤツは出遅れて空きっ腹かかえて今みたいに暇潰しするっきゃねえのよ。俺らの仕事を英雄的だと考えてるやつが未だいるんだけど、たんなる汚れ仕事だよ。覚えとくといいぜ、この街じゃ全部そうだってな。俺たち教団、衛兵、公社、どこも退屈なイカれた野郎どもがぶつぶつ言いながら、ごみを片付ける単純作業やってるだけなのさ」
 話してる間じゅう彼は火の消えた煙草を手に持って、再度咥えたり、口から離したりした。
「公社の仕事はどうよ。ダルいだろうし、いや、ダルくない仕事なんざこの世にねえが、手続きのたびあのイカれた魔女どもに会うのはきついんじゃねえか?」
 俺は最初に会った、変な質問をする少女の話をした。
「ああ、カサンドラだな。〈道化〉のキャシーで通ってる、だいたいああして見ず知らずの客に対して禅問答を行う迷惑な小娘さ。だけど流血とか金銭トラブルをともなわないぶん可愛げがあるんじゃねえかな。そのキャシーとかほかの魔女とか公社のダルい仕事にウンザリして、教団の下働きやりてえんたったらオレが用立ててやってもいいぜ。こっちもそう素晴らしいってわけじゃないけど、まあ好みだろな」
 俺はどうしてさっき会ったばかりの人間にそう親切にしてくれるのか尋ねた、すると、「なんとなく。強いて理由を言うなら、俺も冒険者だったからさ」
 別れ際彼は言った。「人生は冒険だよ。いい冒険か、悪い冒険かは分かんねえけど。ほとんど退屈だってのだけは確かだな」
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