【序】
「E市に勤務する職員(24歳・女性)を懲戒処分。」
地方新聞社会面のベタ記事。
市政記者クラブからのプレスリリースを、おざなりにまとめました、という感じの内容である。
記事中、実名は出ていない。基準に照らして、そのレベルには達していなかったのだろう。
もっとも狭い地方都市のこと、だいたいの人間は、誰のことなのかという見当はついている。
もちろん、俺もその名前を知っている。
けれど、ここでは「Y香」という仮名で話をさせて頂きたい。
なんら意味はないと理解できていても、名前を書いてしまうと、
あまりにも生々しくその人自身を思い出してしまって、悔しさと、やるせなさで、涙が、止まらなくなるから――。
【1】
19××年、春。
俺とY香はそろって、地元ではそこそこ「良い」と言われている、大学に入学した。
いわゆる「駅弁」というやつで、これには地方出身者にしか理解し得ない、謎のブランドがある。
「あんたのとこの息子さん、○○大に行っとってですってね。」
と、親戚同士の集まりでちょっとした話題になるといった程度の、東京一極集中が進む日本においては、その価値を下げ続ける一方のブランドである。
話を戻す。
俺は、「○○大に行っとってですってね。」と言われることも誇らしかったが、なによりY香と同じ大学に通えることが楽しみでならなかった。
小学校以来、ずっと同じ学校だったから、何かと接触の機会は多かったのだが、ついにそういった関係にならなかった。
俺もY香も、究極に奥手だったから、「そんなことはまだ早い」という意識がどこかしらにあったし、お互い実家住まいであったから、間違いも起こりようがなかった。
しかし、大学は、お互いの住んでいる実家を離れて、下宿である。
おまけに、年齢も年齢だ。いくら奥手だといっても、二十歳前後の男女、何かあってもよいのではないか――。
当時の俺は、平和で幼稚で独り善がりな妄想に浸っていた。
あらためて、気持ち悪く思う。