ヤガミヒメの元へ辿り着いた八百神の兄神達は、こぞってヤガミヒメに求婚します。
「ヤガミヒメーッ! 俺だーッ! 結婚してくれー!」
「別に」
「ヤガミヒメーッ! 俺だーッ! 好みのタイプとか教えてくれー!」
「特にないです」
ヤガミヒメは、兄神達の求婚をことごとく断り続けました。結局、兄神達の誰一人、ヤガミヒメに求婚を受け入れてもらえる事はありませんでした。
そこへ、兄神達の荷物を抱えながら、更にイナバの治療をした事で大幅に遅れてしまったオオナムヂが到着します。オオナムヂの抱えた大荷物を見て、ヤガミヒメは驚きました。
「どうして貴方は、そのように沢山の荷物を持っているのですか?」
「これは、お兄ちゃん神達の荷物です。私が持てば、お兄ちゃん神達は楽なので、ここまで持って来ました」
「何と言う優しさ……! 惚れてまうやろー!」
こうしてヤガミヒメは、オオナムヂの求婚を受け入れました。
これに激怒したのが、兄神達です。自分達の求婚が受け入れられなかったのはともかく、よりにもよって落ちこぼれのパシリ弟であるオオナムヂにヤガミヒメを奪われたのが、相当気に食わなかったのでしょう。
「オオナムヂのくせに生意気だ!」
「野郎オブクラッシャー!」
兄神達は、オオナムヂ殺害の為の計略を張ります。それは、山にイノシシの化け物が出たから退治してくれと嘘をつき、火のついた岩石を転がし落として、それでオオナムヂを押し潰し殺してやろうというものです。
「山にイノシシの化け物が出たから退治して欲しいんじゃ。嫌ならやめてもいいんじゃよ?」
「えっ、それは大変だ! 僕に任せてよ、お兄ちゃん!」
あんな仕打ちを受けても、お兄ちゃん神達が大好きで信頼しているオオナムヂは、兄神達が困っているのを見過ごしませんでした。こうして、一人でイノシシ退治に出掛けます。
「だまして悪いが(ry」
兄神達は、まんまと騙されて森に入ったオオナムヂに向かって、火のついた岩石を転がし落としました。それを見たオオナムヂは、火のついた岩石をイノシシと勘違いし、それを受け止めます。
「熱っ!? このイノシシ熱っ!? あれこれイノシシじゃない、岩石だっ!?」
気付いた時にはもう遅い。オオナムヂは、焼けた岩石に押し潰されて死んでしまいました。
オオナムヂが死んで、お母さんである刺国若比売(サシクニワカヒメ 以下:カーチャン)は、大層悲しみました。
悲しんで悲しんで、遂に息子であるオオナムヂを生き返らそうと、神々の世界にいる神産巣日神に相談しに行きます。
絶対忘れてると思うので確認しましょう。神産巣日神(かみむすひのかみ 以下:タガナシ)です。一番最初に出て来てすぐ消えた最初の神様の一人です。「マジで一切出て来ない」とキッパリ言ったばかりだったのに……スマン、ありゃウソだった。
「タガナシ様。私の息子が、不幸な事故で死んでしまいました。生き返らせてください」
「いいよー」
タガナシは、赤貝の神様である討貝比売(きさがひひめ 以下:アカガイ)と、蛤の神様である蛤貝比売(うむぎひめ 以下:ハマグリ)を遣わしました。何となくえっちな神様ですね。何がとは言いませんが。
アカガイとハマグリは、赤貝の粉と蛤の汁を混ぜ合わせて、特別な魔法の薬を作りました。わかりやすく言うと、生き返るエリクサーです。
カーチャンが、この魔法の薬を受け取り、オオナムヂの遺体に塗り付けました。すると、何という事でしょう。死んだはずのオオナムヂが生き返ったではありませんか。
これに驚いたのが、兄神達です。
「オオナムヂ!? 殺されたんじゃ!?」
「残念だったなぁ、トリックだよ」
しかし、懲りない兄神達は、またしてもオオナムヂを殺す為の計略を張ります。今度は、木を縦に真っ二つに裂いて、グイーと広げた状態で真ん中にオオナムヂを立たせ、バッチーンと挟んで殺してやろうというものです。
「なぁなぁ、オオナムヂ。お前、ちょっとここ来てみ? ここ立ってみ?」
「何なに? ここでいいの?」
懲りないのはオオナムヂも一緒でした。前回殺されたにもかかわらず、相変わらず兄神様達が大好きなオオナムヂは、疑いもせずに、縦に裂かれた木の真ん中に立ちます。
「だまし(ry」
こうしてオオナムヂは、木の間にバッチーン! と挟まれました。で、死にました。
オオナムヂが死んで、カーチャンは悲しみました。
しかし、そう何度もタガナシに頼むのも気が引けます。例えるなら、バイトのシフトを変わってもらおうとしてるけど、二週間前に変わってもらったばっかりで、流石にこうも短い期間で何度も頼むと気が引けるあの感じです。
色々考えた結果、カーチャンは、とりあえず気とか生命力とかそれ系のを籠める思いで「エイヤー!」と叫びました。
そしたら何か生き返りました。
これに驚いたのが、兄神達です。
「オオナムヂ!? 殺され(ry」
「残念だっ(ry」
しかし、懲りない兄神達は、またしてもオオナムヂを殺す為の計略を張ろうとしました。
ここまで来れば、流石のカーチャンも「それ以上いけない」と思います。
「お前、ここにいたらディアボロ的な感じになっちゃうから、さっさと逃げなさい」
「サンキューマッマ」
カーチャンの助言に従い、オオナムヂは、木国(現代の貨幣価値で換算すると和歌山県である)に逃げました。