昔むかしある所に、丸い水の塊がありました。この大地は後に「地球」と呼ばれる星の事なのですが、その頃にはまだそのような名前はなく、ただ丸い水の塊でした。
そこに、一人の神様が生まれました。どうやって生まれたかはわかりません。お母さんのお腹からではなく、コウノトリが運んで来たわけでもありません。唐突に、その場に生まれたのです。
この神様の名は、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ 以下:アメノミナカ)と言いました。
アメノミナカは、男でも女でもありませんでした。
「何それどういう事?」と思われるでしょうが、そうとしか言えません。アレがついてるのに胸が膨らんでるとかそんな感じでしょうね。要するにふたなりです。
こういった、男とも女ともつかない、つまり性別のない神様の事を、独神(ひとりかみ)と呼びます。
アメノミナカが「どうすっかなー私もなー」とか思ってると、自分と同じように、またまた神様が生まれました。今度は二人です。
この二人の神様は、高御産巣日神(たかみむすひのかみ 以下:タガアリ)と神産巣日神(かみむすひのかみ 以下:タガナシ)と言いました。
三人は、お互いに挨拶をして、丸い水の塊を眺めました。そして、話し合います。
「何これ、水?」
「水じゃね? 知らんけど」
「水だね、でっかい水の塊だね」
「どうすんのこれ、ワケわかんないんだけど」
「いや、そんなん知らんし。私も今ここに出て来たばっかだし、何で出て来たのかも知らんし」
「……じゃあ、何か作る?」
「何かって?」
「いや何かこう……適当になんか浮かせたりとかしてさ、様子見てみない?」
「出来んの、そんな事?」
「いやー、わからん。やってみる?」
そう言って、アメノミナカがこう、ちょちょいと何かしました。すると、水の塊の表面に、ブヨブヨの何かスライム的なものが浮かび上がりました。
「うわ、出来てるし」
「何でそんな事出来んの?」
「知らないよ」
「じゃあさじゃあさ、同じ感じで私達みたいなのも出来るんじゃないの?」
「えー……やってみる?」
「やろうやろう」
同じようにすると、何か本当に出来ちゃいました。しかも二人出来ちゃいました。そうして生まれた神様達は、宇摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこぢのかみ 以下:ウマシア)と天之常立神(あめのとこたちのかみ 以下:アメノト)と言いました。
「何で出来るんだよ、マジで」
「知らないし。一番ビビってるの私だし。ひくわー」
「じゃあもう、色々な事はアメノミナカに任せるわ。私(タガナシ)とタガアリは帰る」
「え、マジで? お前ら何しに来たの? 帰るってどこによ?」
「いやー、わからん。まぁ、適当に……」
こうして、タガアリとタガナシはどっか行きました。そして今後、マジで一切現れる事はありませんでした。
「あ、じゃあ私達も帰ります」と、ウマシアとアメノトが言いました。
「お前ら出来たばっかじゃん。それこそ本当に何しに来たんだよ。さっきも言ったけど、帰るってどこによ?」
「いやー、わかんないっす。まぁ、適当に……」
「お前らそればっかじゃん」
とか何とか言ってる間に、ウマシアとアメノトはどっか行きました。そして今後、マジで一切現れる事はありませんでした。
「うーわ、一人とか……じゃあ、私も帰るわ」
そう言って、アメノミナカも帰りました。そして今後、マジで一切現れる事はありませんでした。
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ブヨブヨしたスライム的な何かが大地に成長した頃に、またまたまた神様が現れました。
しかも、今度は一気に十二も現れました。更にさらに、何と今度現れた十二の神様のうち十は、男と女の区別がありました。
残念ながら、この十二の神様のほとんどは、前の神と同じように何もしない神様でした。どのくらい何もしなかったかと言うと、一部はウィキペディアですら該当の項目がないくらい何もしませんでした。
しかし、この十二の神様のうち、二の神様は、神様らしい仕事をめっちゃ頑張りました。そして後世にまで名を残す、初めてのちゃんとした神様となりました。
この二の神様の名を、伊邪那命(いざなぎのみこと 以下:イザナギ)と伊邪那美命(いざなみのみこと 以下:イザナミ)と言いました。
イザナギとイザナミは末っ子で、何もしないくせに命令はするお兄ちゃんお姉ちゃん達に言われて、地上に国を作る事になりました。
「……でも、国を作るとか、どうすればいいのかしら?」
「じゃあもうこのブヨブヨしたスライム的なのに塩入れて槍で混ぜてさ……終わりでいいんじゃない?(適当)」
そう言って、イザナギが海に塩をサッー! と入れて、「恋の塩混ぜ混ぜよ~」とか言いながら槍で混ぜると、それが大陸になりました。
そんな中で、イザナギとイザナミは、お互いの体の違いに気が付きます。
「何かイザナミ、胸が膨らんでない?」
「そういうイザナギこそ、股の間に何かついてない?」
二人は、お互いに驚きました。そして、
「多分、このお互いのあるとこないとこをくっつけあったら、子供が出来ると思うんですけど(名推理)」
と、マジキチかつ的確な発想に、何のヒントもなく唐突に思い当たりました。
「じゃあ、子供を作りましょう。それで、その子供達に、国を作るのを手伝ってもらいましょう」
と、イザナミは言いました。
そうして、イザナギとイザナミの間に子供が生まれます。しかし、これは悲劇となりました。
生まれた子供が、不完全だったのです。この子供は蛭子命(ひるこのみこと)と名づけられましたが、ほどなくして、船に乗せられ流されてしまいます。
その後二人は、もう一度子供を作ります。しかし、次の子も、不完全な子供でした。「あはしま」と名づけられたこの子供もまた、流されてしまいます。
どうしてこうなるのか? そう思い悩んだ二人は、お兄ちゃんとお姉ちゃん達に相談します。
すると、お兄さんとお姉ちゃん達は、こう言いました。
「イザナミ(女性)の方から誘うから駄目なんじゃないの? イザナギ(男性)の方から誘えばいいんだよ」
「わかった。じゃあ次からは俺の方から誘う」
そう言って、今度はイザナギの方から「子供を作りましょう」と誘い、イザナミが「わかりました」と言いました。
すると、お兄ちゃんやお姉ちゃんの言う通り、今度は立派な完全な子供が生まれたのでした。そしてイザナギとイザナミは、次々に、二十人近く子供を産んだのです。
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順当に子供を産み続けるイザナギとイザナミでしたが、悲劇が起こります。
いつものように子供を産もうとしたイザナミが、子供を産む過程で、大火傷を負って死んでしまったのです。
そう、大火傷です。その時産もうとしていた神が、火の神だったのです。結果、後に火の神となる火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ 以下:カグツチ)は無事産まれましたが、イザナミは死んでしまいました。
それに対し、イザナギは、それはそれはもうキレました。マジギレしました。ただ、キレたのは、イザナミが死んでから結構後でした。恐竜並の感情伝達の遅さでした。
「お前のせいで俺の嫁が死んだだろ! もう許さねぇからなぁー」
そう言って、カグツチを、十拳剣(とっかけん)で斬り殺してしまったのです。
その後イザナギは、来る日も来る日も今は亡きイザナミに恋い焦がれ、泣き続けました。
そうして、遂にイザナミを忘れられなかったイザナギは、死んで黄泉の国にいるイザナミに会いに行ったのです。
イザナギは、イザナミに会う事が出来ました。そしてイザナギは、イザナミに、こう言いました。
「一緒に帰って、また二人で子供を産もう」
「いや、無理っぽいのよね。私、黄泉の国の食べ物食べちゃったし。黄泉の国の食べ物食べちゃうと、もうそっちには戻れなくなっちゃうのよ」
「マジでぇ……? 困るわぁ、超寂しいんだけど……」
「しょうがないわねぇ。せっかく来てくれたんだし、ちょっと黄泉の国の神々に相談してみるわ。もしかしたら何とかなるかもしれないし」
そう言って、イザナミは、黄泉の国の神様に相談しに行く事にします。その途中で、イザナミは言いました。
「私が黄泉の国の神様と相談している間は、絶対に覗いたりしないで下さいね」
こうしてイザナギは、イザナミが黄泉の国の神様と相談し、結論が出るのを「まだかなー」とか言いながら待つ事になります。
しかし、よほど時間が経ったのか、それともただ単にイザナギがせっかちだったのかはわかりませんが、イザナギは待っていられなくなりました。
加え、「覗くな」と言われてしまっては覗きたくなるのが人の性です。「覗くな」という事は「覗け」という事なのだとテレビの偉い人も言っていました。
結果、イザナギは覗きます。しかし、イザナミがいるはずのその場は真っ暗で、何も見えません。
そこでイザナギは、頭につけていたクシを外し、左右端っこの太くなっている歯の片方を折って、それに火を点けて明かりを得ました。
そこにぼんやりと浮かび上がったのは……腐って蛆が湧いたイザナミの姿でした。バイオハザードのゾンビみたいな事になっていたのです。まだちゃんとホラーしてた頃のバイオの一番最初のムービーみたいな感じです。
「見ぃ~たぁ~なぁ~!」
「うわ怖っ!? イザナミ顔怖っ!? キャー!」
「この姿を見られたからには生かしちゃおけないわ! 伊弉諾命、かくごー^^」
「ば、化け物だぁー! ひえー、お助けー!」
「お前いくら何でも『化け物』は普通に傷つくわ」
イザナギは、醜く変わり果てたイザナミの姿に、千年の恋も冷める勢いで一目散に逃げ出します。
そんな姿を見て、イザナミは、それはそれはもうキレました。ヒスりました。そりゃ生前あんだけ好き好き言ってた旦那が、スッピン見た途端に化け物を見たように逃げ出せばキレます。そりゃそうです。
イザナミは、黄泉醜女(よもつしこめ 以下:ヨモツシコメ)という黄泉の国の不細工な女性にイザナギを追わせる事にします。ヨモツシコメは「あんな男、イザナミ様の出るまでもありません。私が仕留めますよ」とか言ってイザナギを追い掛けました。
「待ぁ~てぇ~!」
「うわ何かブスが追いかけて来た! それ逃げろやれ逃げろー!」
「お前マジで少し言葉選べ」
イザナギは必死で逃げますが、ヨモツシコメは、それはそれはもうめっちゃ足が速いのです。人間と電車がかけっこするようなものです。あっという間に、イザナギはヨモツシコメに追いつかれそうになりました。
「追いつかれちゃう、やばいやばい。よし、こうなったらこれだ!」
そう言って、イザナギは、頭に髪ゴムみたいな感じで巻いていたブドウの蔓をほどいて、後ろ手にヨモツシコメに投げつけました。すると、ブドウの蔓から、みるみる内に美味しそうなブドウがなり始めたではありませんか。
「おっ、ブドウやんけ! いただきまーす! うん、美味しい!」
「うわぁ、『ブドウやんけ!』とか言った……うーわ、めっちゃ食うとるで……ひくわぁ……」
地面に落ちたブドウをむしゃこらむしゃこら食べるヨモツシコメにドン引きしながら、その隙にイザナギは逃げました。ヨモツシコメは、沢山なったブドウをあっという間に平らげて、ふいーとか言ってます。
「いやー食ったわぁ……。あっ、やべぇっ! イザナギ追いかけないと!」
目的を思い出したヨモツシコメは、再びイザナギを追い掛けます。とにかくヨモツシコメは足が速いので、またしてもイザナギは追いつかれそうになりました。
「追いつかれちゃう、やばいやばい。よし、こうなったらこれだ!」
そう言って、イザナギは、今度はもう一度頭につけていたクシを外し、残ったもう片方の歯を折って、ヨモツシコメに投げつけました。すると今度は、折ったクシの歯から、みるみる内に美味しそうなタケノコが生え始めたではありませんか。
「おっ、タケノコやんけ! いただきまーす! うん、美味しい!」
「うわぁ、『タケノコやんけ!』とか言った……うーわ、めっちゃ食うとるで……ひくわぁ……」
地面から生えたタケノコをむしゃこらむしゃこら食べるヨモツシコメにドン引きしながら、その隙にイザナギは逃げます。
ブドウとタケノコを沢山食べたヨモツシコメは、お腹が一杯になりました。で、満足したので帰りました。
すると今度は、ヨモツシコメとは違う黄泉の国の住人に、イザナギを追わせる事にします。八雷神(やくさのいかずちのかみ)と呼ばれる八人の神様です。彼らは、イザナミが黄泉の国の食べ物を食べた事でイザナミの体に生まれた神様です。
「ヨモツシコメがやられたようだな……」
「フフフ……奴は四天王の中でも最弱……(八人)」
「イザナギ如きに追い払われるとは、四天王の面汚しよ……(八人)」
八雷神達は、千五百人の軍勢を率いてイザナギを追い掛けました。イザナギ一人に総勢千五百八人です。必死です。もう本当、超必死。
「うわ超来た! めっちゃ追われてるめっちゃ追われてる! あっち行けー!」
イザナギは、腰に差していた十拳剣を後ろ手に構えて、八雷神と千五百の軍勢を威嚇しながら逃げました。
「うわ、コイツ刃物振り回し始めた! ないわー」
「怖っ! 刃物怖っ! 後ろ手に持った刃物超怖いっ!」
イザナギが後ろ手に構えた十拳剣を見て、みんなはビビります。そうしてイザナギは、何とかかんとか、黄泉の国と現実世界の境にある黄泉比良坂(よもつひらさか)に辿り着きます。しかし、安心してはいられません。このままでは、いずれ追いつかれてしまいます。
するとイザナギは、黄泉比良坂に、一本の桃の木が生えている事に気が付きました。
「来た! 桃来た! メイン桃来た! これで勝つる!」
イザナギは、桃の木から桃を三個ちぎると、八雷神と千五百の軍勢に投げつけました。
「桃かな?」
「アイエエエ!?」「モモ!? モモナンデ!?」「コワイ!」「ゴボボーッ!」
「悔しい……! 桃さえなければ、イザナギなんかに負けないのに……!(ビクビク)」
不思議な事に、桃を三個投げつけられた八雷神と千五百の軍勢は、ふにゃふにゃに力が抜けてしまい、イザナギを追う事が出来なくなってしまいました。
「桃の木のおかげだ。助かった、終わったと思ったよ。今、私にしてくれたように、これからも地上世界を助けてやってくれよなー頼むよー」
そう言って、イザナギは、その桃の木に、意富加牟豆美命(おおかむずみのみこと 以下:オオカムズミ)と名を与えてやりました。
一方で、イザナミはもう怒りの沸点限界突破です。そして遂に、イザナミ自らがイザナギを追う事になりました。
しかし、いくら何でも距離が離れすぎていました。例えるなら、百メートル走で、イザナミはスタートラインから走るのに対して、イザナギはゴールテープの目の前からスタートするようなものです。追いつけるとか追いつけないとかの問題ではありません。
イザナギは、黄泉比良坂の入口を、千人掛かりでようやく持ち上げられるような岩石で、ズシーンと塞いでしまいます。すんごい力持ちです。
それからはもう、岩石越しの口喧嘩です。その時、イザナギは、よほど辛辣な言葉をイザナミに言ったのでしょう。どのような事を言ったのかはわかりませんが、ともかくこれを受けて、いよいよイザナミはブチ切れました。激オコです。そして、イザナギに、一つの呪いの言葉を言ったのです。
【予告】イザナミだけどイザナギの国の生命を一日千個絞め殺す【絶対実行】
1 名前:イザナミ◆IZANAMISAN ID:???
むしゃくしゃしてやる。誰でもいい。今も反省するつもりはない。
2 名前:以下、転載禁止で黄泉の国がお送りします ID:???
糞神託立てんな
3 名前:以下、転載禁止で黄泉の国がお送りします ID:???
これはアカンやつですわ
通報します他
4 名前:以下、転載禁止で黄泉の国がお送りします ID:???
また君か穢れるなぁ……やっぱり穢れてるじゃないか(憤怒)
5 名前:以下、転載禁止で黄泉の国がお送りします ID:???
2げと
それを聞いたイザナギも負けてはいません。イザナミの「貴方の国の生命を一日千個絞め殺しましょう」というその発言に、こう返しました。
【予告】イザナギだけど一日千五百個産む【絶対実行】
1 名前:イザナギ◆IZANAGIKUN ID:???
イザナミが千個絞め殺すらしいからワイは千五百個産むやでー
2 名前:以下、転載禁止で黄泉の国がお送りします ID:???
マジかよイザナミ最低だな
3 名前:以下、転載禁止で黄泉の国がお送りします ID:???
盛大な事言ってる割にはやってる事が子供の喧嘩で草が口の中に広がりOCです
4 名前:以下、転載禁止で黄泉の国がお送りします ID:???
もうやめにしませんか。
5 名前:以下、転載禁止で黄泉の国がお送りします ID:???
2げと
こうして、イザナギとイザナミは永遠の別れをします。
そして、この時のイザナギとイザナミのやり取りが、その後の生命に「自然死」という概念を与えたと言われています。事故とか病気でなく、老衰とかそういう「年月を経ての自然な死」という事です。