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脱糞オチ

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 ハイパートイレに行きたい。

 俺の独白だ。
 んな事は言わなくてもわかってると思うが、ウォシュレットに音姫に自動洗浄機能を搭載したハイパートイレなる次世代型高機能トイレを求めているわけではない。
 今ものすごいうんこがしたいのだ。ハイパー、トイレに行きたいのだ。
 ああ、ものすごいうんこがしたいって言っても浦安鉄筋家族のオチみたいな大便をこの世にぶちまけたいと言う意味にも取れるな。
 そうじゃない。
 俺は、速やかに、排泄活動を、試みたいのだ。

 しろよ、と言う声が聞こえた。
 ああそうだな。するべきだな。
 できるならしている。貴様に言われずともな。
 失礼、ちょっと気に障る言い方だったかもしれない。まあ俺の心情を汲み取って欲しい。
 状況を説明しよう。
 今俺の目の前にはトイレと廊下を隔てるドアがある。トイレッツドアだ。ザドアオブトイレット~天界の門~だ。
 この中は天国だ。何をしても許される。
 素っ裸でペニスをエレクチオンさせてランペィジするのは自室でもできる。風呂場でもまあ可能ではあるだろう。
 だが高校生にもなってうんこをして許されるのはトイレを置いて他にはない。
 トイレは聖域だ。治外法権なのだ。
 これが無くなったら世界は混乱と異臭に包まれるだろう。そのくらい重要な場所なのだ。
 そして俺はその外側でドアに爪を立てている。
 歯茎から血が流れ出る程に上顎と下顎を噛み競わせつつ、一族の仇を見るような尋常ではない眼で木目を睨んでいる。
 内股になり生まれたての子鹿のように震えながらも腹は一昔前のダイヤルアップ接続音じみた不協和音を奏でている最中だ。
 この狂想曲はあと一分後には葬送行進曲へと変わるだろう。
 気を抜けば一瞬で俺は死ぬ。社会的に。
 そんなわけで長ったらしくくどくど言ってるのは別にラノベの主人公ぶってるわけではなく、単に気を紛らわしているだけなのだ。
 気を悪くされたら申し訳ない。
 長々とうんこをひりだす光景を丁寧に幻想的かつエレガントにのびのびと描写するよりはマシだと思って勘弁願いたい。
 マジで。

 この中には誰がいるか。妹だ。マイリトルシスターだ。
 顔か。まあ整っている方ではある。ジム・キャリー似の可愛い妹だ。
 すまん嘘だ。まあ脱げば売れる程度の顔とは言っておこう。
 妹がトイレを占拠している。
 うんこをしているのかオナってんのか漫画を読んでるのかはたまた俺が昨日勝手にプリン食った事を根に持って嫌がらせしているのかは知らん。
 とにかく、中身は妹だ。
 「開けろォ! ここをッ! 今すぐにだッ!」
 そう叫びつつ俺はドアを激しく叩いて妹のリアクションを待った。
 その勢いはもはやノックとは言えない。ナックルである。拳は皮が向けて血が滲んでいるが、それで止まるようなヤワな右手じゃない。
 ドゴォ、ドゴォ、とドアをぶち破るが勢いで放たれたる素拳はなおも振るわれる。
 明日を求めて。assを止めて。
 すると妹のだるそうな声が奥から聞こえた。
 「やだなぁお兄ちゃん、うんこなら昨日したでしょ」
 あ。
 この声のトーンは根に持ってるパターンや。
 にやついてる妹の顔が目に浮かぶ。
 「! 貴様ッ……殺すぞッ! 出ろッ! 今すぐ出ないと殺してやるッ……!」
 タクティクスオウガのイベントより悲痛で鬼気迫った呻きが喉から漏れる。
 喉以外のとこからもそろそろ何か漏れそうだ。
 爆発まであと30秒もない。
 「貴様の部屋のドアノブを肛門に突き刺して脱糞し二度と部屋に入れないようにしてやるぞッ!!」
 「そんな脅しは効かないよ、ヴァイス」
 誰がヴァイスだ。
 だが確かにその通りだ。今のは脅しである。
 いくら俺がうんこを妨害されているからと言って、可愛い妹にそんな酷い事できるはずないじゃないか。
 せいぜいドレッドノート級のうんこを写メで撮って妹のLINEのプロフ画像に設定するくらいだ。
 「言っても聞かないんなら、このドアをぶち破るまでだッ……!!!」
 「できるかな? お前に……」
 「できるできねぇの話じゃねぇッ!! やるんだよッ!!!!!!」
 咆哮と共に俺の右肘が木版に窪みを入れた。
 「……!」
 妹が息を飲む音が、僅かに聞こえた気がした。
 俺は未だかつて、妹を本気で殴ったことは一度もなかった。ただの一度もだ。
 故に、俺の実力を妹は知らない。
 ムエタイを使わせたら敗北知らず。俺の肘は、金属バットのフルスイングをも撃ち落とす……!
 「パンツくらいはいとけよ、アホ妹め……ッ」
 一撃、二撃。
 ベルリンの壁をツルハシで壊す民衆のように、俺のエルボーが絶望を穿つ。
 骨が軋む。筋肉が悲鳴を上げる。皮がめくれる。
 止まらない。
 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!」
 脚は使えない。
 ニーはもちろん、ステップも、踏み込みも入れることは出来ない。
 当然だ。今下半身の封印を解いたらゲートが開放されてしまう。
 俺は上半身の力だけで扉のヒビを広げていく。
 持ってくれよ、俺の肘――
 
 あとアナル――!!

 残り時間は十秒。
 穴が開いた。
 拳大貫通されたそこからは、妹の驚愕する顔が見える。
 俺はズタボロになった右手をそこに突っ込んで、鍵を中から開けた。
 トイレ。トイレだ。
 俺の、トイレだ。
 中にはちょっぴり悲しそうな顔で笑う妹の姿があった。
 「私の負けだね……お兄ちゃん。まさかお兄ちゃんがここまでやるなんてね。思いもしなかった。ちょっとだけ見直したかな。でもプリン食べた件については――」
 
 あ、0だ。
 
 俺の肛門はマダンテを唱えた。
 暴走した魔力が爆発を起こす。


 「簡単には許してあげないんだから――ぐああああああああ貴様ァァァァァァァァ!!!!!!!!! こんな所でェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!」 
 
 妹は死んだ。悪臭で。
 
 悪は去った。
 だがハッピーエンドには程遠い。
 残ったのは、寂しさと、切なさ、そして――
3

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